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認知症のおばあちゃんとわたし

おばあちゃんは認知症。

小さな離島に今もおじいちゃんと一緒に住んでいる。日に日に症状は重くなっているようだが、おばあちゃんの意思を尊重して、おばあちゃんの娘にあたる母たちがかわりばんこでデイサービスや病院に連れて行っている。

車の免許は島の女性で初めて取得し、裁縫も料理も農業だってなんでもできるスーパーマンだった。スーパーウーマンか。ただ、昔から人が良すぎて心配になることもあった。

得意な料理は以前某料理番組にも出演経験があるほどで、レシピを譲ってほしいと言われて渡したら、勝手に違う人の名前で本が出版されても「喜んでくれたから、よかよか。」って。

人を家に読んでお酒を交わすのが大好きなおじいちゃんの為に、一生懸命朝から沢山の料理を準備して、急な予定変更で「もういらん!」の一言で済まされても「また明日自分たちで食べるから、よかよか」って。

わたしだったら鹿児島の桜島のマグマようにそりゃもうドッカーンとブチギレルのに。本当におばあちゃんはすごい。


そんな、何でもできて優しくて愛情に溢れたおばあちゃんが認知症になった。



今はわたしの名前もなかなか思い出せない。


母やおじいちゃんは、”忘れていくこと”に毎回呆れたり、怒ったり、悲しんだり感情をぶつけていた。



「なんで、名前も忘れるの!?」と声を荒げるけれど、そこには愛情があるからこそ悔しさや寂しさが”怒り”にかわってしまう。本人たちはそれに気づいていないけれど。


だから理解するのは難しいかもしれないから、敢えて「忘れることを責めたらだめだよ。医学書にもそう書いていたよ。」とわたしは言う。そう堂々と諭すほど医学書を読んだわけではないけれど。


元々わたしは家族の中で発言権が低いが、昔から自分たちが尊敬する人や、”お医者さん”とか”先生”の言うことには耳を傾けてくれるから、そこを利用するしかない。


おばあちゃんに笑っていてほしいし、できれば周りも笑っている方が良いだろうから。



今年の夏、わたしが突然「仕事を辞めたい」と家族に伝えたとき、やはり否定的な言葉を沢山投げかけられた。


普段家族に相談ごとをしないわたしが、家族に電話するしかない程追い込まれていたのに、尚更追い詰められた。「辞めるなら今すぐ実家に帰ってきなさい」と言われ、もはや違うベクトルに進んでいることは分かっていたが、当時のわたしは仕事を辞めれるならとりあえず何でも良かった。その場しのぎのために、母の言うとおりに地元へ帰った。

無事なんとか仕事を辞めることはできたが、今度は家族にどんどん追い込まれた。望んでないのに”病人”になってしまった。


そんなとき、おばあちゃんに会いにいった。


もちろん、わたしが何の仕事をしていたとか、辞めたことも何もわかっていない。それどころかわたしが今何歳なのかもわかっていない。


会社でズタボロになってしまった状態で実家に戻り、家族と話す度にも自己肯定感や自尊心が失われていく自分が苦しくて、一日中寝たり起きたりを繰り返していると、おばあちゃんが何度も何度も部屋に様子を見に来ては心配そうに話しかけてくれた。


「いつきたのね。」


「さっきだよ。具合悪いから少し寝るね。」


「そうね。いいよいいよ。休みなさいね。お味噌汁食べる?作ろうか?」


「ううん、今はいいよ。ありがとね。」


この会話を5分に一回くらい繰り返した。お味噌汁ももう作り方を忘れているのに。



それでも、こうしておばあちゃんの優しさに触れること、話をできることが嬉しくて、何度も同じ会話を初めてのふりして交わし続けた。おばあちゃんのためじゃない。わたし自身がこの時間に癒された。


「いつ帰るのね?」


「う~ん、仕事辞めたからもう少しゆっくりしようかな」


「そうね。おばあちゃんは体が弱くて学校もちゃんと通えなかったけど、あなたは学校も行って仕事もしてえらいねえ。がんばっとるんだねえ。」



わたしはおばあちゃんがこの言葉をくれることをわかっていて、会いにいったのかもしれない。


”仕事も突然辞めて、心配や迷惑ばかりかけるだめだめなヤツ”という思い看板を背負いながら、立つのもやっとだったわたしを救ってくれたおばあちゃん。


おばあちゃんが色んなことを忘れてしまっても、楽しく生きてくれたら嬉しいな。


おばあちゃんが忘れてしまっても、わたしや周りにくれたあったかい言葉や気持ちはわたしが覚えておくから。大丈夫よ。

相手が誰だかいちいち解明しなくても、もはや知らない人でもおしゃべりが成立するのは、おばあちゃんの昔からの特技だから安心して。


わたしにとっては、たったひとりのおばあちゃん。愛してるよ。



ありがとう。




#たすけてくれてありがとう

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