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詩人リフアト・アルアライールの作品

 昨年、リフアト・アルアライール(Refaat Alareer : 1979 - 2023)という詩人、作家、文学教授、活動家の存在を知った。パレスチナのガザに住む彼がイスラエルの空爆により殺害された直後、たくさんの人がソーシャルメディアで彼の詩を投稿しているのを目にしたからだ。
 昨年10月以降、アルアライール氏は何週間にもわたり電話やオンラインでイスラエル側から誹謗中傷や殺害予告などの脅迫を受けており、度重なる避難を経ていた。そして12月6日、彼の2人の兄弟姉妹とその子ども4人、および1人の隣人とともに亡くなった(ほか親族の女性1人と2人の子どもが負傷)。彼がいた3階建ての建物の2階部分が局地的に狙われたことからも、その攻撃が偶然ではなかったと結論づけられる。2014年にもイスラエル当局は彼の実家を爆撃し、彼と彼の妻の30人以上の家族が亡くなった。(以上、Euro-Med Human Rights Monitor / Literary Hub参考)
 アルアライール氏の英語の詩は、松下新土氏と増渕愛子氏による共同翻訳(『現代詩手帖』2024年5月号, p24-25)など、すでに複数の方が日本語に翻訳しているが、私も自分で翻訳することで彼の言葉を熟読したいと思った。以下に私が出会ったふたつの作品(ひとつは抜粋)を紹介する。

"Gaza Asks: When Shall this Pass?"
「ガザは問う ー これはいつ終わる?」より
(アンソロジー『ガザの光、炎から生まれた著作集』2022年 収録)

It shall pass, I keep hoping. It shall pass, I keep saying. Sometimes I mean it. Sometimes I don’t. And as Gaza keeps gasping for life, we struggle for it to pass, we have no choice but to fight back and to tell her stories. For Palestine.

「この状況は終わる、そう願い続ける。きっと終わる、そう言い続ける。あるときは本気で。またあるときはそんな気もなく。そしてガザが生命をかけて息を飲み続けるように、私たちはこの状況をやり過ごそうともがく。私たちに残された選択肢は、抵抗し戦い、語り続けることのみ、彼女の物語を。パレスチナのために。」

Refaat Alereer
(Literary Hub引用参照) 

 次の詩は、彼が殺害される約1ヶ月前に自身のツイッターに固定したものである。2011年11月 In Gaza, My Gaza! 初出(ヘッダー画像出典)。


"もしわたしが死ななければならないなら、物語にしてください。"
 ー リフアト・アルアライール

もしわたしが死ななければならないなら
あなたは生きなければならない
わたしの物語を語るために
わたしの物を売るために
一片の布切れと
少しの糸を買うために
(仕上がりは白く、長いテイルの、尾の付いたものに)
ひとりの子どもが、ガザのどこかで
天国をじっと見つめ
炎のなか去った父親を待つあいだに
ー 誰にも別れを告げることなく
自身の肉体にさえ
おのれ自身にさえも
別れを告げなかった父親を ー
その子が、凧を見つけられるように、高く舞い上がる、あなたが作ったわたしの凧を
そしてきっと思う、その瞬間天使がそこにいて
愛を注ぎ返してくれると
もしわたしが死ななければならないのなら
その死に希望を運ばせて
その死をテイルに、物語にするのです

Refaat Alereer

 

【2023年6月13日追記】
 リフアト・アルアライール氏は We Are Not Numbers という団体の共同設立者のひとりでもあった。この団体はパレスチナで起きていることがしばしば数字に簡略化されてしまうことに抵抗し、当事者自らがその背景にある個人の物語を執筆・発表する機会を創出している。主にガザ地区を拠点に次世代の書き手や思想家を育成するべく立ち上げられた非営利事業である。
 アルアライール氏が殺害された状況を上述したとき、彼とともに亡くなった方、負傷された方のことを数字で記すことに私自身も抵抗があった。しかし私がここに彼の親族の名前を許可なく転載するのも不適切な気がした。上に挙げた Euro-Med Human Rights Monitor の記事にはほぼ全員の名前が記載されているので、詳しくはそちらを参照されたい。
 

最後まで読んでくださり多謝申し上げます。貴方のひとみは一万ヴォルト。