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Photo by
muuuuuuuku69
光る港
少しさびれた港には
冬の船だまりが揺れている
冷たい北風がコンテナヤードや
タグボードの間を吹き抜ける
太いタイヤとアンカーとビット
その周りにロープやチェーンが巻き付いている
眼下の水面には大小の浮きが羅列して
岸壁の水位すれすれに様々な形状をした貝殻が見事な場所取り合戦の跡を残す
その合間を縫う様に青海苔が波の曲線を描いてへばり付いている
勇漁丸 海生丸といった
威勢のいい名前が書かれた漁船が紺碧の海上に揺れながら定着している
その姿は過ぎ去りし日を
ゆっくりと思い出させてくれた
母が連れて来てくれたあの港でスケッチをした
夏休みの宿題が終わらない私をみかねて母は仕事の休みを取ってくれあの漁港に連れて行ってくれた
いざ画用紙越しに
漁港の風景を目の当たりにして漁船たちの余りに精巧な造りに根を上げそうになったが
せっかく母が連れて来てくれたのだから
一生懸命に描いた
水面には見事に船の形が写し出されていて水のなせる業に感嘆した
夏の終わりの頃だけどこそばがゆい汗が滴り落ちるまだまだ暑いさなかだった
母は黙って待っていてくれた
忙しい毎日であなたの背中ばかり見ていたのに
今日は私が正面からじっと見つめられている
冷や汗もじんわりと
かいてしまいそうだったが
ゆっくりとした波と潮風が
母を穏やかな表情に変えていた
「ゆっくりと描きなさいね」
そう母は言ってくれた
そこからは底光りする
深い青緑と船の美しい形状と
ゆらめきに溶け込んで夢中になれた
家路に着き
色を重ねて仕上げたある朝
絵を見た祖母が言った
「あんたは暗い色ばかり
使っていたけどこの絵は明るくていいよ」
私は今でも港を目にすると
波間を揺れる船のように
ゆっくりとした時間が流れ
テトラポットに波が弾けて
採光を放つように
光に満ちたあの港に
降り立てるのです