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水野 智大/Farm Agricola

法人名/農園名:一般社団法人Agricola/Farm Agricola
農園所在地:北海道石狩郡当別町
就農年数:5年
生産品目:平飼いした4,200羽の鶏による「有精卵」「JAS有機認証を受けたオーガニックエッグ」「亜麻仁卵」と、スモークドチキン
HP:https://www.agricola.jp/

no.104

精神医療の看護から、障がい者が働く養鶏場の運営へ

■プロフィール

 えりも町で生まれ、家業であるサラブレッドの生産に6年携わったのち、28歳で小樽市立高等看護学院を卒業して、看護師免許を取得。脳神経外科で2年間、精神科で10年間にわたって勤務。

 精神科の看護師としてキャリアを重ねるなかで、患者が働くことを通じて自立し、社会に適応できる場所を作りたいと、2017年4月、就労継続支援A型施設を開設する。

 採卵用鶏ボリスブラウンを農業用ビニールハウスで平飼いした有精卵と有機野菜の生産を開始。

 2019年7月には、国内で5番目に有機JAS認証を取得した「オーガニックエッグ」に認められ、「ザ・リッツ・カールトン東京」やミシュラン三つ星シェフにも採用されるなど、着実にファンを増やす。

■農業を職業にした理由

 夫婦ともに精神科の病院で看護師として働くうち、薬物治療に偏った日本の精神医療のあり方に疑問を持つようになった。

 障がい者が働くことを通じて、生きる目標や生活の楽しみを見つけ、社会に適応できる能力を身につける居場所を作りたいと考えて、福祉の世界へ転身。

 競走馬牧場で育った経験から、畜産を取り入れようと考えた時、体の小さなニワトリならば、障がい者が恐怖を感じにくく、また給餌や採卵、洗卵、パック詰めなど、仕事の流れを1日単位で組みやすい(ルーティンワーク)などの理由から養鶏を選ぶ。

 ビニールハウスを使った平飼いで飼養羽数を増やし、生卵の臭みをなくすために、餌にこだわった結果、2019年には有機JAS認証のオーガニックエッグとなり、三つ星レストランなど、飲食業界からの信頼もあつい。

■農業の魅力とは

 私たちは養鶏で収益を上げている訳ではなく、あくまでも主役は障がい者。彼らが仕事をできるようになることを支援したお金を貰っているのだと伝えることで、彼ら自身が認められたと自信につながるようになります。

 一方で、「あなたたちが可哀想だから同情しているのではない。仲間だと思っている」とも伝えています。

 障がい者だから簡単な仕事ばかり、指示を受けてやるのではなく、どうしたらミスを起こさないか、一人ひとりが責任を持って考える機会を持たせるようにしていますから、そういう意味では、「障がい者に優しくない」かもしれません(笑)。

 …ですが、考える・判断する練習を重ねることで定着率も高く、勤務歴が長いベテランもいます。給料日には、行きつけのスナックで飲んだり、カラオケを楽しむ人もいます。これは、障害年金の受給枠だけだった頃には見られなかったことです。彼らが見る景色を変えたいのです。

 雇用契約が必要な「就労継続支援A型」を選んだのも、障がい者が経済的に自立できる方法だと思ったからです。この仕事を始めて、精神医療と経営には、どちらも問題を細分化して解決策を考えるという共通点があることに気づきました。

 就農1年目には私も販路の開拓を後回しにして、卵1万個の在庫を抱えて大赤字を背負いましたが、手書きのお便りを入れたり、飛び込み営業を続けるうちに、毎週買ってくれるコアなファンを増やして行きました。

 農福連携はたくさんの事例がありますが、養鶏は作物と違って農閑期がないため、通年雇用できるうえ、給餌から採卵までルーティンを組みやすいので、精神障がいがある人には理想的な仕事だと思っています。

■今後の展望

 現在、8棟のビニールハウスで4,200羽のボリスブラウンを平飼いし、19人を雇用していますが、障がいがあるからできない仕事はほんのわずか。

 例えばカゴを積み重ねるのが苦手だったり、卵を見落としがちな人には、得意な人がバックアップすればいいのです。

 彼らが自立する場所、稼げる場所を作るためにも、いい加減な農福連携は望んでません。半世紀にわたって進歩してこなかった日本の精神医療を変えるために、薬に頼り過ぎず、社会に適応できる方法を見つけたい。

 そのためにも飼養規模を1万羽に増やします。従来のビニールハウスでは雪や風、キタキツネやテンなどの獣害もありますから、頑丈な木造の平飼い鶏舎を増設して、仕事を増やし、一人ひとりの固定月給を10万円に上げて、社会保険を充実させるのが目標です。

 米カリフォルニアでは今、すでにハンディキャップという言葉は廃れ、特別な支援があればノーマルに生活できる「スペシャルニーズ」が一般的になりました。日本でもこの考え方が浸透することを祈っています。

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