遠藤 賢嗣/わかやましらはま農家
「イルカのお兄さん」から白浜町の活性化のために就農を決意
■プロフィール
京都府宇治市出身。子供の頃から「将来の夢はイルカのトレーナー」という夢を持ち、帝京科学大学に進学し、アニマルサイエンス学科で動物の生態などを研究。
2009年の卒業後は和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドに就職して、在籍した9年間のうち、8年間はイルカ・クジラの飼育を担当する。2018年にアドベンチャーワールドを退社し、先に新規就農していた四つ葉農園の濱野孝人さんに弟子入りし、アルバイトを開始するとともに、県の農林大学校就農支援センターで技術を習得。
2019年、濱野さんのつてで高齢農家から30アールの農地を借り受けたことがきっかけで、経営開始資金の支援を受けて、独立就農へ…。地元のJA紀南に所属し、レタスやとうもろこし、そら豆のほか、露地で作れるケイトウやストックなどの花きを生産し、生産規模も2ヘクタールに拡大。
収穫体験や企業研修、インターン研修の受け入れなどの体験事業にも力を入れている。2022年4月からは白浜町に開設された就労継続支援B型事業所「キミト☆ミライ」と契約を結んで、利用者の方に野菜や花きの種まきから収穫・選別作業などを週に3回、午前中にやってもらう農福連携事業にも取り組んでいる。
同年、農園名を「わかやましらはま農家」に改名。同年10月に結婚、翌2023年2月、第一子誕生。
■農業を職業にした理由
子供の頃から「イルカのトレーナーになりたい」という夢を抱いて、アニマルサイエンスを研究できる大学に進学。卒業後は、和歌山県のアドベンチャーワールドに就職して、夢を叶えたが、白浜町での生活を重ねるうちに、「もっと身近に自然を感じられる環境で仕事をして、地域の活性化に貢献したい」という気持ちが強くなった。
上司の釣り仲間を通じて、四つ葉農園の濱野孝人さんを紹介されたことがきっかけとなり、それまで観光地色が強いと思っていた白浜町でも、農業を営む人がいて畑があることに驚く。
濱野さんと親しくなるうちに、自然に囲まれて働く畑であれば、さまざまな人に気軽に来てもらえるし、人とも接することができる仕事だとして就農を決意するように…。
アドベンチャーワールド退社後は、四つ葉農園でアルバイトしたり、技術研修を受けながら、野菜の生産技術を習得。この間も、地元神社の獅子舞奉納などの伝統行事にも積極的に参加し、地域社会に早く馴染む努力を続けたところ、2019年には30アールの土地を借り受けて独立に至った。
白浜町ではやる気がある若い人に畑を貸したいという高齢農家も多く、先輩の濱野さんの口利きもあって、毎年のように農地を増やし、2023年現在は2ヘクタールに拡大。
自分のように移住して新規就農を目指す仲間を1人でも増やしたいと、インターンシップ研修や2泊3日の農業体験を受け入れたり、学生や社会人向けに講演活動を行うなど、畑以外の場所では「一緒に農業を楽しめる仲間づくり」に熱心に励んでいる。
■農業の魅力とは
海や山、川など豊かな自然に恵まれた白浜は、動物園や温泉もあって、さまざまな人が集まってくる場所です。仕事と休暇を組み合わせた「ワーケーション」の聖地とも言われており、コロナ禍にも東京から多くの人がやってきましたし、IT関連企業を積極的に誘致しているので、移住して農業を始めるには理想的な場所だと思います。
イルカのトレーナーとしてキャリアを重ねていた間、「もっと自然に近い環境で働きながら自然や生き物の魅力を広めたい」と考えるようになりました。漁師も考えましたが、畑ならば、誰もが気軽に遊びに来られると思い、就農を決意しました。
作物の8割は農協に出荷し、残りはホテルや飲食店、それから美容室や旅行会社など地域のお店などに卸しておりますが、力を入れているのは農業体験です。短いもので、畑のお散歩とレタスやストックの収穫体験のほか、インターン研修や、企業の農業体験なども受け入れています。
白浜町がある紀南地区は、レタス栽培が始まった歴史がありますが、戦後、ウイルスの病気が広がった影響で農家数が急激に減って栽培面積も減少してしまいました。現在は、新規就農者が少しずつ生産量を増やしていますが、地域全体としては、高齢化が進んで深刻な人手不足です。
原因のひとつが「農業はしんどい」というイメージが強すぎる。ですから農業は楽しくて、儲けることもできるというイメージを広めたい。農業を通じて人と人をつなげ、一緒に楽しむ仲間を増やしたいと考えて、さまざまな体験イベントを企画しています。今は多い時で月に100人近い参加者がおりますよ。
レタスは鮮度がいのちです。野菜は初めからすごいポテンシャルを秘めていて、農家はそこを伸ばしてあげるようなもの。消費者に作物の美味しさを伝えるのも大事な役割で、ホームページでは簡単なレシピを載せています。
販売する時も、収穫した瞬間のエネルギーを感じてもらうために、フィルムで包装せずに外葉が開いた形で袋に入れたり、直前に収穫したものを「さっき採レタス」という名前で売ったり、さまざまな工夫を試しています。
■今後の展望
2022年4月からは、通常の雇用契約を結んで働くことが難しい障がいのある人の就労を支援する就労継続支援B型事業所「キミト☆ミライ」と契約を結んで、播種や収穫作業の仕事をお願いしています。
2022年は、農業経営のプロを育成する「わかやま農業MBA塾」に入校して、経営計画の立て方や財務管理などについて学びました。経営者としては未熟な部分も多く、生産コストも多いので、無駄を無くして5年後、10年後の成長を見据えた事業計画を立てていきたい。
2022年は結婚したり、子供が生まれるなど家族が増えました。将来的には雇用も視野に入れています。そうなった時、従業員には、農業は一般的な会社勤めより稼げるんだと感じてもらいたいので、まずは経営を見直して、成長戦略を立てていきたいと思っています。
また2023年からは新たな農業体験コースを立ち上げます。農地の一部を、野菜を作りたいというグループに貸して、1年かけて種まきから収穫まで僕が教えていく予定です。
農作業を楽しみながら、新しい発見や癒しを与えてくれる自然や、野鳥などの生き物への眼差しを持ってもらえたら嬉しいのです。
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