龜山 剛太郎/3181Farm
商社マンの経験を生かした6次化先行、ゆっくり就農スタイル
■プロフィール
1997年の大学卒業後、一部上場のメーカー商社に入社。国内最大手のアパレルやアウトドアウェア・用品などの企画・生産管理や、営業職としてアジアを中心に活躍。上海への海外赴任など昼夜を問わない多忙な生活をおくるうちに、2018年には肝硬変寸前だと医者から警告を受ける。
これがきっかけで、仕事中心の生活の見直しを迫られ、これからの生き方を考えた時、健康の源である食べ物と農業に目を向けるように…。
2020年、都市生活者向けにオンラインで農家を育成する「コンパクト農ライフ塾」に入学して、農業ビジネスやマーケティングについて学ぶ。同年秋には、アグリイノベーション大学校に入学。実践的な学びで週末に農地で体験を積む。その後、京都大学エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム(ELP)講座で農を学術面で習得。
時を同じくして妻の経営する会社が、SDGs事業として農ビジネスに着手したことから、支援することになる。最初は、豆乳マヨネーズの製造委託先の検討やブランディングからスタート。2022年には、冷凍の玄米おむすびのプロデュースを果たすとともに、25年間のサラリーマン生活にピリオドを打って農業ビジネスを本格始動させる。
■農業を職業にした理由
商社マンとして昼夜を問わず仕事をし、国内外を飛び回る生活を続けてきた影響で、2018年には肝硬変寸前まで体を壊してしまう。40代半ばで息子もまだ幼く、この先の人生を元気に過ごすにはどうすれば良いか迷っていた時に「農」に関する本と出会う。
岡山出身とはいえ、これまで農業には一切縁がなかったが、「農ビジネス」であれば、営業のキャリアを活かしながら、自分らしい健康な生き方を実現できるのでは…、と関心を持つようになる。
まずは情報収集のために、オンラインで学べる「コンパクト農ライフ塾」に入学し、都心で暮らしながら就農を目指すには、マーケティング視点が重要と学ぶ。
その後、農ビジネスに本気で取り組む決意を固め、2020年秋、アグリイノベーション大学校に入学。週末に埼玉の農場で野菜の栽培実習や、農業経営の知識を深める。
2021年には京都大学ELP講座も受講したが、農地取得には時間がかかることや、まったくコネクションがない業界のため、一歩が進めずにいた。
そんな折に、妻が経営する会社でSDGsプロジェクトとして農ビジネスに注力するから力を貸してほしいと頼まれたことがきっかけで、農産物加工品の販売の事業化を支援することに…。
2021年には、卵アレルギー対応の豆乳マヨネーズのブランディングに着手し、営業スキルを活かして製造委託先を新規開拓。さらに、2022年には米の需要を高めようと、特殊技術を施して熟成させた玄米の冷凍おむすびの販売をスタートする。
これが、ダイエットや低糖質志向の食のニーズにうまくハマり、今では、都市部の高級スーパーなどを中心に、全国に販路が急拡大中。現在は、農家資格の取得を目標に、アグリイノベーション大学校の仲間5人と埼玉県で5アールの畑を共有。同時に、静岡県小山町では1人で市民農園4区間を借りて耕作している。
■農業の魅力とは
まず取り組んだのは「逆転の発想から生まれた6次産業化先行、ゆっくり就農スタイル」です。普通ならば、農産物の生産→加工→販売の流れで取り組むと思いますが、私は農家ではありません。
そこで「販売」を起点に商流を考えました。商社の営業職として培ったスキルと経験を活かし、国内50カ所の加工場にコンタクト。そのなかから秋田と福岡の加工場に絞り、彼らの技術力と、農産物生産者の協力をあおいで生まれたのが、豆乳マヨネーズ「まよびー」と、冷凍おむすび「玄米deむすび」です。
従来の6次化に見られるような、廃棄される農産物を加工して売るという点とは180度異なり、売れるモノ・コトを作り、廃棄ロスを極力抑える発想から生まれた商品で、前職のアパレル業界や、一般的な工業製品ならば当たり前のことです。
それに学校で有機農業を学んでも、農地取得や、農地所有適格法人の設立には時間がかかります。まずは実績を築くところから、私の農業人生はスタートしました。
この根本には、仕事三昧で体を壊したことに対する反省と未来への思いがあります。健康を取り戻すために生活リズムの改善や低糖質の食事を続けるなかで、安全・安心な大豆の加工商品を世に出すことを目指して「まよびー」を企画。
さらに、主食でもインパクトを与える商品を企画したいと考えるうちに、健康に良いと言われる玄米が、今ひとつ一般化しない理由を掘り下げた結果、商品開発に結びつきました。
玄米食がもっと普及して、かつての私のようなハードワーカーの食生活に役立ちたいと試行錯誤した末に誕生したのが「玄米deむすび」です。100%玄米を特殊な熟成技術で白米に近い食感に仕上げ、甘味を引き出したもので、レンジで加熱するだけで、手間がかかる炊飯の煩わしさから逃れられます。
もちろん、味の良さもオーガニック系食品を扱うスーパーマーケットなどを中心に高く評価されています。8個500円程ですが、50g80kcalと小ぶりでヘルシーな点が受けて、順調に販路を広げています。「玄米deむすび」がいずれ全家庭に保存食・常備食として受け入れられることで、米農家が豊かになり、日本の農業の活性化につながると信じています。
■今後の展望
豆乳マヨネーズは2021年10月の発売以来、大型のショッピングセンターや商業施設など100を超える店舗で約3,500本を売り上げました。「玄米deむすび」も都内の高級スーパーを中心に売上を伸ばしており、今後はアウトドアブランドやスポーツジム、美容業界にも販路を広げたい。さらに、米国L.A.のヴィーガン食を扱う企業への売り込みも計画しています。「玄米deむすび」を経営の主軸にすることで、日本のみならず世界の食生活の改善を担いたいと考えています。
また別の切り口として、耕作放棄地の問題を抱える全国の自治体と連携して、農業で地域の課題解決にも取り組んでいきます。すでに私が畑を借りている静岡県小山町とは、具体的に話が進んでおりますし、岐阜県恵那市では、介護福祉施設が所有する1ヘクタールの耕作放棄地を再生する取り組みや、あとつぎ不在の茅葺き宿を活用した農業コミュニティーを作りたいなどといった相談が寄せられています。
大手企業にいた時とは違って、看板はないけれど、決断と実行力、自由なスピード感が魅力ですね。私の役割はいろいろな人を繋ぎ、巻き込んで、農業を活性化するためのアイディアを実現させていくことにあります。
#40代で就農
#関東
#新規参入
#経営手法
#経営哲学
#挑戦者
#ユニークな経歴
#SDGs
#生産加工
#直接販売
#ポートフォリオ経営
#注目の農業者
#地域活性化
#第三者継承
#農業体験
#農業教育
#六次産業化
#ライフスタイル
#都市型農業