全自動車EV化はドイツの傲慢?
毎年恒例の「福野礼一郎のクルマ論評」が今年も無事刊行されました。
今回もフォーマットとしては、2020年から2021年に発売された新車の評論、現役エンジニアを交えた現在の観点から旧車評論、現在のベストカーをジャンル別に並べたものとここ数年で確立した様式となっています。
今回も意外なクルマに対する絶賛もあったし、ひと昔前よりも単行本らしく改行や構成が読みやすくなっています。
本書で一番の感動はhonda-eに関する批評です。
honda-eに関する批評
本の帯にすべてが要約されているのですが、何とも刺激的な内容です。
全自動車EV化とはドイツ慢心傲慢の産物である
そう、実はhonda-eに対する否定的な意見というよりも、ガソリンエンジン/ディーゼルエンジン車を悪としてEV化に全振りしているドイツの自動車メーカーに対する苛立ちと不条理な状況を嘆いている点が今までのEV化シフトに対するうまい言語化だなと思いました。
2015年のディーゼルゲート
もう記憶が風化しつつありますが、VW社がディーゼルエンジンのプログラミングを操作して、本来はアメリカで売ることができないディーゼルエンジン搭載車を売っていたことが判明したのが2015年。アメリカといえば、商用車以外はガソリンエンジンだけ。というのも、アメリカはディーゼルもガソリン車と同様の排気ガス規制を設定しており、三元触媒という発明品が使えないディーゼルエンジンではアメリカで車を売ることができませんでした。
本来であればコストをかけて排ガス規制をクリアする必要があるのですが、そんなもんにコストは掛けられないと、排ガス測定時だけ排ガス規制をクリアできるように、EUCを操作するという違法手段で排ガス規制をクリア。が、悪事はいずれはばれるものでアメリカの研究機関が独自に調査をしたときの異常値発見を端緒に上記のとおり、ディーゼルゲート事件となったわけです。
ハイブリッド車でも燃料電池車でも日本車に敗北
既存のガソリンエンジンを進化させることのほうがエンジニアリングの観点からは正常進化といえるわけです。が、この背景もドイツメーカは技術面で大敗していました。電気自動車とガソリンエンジン車の文字通り雑種であるトヨタ産ハイブリッド車にも、ガソリンを電動化する日産製ハイブリッド車にも足元にも及ばないPHV車しか市販車として作ることができませんでした。
さらに、90年代の終わりに、メルセデスはこれからは燃料電池車の時代だとして、Aクラスを燃料電池車として売るような特別な構造としていました。が、何年たっても市販車が出ず。結局、燃料電池車を市販車で作ることができたのは、トヨタとホンダの2社だけ。これも、技術的には敗北です。
そして、電動化へ
これに困ったヨーロッパの自動車メーカーは次に売る技術として電気自動車へ着目。おりしも、テスラがモデルSを販売し、世界中のセレブがこぞって買う事態に。さらに、世界最大の市場となった中国においても、自国メーカーのシェアを増やすべく、機械の仕組みがシンプルな電気自動車を推進。
これに、金融機関を中心とした世界的なカーボンニュートラルの動き。
これらの要素がすべて揃い、ガソリンエンジン車は社会の害悪、EVは正義となりました。EVが適切な地理的条件、利用環境もあるし、本来の用途としては、EV/ガソリン/ディーゼル/FCVを使い分けることこそが理想の社会であるのですが。
今の時代の流れでは自動車のEV化は避けられないでしょうが、そうなったときに、ドイツの自動車メーカーは生き残ることができるでしょうか?
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