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Sadness - I Want to Be There

Sadness(2019)

アメリカはイリノイ州のDamian Ojedaによるポスト・ブラックメタル/ソロ・プロジェクトによる2019年作。
このバンドは作品のリリース数がかなり多く、もはやこのアルバム(もしくはEP)が何枚目に数えられているのかも分からない。彼女の情報を調べてみてもこのシンプルなバンド名のせいか同名バンドと混在して出てくるので本当に謎が多い。しかしこの作品が音楽好きの間でカルト的な人気を誇っており、中でも収録曲の#2 I Want to Be With Youがポスト・ブラックメタル/シューゲイズ/ブラックゲイズ好きの中では隠れたアンセムとしてひとり歩きし、次第にはファンによる歌詞が和訳されたものや演奏をカバーしたものまでがYoutubeにアップされるといった流れはまさに隠れた名曲といったところ。

他にも前半はメランコリーなアンビエントサウンドが続くかと思いきや中盤から徐々に温度を上げて疾走していき、駆け抜けたその先にピンク色の夕焼けの空が現れるような景色を想像してしまう演奏が素晴らしい#5 You Dance Like the June Skyや、ラストを飾る#6 Somewhereでは最後に相応しく、真っ暗な映画のスクリーンからスタッフ・エンドロールでも流れてきそうなギターの切ないイントロからはじまり、その後すぐに音の洪水が溢れ出してくる中で絶叫するVoの歌声は胸の奥底を握りしめられているような感覚だ。ジャケットとの雰囲気とも相まって最高にエモーショナルで切なく、意味も判らずつい鼻の奥がツンとしてしまい涙腺に触れるような懐かしさと心地良さすらをも感じてしまうのだ。

彼女の描く今作の世界観は青春の甘酸っぱさと、その青さ故の葛藤や嘆きをシューゲイズ・サウンドとメタル・サウンドに詰め込んでかき鳴らしている。例えばそれは同じくイリノイ州のamerican footballようなエモ/ポストロック・サウンドを通過し、韓国はソウルから新世代として現れたParannoulのシューゲイズ・サウンドと8ミリフィルムで映し出される青春映画のような景色を合わせ持ち、そして方向性こそはまた別の世界観を持つがブルックリンのLiturgyのようなポスト・ブラックメタルからエレクトロニカの要素をほんのり拝借して散りばめたような感覚だ。
2010〜20年代のインディーロック・バンドをよく聴く人へも刺さる部分は多いのではないだろうか。作品を通して聴いてみても本当にひとつの映像作品を観ているかのようでもあり、聴き終わった後に訪れる静寂と余韻も含めて最高の感覚に浸れる1枚である。

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