[もり氏ラジオ/優勝賞品] トキワ部屋の大雪崩
概要
これは『マンガライターもり氏の好きなマンガを誰かと語りたいラジオ』にて開催された「第1回推しギャグマンガプレゼン大会」の優勝賞品としての物語です。
今回の優勝者は、マンガを8,000冊持っているマンガ大好き芸人「つじくん」さん!
最高のギャクマンガとして紹介した作品は、『サイコろまんちか』。
僕も大好きな「笑えてタメになる心理学×学園コメディ」です。ちょっと下ネタが多めですが、「ライトな下ネタなら大丈夫だよー」という方はぜひ手に取ってみてください!
というわけで『もり氏ラジオ「第1回推しギャグマンガプレゼン大会」』の優勝賞品である短編の物語。今回の優勝者がマンガ大好き芸人「つじくん」さんということで、コントの脚本仕立てでどうぞ!
本文 『トキワ部屋の大雪崩』
◯マンガ大好き芸人つじくんのトキワ部屋・昼
つじくんはアパートの一階に住んでいる。
つじくんは8,000冊の漫画本に埋もれ、息も絶え絶えの状況。
漫画雪崩に巻き込まれたつじくんは、自宅の扉から体が外へと出ている。
つじくん「どうして、こんなこと、に……」
つじくんの意識が途切れる。
伊東「お、つーじくんじゃないか!」
つじくんが改めて意識を取り戻す。
つじくん「はっ!!」
伊東「どうしたんだい、そんな大量の漫画に埋もれて」
つじ「い、伊東……!?」
伊東「おう、伊東だ!」
つじ「そんな、ラフの二ノ宮亜美の登場シーンみたいに言っても、お前じゃあ可愛くは……」
伊東がつじくんを殴る。
伊東「ここにある全ての漫画、つーじくん諸共に燃やしてあげてもいいんだよ?」
つじ「そんな殺生な……」
伊東「そう。つーじくんの生殺与奪の権は我が手中にあり!」
つじ「えぇ……助けてくれないの!?」
伊東「ふっふっふー。どうしよっかなー?」
伊東がニヤニヤしながら、つじくんを見下ろしている。
伊東「お前は可愛くないとか言われたしなぁ」
つじ「くっ……」
伊東「『伊東様』は?」
つじ「え?」
伊東「だから、『ごめんなさい。絶世の美女、伊東様』、という謝罪の言葉は?」
つじ「なんで謝罪せにゃあかんのだ!」
伊東「そうか、ならこの取引はなかったということで」
伊東が吸ってもいない煙草を投げ捨てるような真似をして立ち去ろうとする。
つじ「くっ……悪魔め……」
伊東「あーはっはっは! なんとでも言うがいい! そもそも私がつーじ君を助けたところで、何か得することがあるのかい?」
つじ「ここで助けなけりゃ、ただの人でなしだろ!」
伊東「人は見返りを求める生き物なのだよ、つーじくん。これを社会的交換理論というんだ」
つじ「見返り……こんな状況下で。この腐れ外道め……!」
伊東「おやおや。今の自分の状況がわかっていないようだねぇ。助けてほしいなら、たった一言いうだけだぞ、つーじくん? 『ごめんなさい。世界一の美貌を持つ絶世の麗しの美女、伊東様。この卑しい下賤の民であるつじめを、どうかお助けください』と」
つじ「ぐぬ……言葉が増えている」
伊東「そうか。嫌なら構わないんだ。強要して悪かった。私以外の誰かに助けを求めたまえ。まぁ、その前に死んでしまうかもしれないがなぁ!」
つじくんが口を食い縛る。
つじ「た、助けてください、世界一の美貌を持つ絶世の麗しの美女、伊東様……この卑しい下賤の民であるつじめを、どうかお助けください……」
伊東「ふーん。『ごめんなさい』は?」
つじ「うぐ……背に腹は変えられん……」
つじくんは唇を噛みすぎて血が滲み出ている。
つじ「ごめんなさい。世界一の美貌を持つ絶世の麗しの美女、伊東様。この卑しい下賤の民であるつじめを、どうかお助けください。どうだ!!」
伊東「はっはっは! よろしい。いやはや、そこまで言うなら、助けてあげようじゃないか! 私も哀れな人をこれ以上痛ぶるのは趣味ではないのでねぇ。ちなみに、人は選択肢を比較し、マシと思える方を選択する性質にあるんだ。これを対比効果というのだよ」
つじ「……だから、なんだ!!」
伊東「私が本当につーじくんを見捨てるわけはないだろう? という話だよ。いくらお通じみたいな名前だからって、友人を見殺しにはしないさ」
つじ「は、はめられた……」
伊東「さて、お通じくん」
つじ「もうお通じくん言うてはるやんか!」
伊東「しかし、まぁ、このわたしにはできることはないが、生きる目標があればきっと生きれる! そう、目標設定理論というやつだ」
つじ「助けんのんかい!!」
アパートの階段の方からカンカンカンという音が聞こえる。
伊東とつじくんが音のする方向を見る。
スカートを履いた千条が階段から降りてくる。
千条「キャッ! つじくんさんが埋まってる!? だ、大丈夫ですか!?」
つじ「あ、上に住む千条さん……」
伊東「んだよ。パンツ見えねぇじゃねぇか……」(小声)
千条「えっ!?」
伊東「ううん、なんでもないよ」
首を傾げる千条。
千条「あ、そんなことより埋もれてるつじくんさんをどうにかしないと!」
近隣住民が騒ぎを聞きつけてやってくる。
阿部「そうだ、どうにかしないと」
宇堂「大変だ、大変過ぎる!」
江崎「このままだとつじくんさんが死んじゃう!!」
伊東「おや、近隣住民が虫のように群がってきやがったぞ」
つじ「そりゃ、こんな漫画雪崩で埋もれてる人がいたら噂にもなるでしょ! 早く助けてよ!」
伊東「ツッコむ元気があるなら大丈夫だ」
千条「あ、大丈夫なんですね。それなら安心です」
つじ「ねぇ、この状況を見てなんで信じれる!? なんで大丈夫だって思える!?」
千条「いったいどうしてこんなことに……」
つじ「本棚の一番上にある漫画を取ろうとしたところで雪崩が……」
千条「まぁ!!」
千条が驚く。
伊東「漫画に埋もれて死ねるなら本望なんじゃないの?」
つじ「そんなことあるか!」
近隣住民が周囲を見渡す。
阿部「それにしても、救急車はまだか!?」
宇堂「遅い、遅すぎる!」
江崎「このままだとつじくんさんが死んじゃう!!」
伊東がキョトンとした顔をする。
伊東「え、救急車?」
千条「伊東さんが救急車を呼ばれたのではないのですか?」
伊東「え、呼んでないよ。誰か他の人が呼んだんじゃないの?」
千条「私は呼んでいませんよ」
阿部「俺も呼んでねぇ!」
宇堂「呼んでない!」
江崎「このままだとつじくんさんが死んじゃう!!」
つじ「って、これ、アフロ田中ぁぁぁ!!!!!」
伊東「ん? いや、私は伊東だけど?」
つじ「誰も……救急車を呼んでいないのである!!!」
つじ「これを傍観者効果と言う……じゃなくて、早く救急車を呼んで——」
つじくんの意識が消える。
千条「つじくんさん!?」
伊東「お通じくん!!?」
阿部「きゅ、救急車だ!!」
宇堂「救急車って何番だっけ!!!?」
江崎「このままだとつじくんさんが死んじゃう!!」
伊東「おつーじくぅぅぅーーーんんん!!!!」
伊東が涙を流す。
千条「わ、わたし、救急車呼んできます! スマホが上だからいったん戻りますね!!」
千条が階段を駆け上がる。
カンカンカンという音が響く。
千条以外が階段を見上げる。
つじくんも少しだけ目を開ける。
千条がスカートを抑える。
千条「見てるでしょ……」
つじくんが千条の言葉を無視して言う。
つじ「もう、僕はダメかもしれない……」
伊東「つじくん! まだダメだよ。まだ死んじゃダメだ!」
つじ「伊東、そこまで僕のことを——」
伊東「だって、まだ君の目標を聞いてないよ!」
つじ「最後に、パンツが見たい人生だった」
つじくんが絶命する。
伊東「そこはR-1優勝でええやろ!」
伊東がつじくんをどつく。
伊東「あんたとはやってられへんわ!」
つじ「どうもありがとうございましたー!」
◯マンガ大好き芸人つじくんのトキワ部屋・夜
つじくんがこたつの中で寝ている。
つじ「あれ? 夢……?」
寝起きのつじくんが、隣に『サイコろまんちか』が置いてあることに気付く。
つじ「寝落ちしちゃったのか……」
つじくんが『サイコろまんちか』を本棚の最上段に仕舞おうとする。
本棚が倒れてくる。
つじ「う、うわぁぁぁぁ……!!!!」
つじくんが8,000冊の漫画本に埋もれ、息も絶え絶えとなる。
つじくん「どうして、こんなこと、に……」
つじくんの意識が途切れる。
<了>
あとがき
今回の『もり氏ラジオ「第1回推しギャグマンガプレゼン大会」』は、とにかく読みたくなる漫画ばかりでした。
総勢10名近いのマンガ好きな皆さんが選んだだけあって、個性豊かなラインナップだったと思います。読んだことのない漫画があるようでしたら、この機会にぜひ読んでみてはいかがでしょう。
そして、もっとナカタニの作品を読んでみたいという方がいらっしゃいましたら、こちらのショートショート集もどうぞ。
「スキ」もしてくれたら喜びます。
それではでは!
小説、漫画、映画、落語、アニメ、ゲーム・・・新しい小説の種を見つける糧にさせていただきます。応援ありがとうございます。