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【400字小説】死に神をディスれば

「余白を楽しみたい」と80歳の母が言った。87歳で父は逝った。三途の川、渡るための草履を買わされた。母は開き直ってて、たくましかった。彼女のように強くはなれない。

祭壇に白い菊。花屋で働いていた際に葬儀用の菊を用意したことがあったが、やり口をほぼ忘れてしまった。「すべて忘れてしまえればいいのに」と母がため息を吐いた。やはり母も強くはなかった。焼き肉をたっぷり食べて食欲を爆発させていたのは強がりだったのか。確かめる術はない。母は頑固で。

父は小心者だった、正直な人だった。ザ・ローリング・ストーンズより、ザ・ビートルズを好んだ。「解散してないからストーンズの方が立派かもな」と言っていたのを聴いた時、父らしい素直さだと見習いたかった。誰の悪口も言わなかった。

母は正反対で陰口を言う人だった。どうしてそんな人を父が選んだのか知らない。母が恋の手綱を握っていたのかも。騙されて死んでいった父は哀れで、誇りだった。

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