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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
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#小説

ゾンビ涙色【400字小説】

ゾンビ涙色【400字小説】

赤ん坊の時だって記憶がない、泣いた。
母も「あなたは泣かなかった」って
いまだに気味悪がって。

そんな調子だから親の愛情は。
母はまずい料理を作ってくれるから
まだマシで、父はほかに女性を作って、
そっちの家庭ばかりに帰る。
映画監督なんてろくでもない仕事。
あんな陳腐な映画ばかりなのに、
毎回、日本中の1億2千万人を泣かせる。
バカみたい。

でも実は最新作『教養など必要ない』は観たい。
死ん

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電話酔い【400字小説】

電話酔い【400字小説】

やたらと《いいね!》するあの男。
「ドライブ、どう?」って
ダサいナンパの手口みたいなことを
インスタのDMで。
「結構です」って気弱な私でも、
案外強く断ったつもり。
一応、結婚しているし。
夫のことはもう愛していないけれど。
小学1年生の息子だけのために生きる。
どんなにそれが大変でも。

だから性欲なんてない。
ましてや、浮気なんて
アホ臭いことはしませんヨ。
多分このまま
セカンドヴァージ

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相談【400字小説】

相談【400字小説】

19歳だった私の痩せた体を取り戻して。
40歳になって、代謝がにっちもさっちもいかない。
デートしたい。
彼氏は7年もいない。
このままBBAに。
もしかして、もうなってる?

白髪が気になるねって、
気になっている男性社員から。
社交辞令みたいで残酷。
明後日の土曜日、
予定が空いているから
「お食事でも」って誘うのは
女性らしくないかしら。
彼のローリング・ストーンズの話ならついてイケる。

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太陽【400字小説】

太陽【400字小説】

「≪バンドを組みたい≫というのが夢。
だから夢は叶っている」
と言ったのはミック・ジャガー。
あれ、ヒロトだったっけ?!

わたしは小説で有名になりたいとは思ってない。
小説は≪手段≫ではない。
ただ命ある限り、書き続けられれば満足。
新人文学賞に応募しても
箸にも棒にも掛からないし、
友人に読んでもらっても
「よくわからない」と言われるのが関の山。
だから大事なことを見落として、
落ち込みがちで

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絶対【400字小説】

絶対【400字小説】

バカなんじゃないの?!
「きみたちには無限の可能性がある」
ってウチダ先生が。
春になったら中学生になるから、
そんなことあり得ないって、わたしは。
まあ、男子は
そんなンじゃないみたいだけどね。

特にわたしが片想いしている
ソウタくんは、目をキラキラさせて。
ウチダ信者だからな。
12歳のわたしたちにとって
担任の先生の影響力は絶大だから、
わからないこともないけれど。

わたしはウチダ先生が

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離婚【400字小説】

離婚【400字小説】

ローリング・ストーンズなんて嫌い。
≪夢≫や≪希望≫を持って
何が悪いっていうの?!
彼らはそれを全否定する曲を
歌い、演奏して。
努力は絶対に実を結ぶものなの。
才能なんて必要なくて、
ううん、それは誤解を
招くから言い直すと
≪続けること≫だけが、
人にとって唯一の必須な才能。
表現者とか関係なく。

ミック・ジャガーはよくも白々しく
≪努力は無駄に終わる≫
なんて歌うのかしら。
キース・リチ

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柔軟【400字小説】

柔軟【400字小説】

みんなに嘘をついている。
みんなって誰?!
とか訊くのは野暮だね。

浮気はしないって
豪語しているけれど、
本当は、ほんの数年前まで。
彼女のことが好きで。
彼女も多分、好きでいてくれて。

なんで会わなくなったのかは、
時間の問題。

結婚していた、お互いに。
子どももいた、
あっちにも、こっちにも。

妻は薄々気づいているかもしれない。
怖いから訊かないでいるだけだと、私は。
もし「女の人と

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トラベリング【400字小説】

トラベリング【400字小説】

マコトは「宇多田ヒカル、取材したことあるんスよ~」だなんて吹聴しない。椎名林檎にも会った、草野マサムネにもインタビューした、音楽雑誌の編集者時代。自分の実力じゃなかった、業界大手の出版社のパワー、売り上げ好調だった時代の商業誌のエネルギー、それによって自分が助けられただけ。有名人に会うのは誰がすごいのか。そもそもそれはすごいことなのか。はっきり言えるのは、インタビューを受けるほど注目されているアー

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リバウンド【400字小説】

リバウンド【400字小説】

職場の気になるザイツさんと営業に同行。一緒に帯同するミヤザワさんは邪魔だとコバヤシは思った。運転はザイツさん、後部座席にコバヤシとミヤザワさんが乗車。「緊張します」とザイツさんは力なく笑う。「ボクもです~」とミヤザワさんはほんわかと笑うので、コバヤシは「なんでお前がやねん」とツッコんだ。空気は和む。ミヤザワさんは天然でまわりを癒やす存在。おかげで気まずい思いをすることなく、外回りを終えることができ

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フリースロー【400字小説】

フリースロー【400字小説】

シュリは精神障がい者だから優遇されたり気を遣ってくれると思っていた、再就職。でも働いてみたら《出来て当たり前》の世界だった。誰も励ましてくれなかったし、ましてや褒めたりしてくれなかった。いや、ただ上司や同僚たちはヘンに気をまわしたりしなかっただけ。健常者にするようにそうしただけだ。シュリは大分《使えた》。自他共に認めていた。だから、「すごいね」とか「えらいね」とかを期待していた。でも、全然……。甘

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スイープ【400字小説】

スイープ【400字小説】

「アイバーソンがファイナル出たのっていつだっけ?」
「2001年だな」
コウキもリュウセイもバスケ経験はない。でもNBAを観ている年数はそれなりにある。実は20年以上。黙って聞いているカズヨシは大学までバリバリのバスケ選手だった。レモンサワー4杯目でかなり眠くなってきている。食べかけの冷や奴とかじりかけの焼き鳥が2本残っている。
「カズはなんでNBA観ないの?」
「実力が違いすぎて屈辱的だからだよ

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フロム・ダウンダウン【400字小説】

フロム・ダウンダウン【400字小説】

包丁で切ってしまった指先が痛む。我慢できないほどではないのに、マキヨにとっては煩わしくて仕方ない。「そんなこと言ってもしょうがないよ」とマキヨは夫に言われて、うんざり。
「小さい傷だけれど痛むのよ。そういう経験あるでしょう。少しはわかってよ」
「俺がピッチャーだった頃はマメができようが投げなきゃならなかったよ。エースだったからね」
「どうしてそんなふうにして話を混線させるの?」
洗い物が溜まってい

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ミスマッチ【400字小説】

ミスマッチ【400字小説】

相性が合わない。心も体も。結婚して5年だからまだ間に合う、離婚。子どもは1歳、イチロウは溺愛、女の子。親権は絶対に譲れない。逆にハユは冷めてる、覚めてる。結婚生活にかなりうんざり。子育てにはぐったり。精神疾患があって足を引っ張る。「別れようか」とはイチロウもハユも言えない。実は結婚生活5年だろうが10年だろうが20年だろうが、やり直しはいつだってできる。娘のことを考えたら、離婚は先延ばしにした方が

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ペース&スペース【400字小説】

ペース&スペース【400字小説】

少し横になって、うっかり眠ってしまったけれど、目覚めたルミは元気を回復していた。夫のケンジが失踪して1週間。捜索願は呆気なく受理されただけ、出したのは無意味だった。ケンジの母親は血迷って思い出の温泉地へ向かった。ここから200㎞離れている。止める気にはならなかった。いてもたってもいられない、それはルミも一緒でケンジの母親の気持ちは痛いほどわかったからだ。今までケンジの母親のことをあまりよく思ってい

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