【本の紹介】土を喰う日々
作家の水上勉さんが軽井沢で暮らしていた際に綴った、一年における各種料理の記録本。畑や山で採れる物で作られる精進料理が基本となっている。
水上勉さんは子供の頃禅寺におられたそうで、その時に作られた精進料理の記憶を元に、さらに精進を重ねられて様々な一品を見事に工夫されている様が見事に描き出されている。こうも見事に材料を無駄にせず、そこにあるもので様々な工夫がよく出来るものだと感心してしまう。
禅寺では食事も修行の一環とされている。そこには折角の材料を出来る限り無駄にしない感謝の心が色濃く出ているように感じられる。またお客様をもてなす際に、いかに知恵を絞って料理するかも修業のうちなのだろう。
「修行の上からいっても時ならぬものを出すことは、宜しくない。その時々の季節、いわゆる『しゅん』のものを自由自在に調理できなければ一人前の料理人とはいえない。」
(P115より抜粋)
実に腑に落ちる言葉である。昨今スーパーに行けば色々なものが季節を問わずに売っているが、やはり旬の素材を使った料理は格別だし、なおかつ美味い。松茸など今となっては高嶺の花の材料もあるけれども、安くて美味い物も沢山ある。
夏大根の使い道をいっておく。誰もがやるものだが三日とつづかぬ一夜漬けのことである。大根を葉もろともよくきざんで、私は塩をふりかけて重しの下にしておく。朝これをよくしぼって、醤油をかけて喰っているのだが、これほどあまくて、めしのはかどるものを知らない
(P136より抜粋)
なんと読んだだけで白い飯が食べたくなる一文ではある。しかし最近スーパーに売っている大根は葉が落とされてしまっているので残念だ。たかが大根と馬鹿にするなかれ。旬を選んで食べれば、実に立派な滋味となる。
こういった精進の一品が詰まっている一冊。そこらのグルメ本が束になってかかってもまるで叶わない内容である。何度も読み返しているが、読み返す度に気づきがある本でもある。食好き・料理好きな人には是非読んで頂きたい一冊である。読めば台所に行って包丁を持ちたくなること請け合い。
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