文書を刑事裁判の証拠とするための要素(1)ー証拠能力ー
文書を刑事裁判の証拠として利用するためには、民事裁判の証拠とするのとは異なった要素に注意する必要があります。民事裁判については過去の記事を参照ください。
文書は、どのような内容であれ、その作成者が伝えたい意思を表明するもの(刑事訴訟法では「供述」と表現されています。)であり、これを裁判の証拠とするということは、その文書が作成された時点における作成者の供述を裁判所に届けるということになります。
刑事裁判は、被告人となっている方に刑罰を科すか否かの極めて重要な判断をするものですので、間違いがあってはいけません。ですので、相手方が証拠とすることに同意しているか、又は法律で定められた例外を除いて、文書ではなく、その作成者自身を裁判所に呼んで直接話を聴いて、その場で真偽を評価すべきとされています(刑事訴訟法320条)。
そして、この例外は極めて厳格に定められています。
まず、その供述が脅されたり、騙されたりしてとられたものでない、任意の供述であること(刑事訴訟法325条)、違法な手段でとられたものでないことは大前提です。そして、必ず供述者や供述を録取した者の署名又は押印が必要です。
そのうえで、犯罪事実の存否を証明するための証拠としては(ですので、他の供述を弾劾するための証拠はOK)以下の4類型のみ例外として許されています。
(捜査や裁判所の手続内で作成された文書は今回の記事では省きます。)
①鑑定書(刑事訴訟法321条4項)
鑑定人が鑑定の経過及び結果を記載した書面は証拠とできます。
②特に信用すべき情況のもとで作成されたもの(刑事訴訟法323条)
誤りが入りにくい機械的、反復的な業務によって記録されているものです。たとえば、戸籍謄本や公正証書謄本など公務員が職務上作成したものや商業日誌や航海帳簿など日常の業務の中で作成されたものです。
③上記以外で被告人以外の第三者の供述を内容とするもの(刑事訴訟法321条1項3号)
次のすべての要件を充たすことが必要です。
1)供述者が死亡・心身の故障・所在不明・国外所在のため、裁判で供述できないこと
かつ
2)その供述が犯罪事実の存否の証明に不可欠であること
かつ
3)特に信用すべき情況のもとでの供述であること
④被告人の供述を内容とするもの(刑事訴訟法322条)
次のいずれかの要件を充たすことが必要です。
1)被告人に不利益な事実の承認を内容とすること(ただし、任意になされたものに限る)
又は
2)特に信用すべき情況のもとでの供述であること
刑事裁判では、以上のような例外にあたらないと基本的に証拠としての能力がないとされてしまいます。鑑定書を作成する際は問題にならないでしょうが、どなたかの目撃情報や事実を調査した結果を記載した文書を証拠として作成する場合は、まずこちらのチェックから入ることをお勧めします。
そのうえで、どのような形式とすべきかは、また別の機会に扱うことにします。