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ビリヤニと小さな嘘

マンハッタンのミッドタウンにロイヤルグリルというフードトラックがある。

チキンやラムを主体としたいわゆるハラルフード系のお持ち帰り専門店で、僕はここが大のお気に入りで足繁く通っている。

中でも特にチキンビリヤニが絶品で、様々なスパイスのミックスされたエスニックな香りが僕を虜にして離さない。「まさにスパイスの宝石箱や〜」とでも言いたくなるような美味さである。(言いたいだけ。)

ニューヨークタイムズの美人記者から「ニューヨークの思い出の味は何ですか?」といつ聞かれても良い様に、「ハンバーガーでもホットドッグでもなく僕にとってはこのお店のチキンビリヤニが1番です」と答える準備だけは既に出来ている。
可能ならば是非とも食べてもらいたい位の味である。

思い返せば僕は日本にいた時からカレーが大好きで、ほぼ毎日のランチには、新宿中村屋のレシピをパクったと自ら暴露していた主人のカレーを好んで食べていた。
あまりに毎日カレーばかり食べるので周りの人からカレーオジサンと呼ばれたり、「あんまり毎日同じ物ばかり食べてると体に良くないですよ。」と真剣に心配された事もある。
そんなこんなでカレースパイス満載のビリヤニは僕の大好物の1つである。

頻繁に通うものだから、そのフードトラックの店長とは当然顔見知りになった。
ただ、最初の出会い方を間違えてしまった。

店長: お前、腕は大丈夫か?良くなってきたか?

僕: ?? へ?

店長: 腕を怪我すると何かと大変だろ。気をつけて大事にしてくれよな。

僕: ???? お、、お、おう、、、(何のことかよくわからんが)大丈夫だよ。ありがとな。

反射的に、NOと言えない日本人代表のような返しをしてしまった。
僕のことをどこぞの素敵な紳士と勘違いしているのかわからないが、どうやら彼の中で僕は右腕を負傷して最近復帰した人のようである。

以降、ビリヤニを買いに行く度に

腕もう大丈夫か?ちゃんと動かせるのか?

もう大丈夫そうだな。治って良かったな。

気を付けろよ。右手は大事だからな。

の様に僕にはさっぱり何のことか分からない会話を仕掛けてくるのだが、僕の右腕は今も昔もいたって健康そのものだ。なんなら昨日もバーベルを挙げたばかりだ。

しかしながら今更になって「それ、僕じゃないですねん」と言うのには余りに時間が経ちすぎてしまって罰が悪くて言い出すことが出来ずにいる。

毎回腕のことを言われる度に「もう大丈夫だよ、ありがとう」と彼には伝えるが胸の奥が少し痛い。


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