短編小説【惑星探査2】
「煙草売ってる?」
黒髪をなびかせながらジゼルは、地べたに座って骨董品を売る不愛想な少女に声をかけた。
「そんなのあるわけないでしょ。ウチは古代文明の余りものしか売ってない
よ。この容器なんてのはどう?硬くて、頑丈さ」
薄汚れた服を着る少女は欠けた歯でにっこりと笑いながら、プラスチックの容器をジゼルに見せつけた。
それを受け取ると、ジゼルはじっくりと眺めた。
「ペットボトルだね。まだ分解されてなかったんだ」
「ペットボトル?」
「私は惑星ティーガーデンからやってきた調査委員だよ。だから古代文明については詳しいのさ」
それを聞くと少女は不機嫌そうに目元を掻いて、ぶっきらぼうに「へえ」と返事をした。
「ティーガーデンを知っている?」
「知ってるとも、調査委員なら私は何度か会ったことがある。どいつもこいつも私の事を見下してきた。まあ、ウチの商品を渡す代わりに色々くれたけどな」
「私は君の事を見下さないよ。君の事を尊敬する」
ジゼルはコートのポケットの中から古びたマルボロの煙草を取り出すと口に含んだ。
「火をつける何かはある?」
「マッチなら」
「一本買おう」
「金なんて都市でしか流通してないんだ。なんか役に立つものくれ。食べ物でも何でもいい」
それを聞いたジゼルは肩をすくめると、背嚢を地面に置いて手のひらに載るほど小さく収納されているテントを取り出した。
「テントだよ。君、地べたで商売してたら大変だろう。このテントで商売しなよ」
「まいどあり」
マッチを一本ジゼルは受け取ると、煙草に火をつけて、大きくため息をついた。
「この先におかしな集団がいるぜ」
「おかしな集団?」
「みんなに食事を配ったり、野菜作ったり、動物育てて食べてる連中だ」
「おお、集落があるか。なんで君そこにいないの」
浅く少女は笑うと自分の右の小指を見せつけた。その小指は潰れているのか、とても短い。
「それは」
「切られた。盗みを働いて、小指切られて追い出された」
その悲惨な小指を眺めながら少女は笑っている。
「なんで、そんなことしたの。食べる物にも困ってなかったんだろ」
「あそこを仕切ってるのは惑星探査委員の奴らだ。あそこはあいつらに完全に仕切られてる」
「君の頭が良い理由が分かったよ。頭が良いというよりも、悪知恵が働くというか」
背嚢を背負いジゼルは少女が指さした山の方を眺めた。少女は嬉しそうにテントの袋を開け、それがバンと飛び出てきたので驚いている。
「これ凄いな!」
「これはティーガーデンの技術だからあと、百年は壊れないよ。たたみ方を教える。結構難しいんだ」
「あんた親切だな」
「普通だよ」