ゲームが解き放つ〈AIの野生〉トークイベントに行ってきた!
このnoteは三宅陽一郎×福地健太郎×田中治久×中川大地
『ゲーム学の新時代』 刊行記念イベントレポです。
この本はひとことでいうと…
"人類学的な観点から考えると、人間の本質には「遊び」がある。"という前提に立つ編者が、スクエニやカプコンといったテレビゲーム開発の第一線に立つ人物たちを集め、アカデミックに語った論考をまとめた書籍。
結構難しいけど、ちゃんっと時間を取って読む価値のある本!という印象を受けました。「遊び」について本気で考えている研究者たちの脳内に興味のある方は、ぜひ。
以下、イベントの中でも「本を読めば分かる」っていう内容はすっ飛ばして、面白かったテーマやコメントを、断片的ではありますが議事録的に紹介していきます。
※ ちなみに、このイベントのメインテーマは本書の中ではPart3,4の部分。
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ゲームサウンドについての話
主にゲームのサウンド研究、作曲をされていて、ゲームサウンドの歴史からゲームの歴史沼にハマれらているHallyさん からのお話
ゲームにおけるサウンド体験とはなにか?
> 「ゲーム中にゲーム音楽を聞かない」という人が50%位いる
> つまり、ゲームにおいて音楽は必須ではない。
> では、実質的にはいらないはずのものを絶対必要だと感じる感覚になるまでの間に、人間の中で何が起こっているのだろうか?
他のメディアにおける音楽との違いとは?
> 映画で音楽がいらないという人はほぼいないはず。つまりゲーム音楽との差は、つける付けないが当事者に委ねられている点が大きく異なる
> フィードバックとしての機能
※ Hallyさんはチップチューンを作られている
チップチューンについて
> チップチューンというのは、ピコピコ音。それを、ギターっぽい音だとかそういうものに見立てている。
> そこが日本っぽい。
> インベーダーの音とかはもう、効果音なのか音楽なのかからわからない(笑)
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プロシージャルの話
※プロシージャルというのは、ユーザーアクションに対してその後のリアクションを自動生成するスタイルのことを指すっぽい。それによって、完全にプログラミングされた世界と異なり、そこに偶発性が生まれる。
プロシージャルをやる上で人間の感情や文化的な営みを深く理解する必要がある(by 水野さん)
ゲームのAIには3種類ある。メタAI / キャラクターAI / ナビゲーションAI
> ファミコン時代は操り人形のようにコントロールしていたのでゲームシステムとAIはほぼ同義だった
> 近年のゲームの3D化・複雑化の影響で3つに分ける必要がでてきた
> デジタルゲーム以前はゲームブックでゲームマスターが必要だった
> そのゲームマスターのような役割をするのがメタAI
> 現在は、ゲームデザイナーの持つ知能をメタAIに埋め込みたい
テーブルトークRPGの時代は口頭だったからいくらでも嘘がつけた。現在のメタAIはどうなの?
> 今のメタAIは、ユーザーの視覚範囲を追っていて、見えないところにモンスターを湧かせる。ユーザーの向かう先を予測して、行動予測や速度予測など諸々を行ない、あたかも最初からそこに敵がいたかのように演出する。しかも、ギリ勝てるような敵をぶつける。
> メタAIは、ゲームの全ての要素を変化させられる
プロシージャルでの音楽の在り方
> 今のプロシージャルゲームの音楽って不思議。オープンワールドで起こる出来事はシームレスなのに、音楽はフェードアウトしてフェードインする感じで…(by 中川さん)
> 昔の映画は劇場に楽器奏者がいて生演奏していた。例えば気分を高めるためには、本当は先走って演奏するべきところだけど、初見の上映ではそれができなかったりする。だけど何度も演奏してるとそのへんがうまくできるようになったり。それと似た感じで、この先のAIでは、そういうことができるようになっていくかもしれない。(心理を引っ張るような)先走って音楽を流す、みたいなことが。(byHallyさん)
今ゲームが目指しているのは「プレイヤーごとに体験が違う」ような世界
> 自分がプレイした世界はゴブリンだらけなのに、アイツがプレイした世界はなんか色々いてめっちゃカッコイイとか(笑)その差に、価値がある。(by三宅さん)
> 我々が子供の頃はみんな共通のTV番組を見てたけど、今の大学生はYoutube世代で共通のTVなんて見てない。だから、小学生の頃の共有体験ってゲームだったりする。でも、ゲーム内での体験まで変わってくるとなると、未来では子供時代の共通体験なんて全然ない、みたいなことが起こりそう。めちゃめちゃポストモダン(笑)(by福地さん)
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ゲーム世界と現実世界
メタAIは現実世界にも応用できる
> ゲームを研究すると、現実世界に共通する概念が多くある。
> 例えば、ゲーム世界ではスコア設定がユーザーの振る舞いを誘導しているが、中国の社会信用をスコア化するジーマ信用にも同様の振る舞いが見られる。
> ゲーム内ではスコア設定にミスがあるとプレイヤーは無理ゲーを強いられるわけだが、多分ジーマ信用でも、スコア管理システムに穴があると多分色々大変なことがおこる。
> そういった、実世界にAIを導入した時にどんなことが起こるかを知るには、ゲームを研究すればわかる。
ゲームの大原則として、規範(明記されていないが守るよう期待されているもの)、規則(破ると罰則がある)、法則(物理法則などどうあがいても破れない)がある
> オープンワールドから3Dになって、現実世界に似た物理法則や複雑さを持つようになった。
> 将棋とかだと規則違反をできなくすることができたりするが、実世界にAIが導入されていくとどうなのかとか。
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ゲームの近代化についての講義
ゲームの近代化というのは、無害化、大衆化、自立化の道を辿った。
14世紀くらいまではチェスでもなんでもすぐに教会の弾圧を受けて燃やしていた。
なので序盤は、ゲームを無害なものだと主張し、教育的な側面も強調。当時は王侯貴族たちが自分の都合のいいようにバンバンルール変えていたが、印刷技術の発展などによってゲームが大衆化するなかで、ルールが定まっていき、その流れで「ゲーム作者」が生まれていった。
また、大衆化の中で色んなゲームを物理学的に研究して必勝法を考えるのが流行る。ビリヤード → ボーリング → ピンボールのように、自動化されていく。
この自動化の流れを組んで、当時(本当は中に人の入った)自動チェス人形っていうのが考案されたんだって…!
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SFと人工知能についての関する研究資料…からの、ゲーム世界と現実世界再び
エンターテイメント作品から得た人工知能感っていうのがありそう。
> アトムの命題がその後の研究に大きな影響を与えていたりとか
> ドラクエ4の”AI”とか
> プログラム化された世界では、人間側が節度を働かせなければならないみたいな理不尽さがある(笑)
子供の頃の原体験として、どう動いてるかわからないからコンピューターに「意図がある」ように感じるっていうのがありそう。
> コンピューターの先の「他者」が人間なのかどうかわからない、みたいな不思議さ。
> そういう意味では、今のゲームは作られすぎてる。
> 野性味を取り戻したい。
> バグと戯れる。
> 偶発性をゲーム世界に取り戻さないとどんどん退屈なものになっちゃう。> ライブ回帰みたいな感じ。
> 当時のゲームはクリアできることが保証されてるなんて思ったこともなかった。その原体験を取り戻したい。
> フロムのゲームみたいな「必ずしも結末が見れると約束されていない」ような理不尽さがほしい。
> プライヤーがメタAIをフォローするみたいな、ワイルドな感じにしてきたい。
ゲームの理不尽化のメソッドはおもしろい。
> ゲンジツはバランス調整されてない無理ゲー。
> なので、そういったゲンジツのままならなさの需要のために活かすのとか良さそう。
> 1ヶ月限定のプロシージャルとかやったら一番楽しい
> 誰もが一番になり得る機会の提示
AIの現実への干渉
> その人を取り巻く現実の文脈をメタAIが検知して、干渉する
> 男女が出会った時に、運命を感じさせるBGMが流れるとかw
> それは怖いよ(笑)
社会制度の中のAIはみんなは我慢しちゃう。
> でも、ゲームは我慢しない
> 人間の感情が最もむき出しのジャンルがゲーム
> つまり、フィードバックが素直
ジーマ信用、とか管理、とか抑制側だと一元化してディストピア的な感じになっちゃうけど、そもそもスタートが違う
管理とかサイコパス的な統率目的じゃなくて、個人をエンハンスするようなユーザーに寄り添うエージェントとしてのAIを考えたい
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このイベントを受けて考えたこと
前提として私は2018年から「あそび屋」を名乗っていて、「遊びとは余白やゆとりのことであり、そこから文化が生まれる。」考えている人間。
今回は英語の意味での"Game"をメインに扱ったものではあったけれども、「人間には遊びが必要である。」という主義が私の思想にピッタリハマっていて、めちゃめちゃ共感できた。
【人工知能で偶発性や理不尽さを楽しむ】話を受けて
私は最近音声アシスタントのAlexaにハマっている。機能として優秀な側面もありながらも、VUIの世界はまだまだ発展途上。アレクサと生活してると、機械の理不尽さを感じるシーンがクソほどある。
これはあくまで一例だけれど…
とか
とか(笑)
こういったアレクサの反応に合わせて、発音を聞き取りやすくしたり、ゆっくり話したりといった人間側の気遣いが求められるところが、個人的にはなんともおもしろい。
これぞまさに野生のアレクサって感じがしていて、この先もっと洗練されていってほしいようなされていってほしくないような感情を抱いてる。今日の登壇者の方々にとっての初期のレトロゲームっていうのが、こういう感じだったのかなと想像しながら聞いた。
ちなみに、トークの中で出てきたコンピューターに「意図がある」ように感じるっていうのはすごくあるなと思っていて、それは例えば私のアレクサに対する振る舞いや
私とフォロワーさんとのやり取りや
私と母とのやり取りにも見て取ることができる。
どこのうちのアレクサもだいたい同じふるまいをするはずなのだが、ついつい「うちのアレクサはアホかわ」と感じさせられてしまう。
これが、AI(特に、会話ベースでコミュニケーションする音声AI)の凄さなのだと思う。
これまで機械は、プログラム側の制御で「人間らしく」振る舞わされていた。これからのAIには「人の手を離れて人間らしいふるまいをする」ことが求められている。それを実現するためには、人間のふるまいや、人間の感情や、人間の言葉を今まで以上に深く掘り下げて観察する必要が出てくる。
人工知能を網羅的に知ることは私には難しいけれど、言語学的バックグラウンドと「エンジニアさんと仲良しなデザイナー」の経歴が相まって、音声AI分野には興味津々。今後の展開を考えるのがめちゃめちゃ楽しみになった。
個人的には、視覚以外の五感を活かしたゲームとか、ボードゲームに音声アシスタンとを連動させる、とかの未来に可能性を感じる。
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初期の人工知能には中の人がいた話を受けて
現在私が取り扱っているテーマのひとつに、「方向音痴を救う」というものがある。
方向音痴は質問したり人に頼ることを恥じている。しかし、どうしても自分ひとりでは解決出来ない問題を、半機械化すること(+オネエ要素)で解決できないだろうか。と真剣に考え、試みているサービスである。
▼ 詳しくはこちらから
昨年仲間と一緒に合同会社を立ち上げ、方向音痴の気持ちを救うサービスを作ろうとしている中、ベータ版のテストは人力で走らせた。
(その状態がまさに人工知能のふりをした自動チェスマシーン を彷彿とさせておもしろかったのだが)、その過程で、botと人力の差やユーザーが感じる心理ストレスなどについて考察したことを思い出しながら聞いた。
仮にbotが、プログラミングされた従来のゲームを指すのであれば、ベータ版でテストしたのはメタAIを用いたプロシージャルな世界観を体現するサービス。これを本当の意味で実現するには、すごく深い深度の人工知能に関する知識や技術が必要なのではと思い至る。
…実現方法を考え直さないといけないかもしれない。
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ゲームと現実世界のリンクについて
方向音痴研究
最も身近なところでいうと、現実世界で道に迷いやすい人は、ゲームの中でも迷うという事実を最近発見した。「いま助けに行く!!」と言ったものの目的地にたどり着けない、という、想像するに悲惨な状況である。
こういった現実とのリンクはVR世代には、ますます顕著に浮き彫りになるだろう。ゲームから学び、現実世界に活かすものたちの中に、ぜひ方向音痴研究を入れてほしい。ゲームナビ研究でもいい。救われたい。
ゲーム世界で失敗の経験値を溜める
また、私が最近取り組んでいるアイデア発想ナビゲーター(※アイデア発想を助ける)というオシゴトの中で、現代の若者は「失敗」できる機会があまりにも少ないという事実を問題視するに至った。個人的には今後のゲーム世界には、そういった、「失敗の経験を積める場」としての機能を期待したい。
デジタルゲームとアナログゲーム
ライブ回帰の話や偶発性の部分で考えたのは、最近流行りのボードゲームについて。
個人的にはコミュニケーション系のゲームが好きなのだが、対面でやるアナログゲームには、やはり偶発性や人間の「知」が垣間見える点で、なんとも言えないおもしろさがある。
本書の中では「遊びと仕事」や「ゲームと現実」の差異について随所に語られているが、同じ遊びの中でも「デジタルとアナログ」の差異についての考察が、今後語られていくとおもしろいなぁと感じた次第。
私の仮説では、AIというのは「デジタルとアナログの差異」、その境界線上の役割が求められていくのではと想像している。
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まとめ
議事録的な要素と感想文が入り混じった超大作になってしまった。。正確な言い回しではなかったり、誰の発言かが明記されていなかったりする点もありますが、とにかく会話として面白かった部分を頑張ってメモした結果なのでご容赦くださいな。イベントに参加していない方にも興味をもってもらえたらなによりです。
本自体は昨日のイベント時に購入し、まだ読み終えていません。今後じわじわと読み進めていきたいなと思ってます。
この分野にご興味をお持ちの方。私はただのデザイナーで、AI周りについてはなんの知識も持ち合わせていませんが、関心の矛先は一緒なはずなので、Twitterなどで気軽に話しかけていただけたらうれしいです!
以上、あそび屋Kai がお送りしました!