あの頃の自分に希望の光を見せたい
先日、地域のコミュニティラジオ局で初めて、お昼のパーソナリティをつとめました。
2週間に1度、2時間弱。
ゲストも迎えながらではありますが、ほとんど一人で話す時間。メールも反響もたくさんいただきました。落ち着いて話すね、とか聴きやすい良い声してるね、とか。
2年前までの自分に教えてあげたい。私、ラジオしてるよって。
信じられない
過去に何度か書いたことがありますが、私は物心ついたころから「吃音」という症状があります。言語障害の一つでもあるらしく、声が思い通りに出せずに吃ったり黙り込んだりしてしまう。
学校で音読するとき、人前で自己紹介するとき、電話口で名乗るとき、みんなの前で発表するとき、いろんな試験やバイトの面接、就活、などなど。
20年余り幾多の場面で吃音に苦しみ、思い通りに声が発せないことにもがき、これからも私は吃音と共に生きていくのだと絶望していた。
そんな私が今は、30人ほどの前でマイクを持ってワークショップを開き、ラジオのパーソナリティをするようになった。
治ったわけではない
この数年で著しく改善したことで、周りの人に違和感を持たれることもかなり減った。でも、この投稿を書いている今日だって、私は吃音をもっている。
今日も、仕事で電話をかけるときに「(組織名)の西野と申します」と言わなくちゃ、言わなくちゃと思ってどうしても言えなくて、電波が悪いふりをして誤魔化した。
人の名前を呼ぶときに、名前の一文字目が言えなくて、「あのー」と声をかけた。
今でも、周りにバレない範囲でめちゃくちゃ戦ってます。
わざわざバラさなくてもいいのに、なんで書くかと言うと、あの頃の自分に希望を与えられるかも、と思ったから。あの頃の自分はこの投稿を読めないけれど、その状況と同じように苦しんでる人が読んでるかもしれないから。
あの頃の私へ
まずはとても無神経なことを伝えます。
「あんまり意識せんと、吃音のことばかり考えんようにしたら、知らん間に治るかもよ」
いや、考えへんとか無理やんな。分かる。
声出すたびに「ちゃんと言えるかな」って不安が脳裏をよぎるんやもん。
でも「私が抱えている課題のすべては吃音!ぜんぶこれのせい!」って思うのは一回やめて、私が持ってる他の部分に目を向けてみることは出来るんちゃう?
自分の行く先を悩んでいた当時の私は、自分が人生において何を大切にしたいか、どんな場所で生きたいか、誰のために生きたいか、真剣に考えていた。そのとき、多分吃音のことはあまり考えてなかったと思う。
自分の大切にしたい価値観や物事がだんだんと見えてくると、次はそれを実行に移すためにがむしゃらになってた。そのときも、すんなり声が出せるかどうかはあんまり大事じゃなかった。
好きな地域に引っ越して、豊かさに触れて、そんなタイミングで久しぶりに「マイクをもつ機会」を与えられた。
私はやっぱり怖くなった。
人前で黙り込んでしまったらどうしよう、と不安になった。でも、1年ぶりにマイクを手にした私は、膝が震えながらもきちんと話すことができた。
その時期から少しずつ、1か月に1回くらい、人前でマイクで話す機会を周りから与えてもらえるようになった。小さな成功体験を積むごとに、「意外と大丈夫かも」と思えるようになった。
次第に、人前に立つことに抵抗がなくなってきた。それ以上に、ワークショップの進行やトークイベントなどで「自分がこの場の空気をつくる人になりたい」と思うようになった。受け身で恐々と口をひらいていた私が、だんだん自ら言いたいことを言えるようになった。
そして、今
今も私の吃音は治っていない。
でも、昔みたいに自分の吃音に頭を悩ませることもない。
声を出す、以外のところで真剣に考えたり、目の前の人に向き合っていたら、案外声はすんなり出てくれるようになった。
昔から人前で話すことに抵抗があった私は、「本当に伝えたいこと」だけを真剣に伝える癖がついた。その癖のおかげで、吃音が改善した今、本当に伝えたいことを、周りに伝わりやすいように話せるようになった。
声を出すことに抵抗があった私は、周りの顔色を伺いながら自分の発言のタイミングをはかっていた。そのおかげで今は、相手が話したいことを引き出すように相槌をうったり、質問したりできるようになった。
今になって、これまで外に出さずに溜め込んできた言葉がたくさん溢れてくるようになった。20年以上の言葉と気持ちの蓄積が、雪崩みたいに出てくるようになった。
自分の中に秘めているたくさんの言葉を、文章だけじゃなくて「声」を通しても伝えられるようになって嬉しい。
ラジオという、自分の声を思う存分出していい場所を与えてもらって、とても嬉しい。自分の話を喜んで聴いてくれる人がいることが、信じられないくらい、泣きそうなくらい嬉しい。
自分が言いたいことを言葉で伝えることができるのは、とても幸せなこと。
自信もって伝えていこう。