見出し画像

【表現評論】メモリーズオフ ゆびきりの記憶  コアレビューその55 まとめ(完結)【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

⚫︎前回の記事

⚫︎タイトル画面が変化

恒例のやつ。全員クリアで画面がサムネの画像に変化。伝統芸能です。今回は直近クリアしたキャラがタイトル画面になり、最後は全員集合になるスタイル。

謎の背景
リサルートクリア後
全員集合

⚫︎その55で完結

本当にここまで長くなるとは思いませんでした。過去最高だと思われたそれからが85000字程度だったわけですが、ゆびきりはなんとこの記事を描く前の時点で13万字弱あります。ということはこの記事を書き終える頃には15万字くらいに。もう京極の本かゆびきりのレビューかって感じですよ。プレイ時間も86時間とダントツの長さです。記述スタイルが変化しているとはいえ、あまりにも長大になってしまった。今回は全キャラをやり切りました。一片の悔いなし。

⚫︎2024年から見たゆびきりの記憶の感想

相変わらずメールでやり取りするスマホのない時代ですが、それ以外はそれほど古さは感じなかったですね。絵も一新されてゼロ年代感が結構薄れている感じはある。いいよね。森井しづきさんの絵。またキャラデザやってほしい。作品であんまりガジェットを出してこないので、古さを感じなかったというのもある。毎度毎度スマホのあるなしで世界がずいぶん変わったんだなと思わされます。

肝心の内容ですが、これが2024年に発売されたとしても、トップレベルのクオリティじゃないでしょうか。メモリーズオフとしてはトップ3には確実に入る。ミステリー要素としてのギミックが他の作品に比べてダントツで非常に優れてますし、霞(ちなつ)ルートの出来は他の追随を許さない。BGMもいいし、シナリオのクオリティも高いし、ボリュームもたっぷりで言うことがない。

ただなぁ、問題が一個だけあって、CGの質がバラバラなことですね。特にリサはまあまあアレ。霞とちなつはメインルートだけあって流石に粒が揃っている。姫ちゃんもまあまあ。詩名は若干危ない。そんな感じでCGの質はいつになくブレています。いや、いつも通りかな。T-waveもバラついてたし。むしろバラついてなかったのってそれから(追加CG除く)だけなのでは。あと1st2ndか。イノサンフィーユも入れていいけどまだやってないので。ふたりの風流庵はクオリティ高かった気がする。全てがXBOX360版のパケ絵のクオリティだったらあまりにも神だったんだけど、流石にそうはならなかった。

攻略キャラはいつも通り5キャラです。シリーズ伝統のダブルヒロイン、霞とちなつがメインルートになっています。今回はリサ以外は全員ボリュームがすごかったですね。詩名と姫ちゃんも長かったけど、特に霞ちなつルートは相当長かった。過去最長じゃないでしょうか。しかもしっかりと必要な長さ。水増しだろとか、薄めたカルピスだろとか、そんな感じは全くなかったです。すごく作り込まれている印象を受けました。

シナリオの評価をルート別に見ていくと、下記の通りです。

S+ 霞
A+ ちなつ
A   織姫
A   詩名
C  リサ

評価基準
S+  いのりと霞だけの特別称号
S  メモリーズオフの魂
A+  ほぼSに近いけど何かが足りない
A  全体的に素晴らしい&特別に光る部分がある
B  全体的に素晴らしいor特別に光る部分がある
C  よくまとまっているor光る部分がある
D  C評価と比べると見逃せない欠点がある
E  見どころが少ない&見逃せない欠点が多い

今までのルート別評価は次の記事に載せてます。

ゆびきりは霞はメモリーズオフ史上でも最高のシナリオ、ちなつはちょっと腑に落ちない点があるけど魂のこもったシナリオ、織姫と詩名は全体的に素晴らしいシナリオ、リサはあまりに普通のシナリオでした。霞なんかは昔やった時もいいなぁと思ってましたが、長い時を経てプレイするとやっぱり素晴らしいシナリオでした。ちなつも首が九十度傾くポイントはあるんですが、可愛いからね。可愛いは正義。嫁だけはある。なおくんの嫁だけど。織姫と詩名もレベルが高かったし、リサ以外は普通に4番張れる逸材ですね。いいんだよ。リサはゆびきりの中でも上位のルックスモンスターだから。

BGMもよかったですね。タイトルBGMとかreciteとかits and butsとかMoment of happinessとかLivelinessとか名曲揃い。霞のBGMは出てくるだけで存在感が凄い。詩名のBGMも底抜けに明るくなれる。あすかかおるのBGMみたいな感じ。reciteはザ・メモリーズオフと言っても良さそうな曲です。明るい曲調から切ない曲調に変わっていくのはもはや伝家の宝刀。今後も使ってもらいたい。Sadness In Confessionなんかもずっと使って良さそうだよなぁ。

今回の主人公である芹沢直樹君は上級国民で高身長でイケメンで性格も良い男です。文句のつけようがない。詩名ルートの鈍感キングと化したやつ以外は。とはいえ、それが実は仮面だったというのが、この作品の最大の伏線です。本編途中で名前が変わる主人公、この人くらいしかいないんじゃないの。芹澤直樹というのは実は死んだ友人で、鷹見大輔が本名だったことが、物語の中盤くらいにわかります。本編から察するに大輔は直樹よりもアクティブで押しが強いタイプだったようなので、記憶を取り戻してからはそういう側面が強くなっていきます。

大輔はメモリーズオフの主人公らしく、芹澤家という名家のお家騒動のトラウマから死んだ直樹を名乗るようになり、騒動絡みで後継者から外され親にも捨てられ、その辺りの記憶を忘れてしまっているというガチで悲しき過去の持ち主です。途中までは完全に自分を直樹だと思い込んでました。この作品は重い過去のキャラが多すぎる。従兄弟であるちなつの家に世話になっていましたが、自分を直樹だと思い込んでいることで精神的に不安定になっており、さらにちなつも直樹に依存しているため、こいつらちょっと引き離そうと考えたちなつ父の策略によって家を出ることになります。表向きの理由は本家に嫁ぐ予定のちなつと一緒に暮らすのはまずいという理由ですが、真の理由は二人の安定のためでした。そしてちょうど一人暮らしを始めたところが物語の1日目。

大輔はイケメンだけど顔で落とすタイプではないらしい。顔で惚れたなってヒロインはリサくらいじゃない。みんな大輔の勇気か行動力とか配慮の細かさに惹かれてる感じはある。聞いてるか。伊波。ショーゴ。春人。志雄。よくよく考えると顔で落とすやつばっかりじゃないの。メモリーズオフって。一蹴君と智也だけは信じられる。智也もちょっと怪しいな。信じられるのは一蹴君と大輔だけ。

そう言えばT-waveにあった用語集が今回無くなってるんですよね。毎回しっかりと入れてもらいたい。ネタバレ防止のフラグ管理が凄まじく面倒そうなのは想像できるけど。

で、メモオフのコアレビューの肝心な点は、昔と比べて作品の評価がどう変わったのか、ということです。ゆびきりはどう変わったのか。ゆびきりは昔も素晴らしいと思ってたけど、今やるともっと素晴らしかったです。それからとゆびきりはいい思い出しかなかったんですが、どちらも相変わらず最高の作品でした。ゆびきりはガチで当時永遠にやってたからな。全クリするまで無限にやってた記憶しかない。それからも同様。やっぱり素晴らしい作品は箸も進みますよ。そして昔よりも霞が健気で可愛かったですね。っぱメモリーズオフは唯笑といのりと霞よ。

T-wave終了時点での番付がこちら。

殿堂入り 1st
S それから
A ゆびきり 
B 2nd T-wave 星天
C #5
D 想君
メモオフではない傑作 IF

そしてゆびきり終了時点での番付がこちら。

殿堂入り 1st
S それから>ゆびきり
A T-wave>星天 
B 2nd
C #5
D 想君
メモオフではない傑作 IF

ゆびきりは上げました。改めてやってみても、それからと並ぶ作品。T-waveと星天も上げました。やっぱりメモリーズオフとしては2ndよりは上じゃないかなと。それからとゆびきりの差は、それからは全てのルートがいのりルートに繋がっているのに対して、ゆびきりはちなつ・霞ルートと他ルートがほぼ独立しているので、まとまりという点でそれからの方がやや高くなっています。でもほぼ誤差みたいなもんよ。これは。T-waveと星天の違いは智紗の存在かな。やっぱり智紗は魂がこもってる。魂って何よと言われても話が長くなるんですが。これまで散々話してるのでそこはスルーしておきます。イノサンフィーユは多分再プレイしても変わらないと思うので、これが最終的な番付かもしれない。ファイナルアンサー。変わらないって言って毎回変わってるんだけど。

そろそろヒロイン別の感想に入ります。毎度毎度個別の感想までが長い。

●霞ルート 至高のヒロイン、一途な愛

黒髪ロングで前髪ぱっつんでモデル並みにスタイル抜群で性格はクールで声もクールで美人のヒロイン。BGMもクールな存在感を放っている。作中であまりにも美人美人言われまくってるので、メモリーズオフで一番美人だと思われます。マジで何回言われたのよ。リサも過去一と言っていいほど容姿に対する言及がありましたが、その比ではない。クロエパイセンとか芸能人組と比べても比ではない。霞の記事は毎回美人描写がありますねって書いてた気がする。当然それ以外にも記述はあったわけで、20回くらい言われてるんじゃないの。作中で霞を美人だと言わなかった人いなくない? ほぼ接点のなかった織姫だけか。先生が学生の容姿に言及することが倫理的に怪しいので何にも言わないだろうけど。でも天川さんは可愛いとか言ってた気がするな。倫理とは一体。

霞は謎に家に転がり込んできて主人公を脅迫し同棲生活を試みるというトンデモキャラで、最初は雅師匠とタメを張るくらいの謎の塩対応なんですが、その謎対応もきちんとした理由があった、しかも想像もつかない理由があったというのが、ゆびきりの核心であり凄いところですね。雅師匠は大した理由もないのに塩対応だからね。ナチュラルボーン塩対応。逆に凄いよ。それが魅力だけど。あらゆるところで引用される雅師匠。キャラクターが強すぎるから仕方がない。

実は霞の第一声が「大輔」なので完全にネタバレなんですが、初見じゃそんなこと誰も気づかないです。気づくほど考察しながら読んでる方が不自然だよ。前も言ったけど僕は元の世界線に戻ったら紅莉栖が死ぬことすら忘れていた男ですからね。岡部と一緒に驚いたくらいの鳥頭。

ゆびきりは芹澤家という名家のお家騒動を中心とした物語になっています。登場人物である大輔、霞、ちなつ、直樹(故人)はそれぞれ芹澤本家の4人娘の子息で、従兄弟同士です。みんな幼馴染。T-waveに続いて再び幼馴染のメインヒロインです。まあこっから先は全部幼馴染なんだけど。

ちなつは直樹の許嫁で、ちなつは直樹が好き、直樹は霞が好き、霞は大輔が好き、大輔はちなつが好きという見事な四角関係。明言されていませんが、おそらく直樹が長女(本家の跡目取り。跡目取りとは本家の養子となった人物と結婚する本家ゆかりの女性のこと)の息子です。そして大輔とちなつは次女三女の子息でしょう。霞が四女の娘であることだけは確定しています。シリーズで近親関係にあるヒロインは美海くらいですかね。それでも美海は幼馴染ってほどの間からではなかったからな。従兄弟で幼馴染という超絶近い距離にあるのがちなつと霞。なかなか珍しいヒロインです。幼馴染って近親関係はない方が普通ですからね。普通とは何か。

幼少の頃からずっ友だった4人ですが、7歳くらいの時に、海辺の危ない場所にある洞窟に勇気の石(作中のペンギンアニメで出てくる石)を取りにいくという遊びが流行り、直樹が崖で足を滑らせて転落死するという事件が起きます。しかも取りに行った理由が、直樹君が大好きな霞ちゃんに認めてもらいたかったからという悲しい理由。さらに言えば、最初は直樹はビビリだったので取りに行けなかった訳ですが、霞に煽られた結果、勇気を振り絞って取りに行ってしまった背景があります。おまけに一回は成功したけど、それはタイムカプセルに入れてしまったので、霞に見せるための二個目を取りに行ったところで転落したという。

霞はシリーズ伝統のクソ親父の持ち主で、クソ親父が本家の直樹に気に入られるようにけしかけていたため、辟易していました。しかも本人はもともとクールでもなんでもなく勝ち気な性格だったため、弱気な直樹にイライラしていたという。そういうこともあって、直樹を煽ってしまった訳ですが、この出来事は霞にとって深いトラウマになってしまいます。そらそうですよね。自分のせいで(間接的に)幼馴染が死んでしまったんだから。智也とか智紗よりもだいぶ因果関係が深い。傘持ってくる途中に交通事故に遭ったとかとか、溺れたところを助けられた結果衰弱死したとかは、智也や智紗に瑕疵があるとは考えづらいですが、勇気の石を取ってくるなんて別にやる必要もないことですからね。この二人と違って間違いなく霞には瑕疵がある。トラウマレベルで言えば過去最高かもしれない。でも流石に7歳のキッズがやったことをそこまで咎める気にはならないですよ。情状酌量の余地はある。しかし霞はそうは考えていないので最大級のトラウマを抱えた人物になっています。ちなつの方も相当だけど。

本家の跡取りである直樹が死んだことで芹澤家では戦犯探しが始まります。大輔は霞がこまった時は僕が助けるというゆびきりの約束をしていたので、霞を庇って直樹が死んだのは自分のせいだと主張します。結果、大輔が一族からフルボッコに。ちなつも有る事無い事吹き込まれて病んでいきます。霞の父親は真相を知っていたので、というかこいつが一族を焚き付けた張本人なんですが、これ幸いと大輔に罪をなすりつけて霞と共に逃亡。霞は何もできずに遠くへ引っ越すことを余儀なくされます。大輔を放って逃げてしまったこともトラウマとなり、トラウマにトラウマが重なっていく状態に。霞はもう自分は幸せになることはできないと考え、生きながらにして死んでいるような10年間を送ります。働かない(とは明言されてないけど)父親のためにアルバイトに精を出し、家事をしない父親のために炊事掃除までやり、全てを父親のために捧げるような人生を送っていたと。性的なトラブルはなかったようですが、それも親心ではなく、将来霞を高く売るための算段だったことが後々わかります。完全なるクズ。環境で悪になったわけではない。生まれついての悪(ワル)。吐き気をもよおすほどの邪悪です。

で、こんだけ美人美人と言われるほどに美しく成長した霞は、見事に父親に成金親父に売られることになりました。夜寝ているところに父親と成金親父の電話が聞こえてきた霞。内容はあいつそろそろ寝たんで襲うチャンスですよ、こっちでバッチリ撮っておきますから、という趣旨のクズの会話です。ガチのクズ。それを聞いた霞は無我夢中で逃亡。10年間想い続けた大輔に助けを求めるために、昔住んでいた場所へ戻ってきましたが、大輔の家はすでにありませんでした。途方に暮れているところでちなつの父親と遭遇し、今の大輔の状況を聞かされます。大輔は過去のトラウマ(とはちなつの父は知らないけど)で直樹を名乗るようになってしまっていると。昔の記憶がないから霞のことも覚えてないと。その事実に絶望する霞ですが、ひと目だけでも大輔に会いたいと考え、大輔のいるアパートで待つことにしました。そこに大輔が通りかかったとき、思わず「大輔」と声をかけてしまうところから物語が動き出します。

こんな感じで物語が始まるまでの背景がものすごく重厚長大なんですよね。ここまで凝ったものは過去に無かったんじゃないでしょうか。ギリギリゆびきりくらいかな。あれもほぼ全員が物語開始以前から関わってますからね。全然関わってないのは師匠だけ。イノサンフィーユもまあまあ凝ってるけど、ゆびきりほど複雑に入り組んでいるわけでは無い。やっぱり名作って物語開始時点でしっかり面白くなるように組まれてますね。初期設定が面白さを決めていると言っても過言ではない。

霞が行き場がないということで謎の同棲生活が始まるわけですが、霞が一緒に住んでいた目的は、直樹になりきっていたことで不安定になっている大輔が、直樹のままでいられるように見守るためです。そして霞の態度が冷たかったのは、相手が大輔であることを意識すると、自分に迷いが出るから。大輔が直樹でいることはちなつのためでもあったので、要するに大輔とちなつのために自分を捨てて二人を見守っていたということになります。しかも霞は成金親父に売られようとして逃げてきた直後ですからね。自分が大変な状況なのに、あくまで二人のために全てを捧げていたというのが、このヒロインの本質だと思います。全てと言っても1‰くらいの下心はあったわけですが、それはいいよ。人間なんだから。唯笑もいのりもそのくらいの下心はあったわけだし。メモリーズオフとしてはそのほうが自然。霞の本質を決定づけているのは直樹を死なせてしまったトラウマと、大輔を見捨てて逃げてしまったトラウマにあるんでしょうが、どんなファクターがあったって自分を犠牲にするって普通無理ですからね。無理だから自己犠牲という行為が光るわけで。霞は唯笑ーいのりに続くメモリーズオフの魂を持ったヒロインでしす。っぱこれよ。メモリーズオフといえばこれ。

霞の思惑とは異なり、一緒に暮らしていく中で大輔は過去の記憶を取り戻してしまいます。そこからの態度の変わりっぷりがやーばい。デレまくり。声色まで変わってる。ツンデレでもないんだよな。。ツンツンしてたのはむしろ二人(大輔とちなつ)のためにつけていた仮面なわけで、こっちの方が本質に近いんじゃないでしょうか。キッズ相手にはニコニコしてたし。クールな方がよかったのに、と詩名が言っていた場面もありましたが、元々そういう人間ではない。さらに言えば昔は勝ち気で短期な人間だった。人間性が時代によって色々と変わっていますが、それだけ壮絶な経験をしている裏返しでもあります。

ちなみに霞は一回たりとも主人公のことを「直樹」とは呼んでいません。記憶を取り戻すまでは一貫して「貴方」。記憶を取り戻した後ようやく「大輔」と呼びます。

「……大輔、ちょっといい?」
「お前なぁ。ここでは芹澤直樹で通すって話だろ? みんなが混乱するって」
「関係ないわ。私にとって、貴方が直樹であった時間なんて一秒も無かったもの」
一秒もなかった?
そう言われてハッと気付く事があった。
「……まさか、今まで一度も俺の名前を呼ばなかったのって」
「……」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

痺れますねこのセリフ。貴方が直樹であった時間なんて一秒も無かった。これが愛だよ愛。まあ主人公を直樹でいさせたいなら直樹と呼んだ方がよかったんじゃないか説はありますが、そこは意地だったのか。

ただ、1回だけ主人公を「直樹」と呼ぶシーンがあります。サブヒロインのルートでアパートを出ていくときに、「直樹」と呼んで去っていく。霞は常に大輔のことを見ていたようなので、主人公は霞やちなつと関わらずに、直樹として生きていくのが最善なんだなと判断して「直樹」を呼んだのだと思います。これが愛だよ。愛。霞の本質は自己犠牲という名の愛。

詩名ルートに至っては、大輔のために恋愛相談にまで乗っていますからね。こんなセリフがあります。

「私思うんだけど……その娘ーー詩名ちゃんって子……貴方のこと好きだったんじゃないかな?」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

どんな気持ちでこのセリフを言ったのか。泣ける。愛のために愛を捨てた女。もうゆびきりは霞の物語にしか見えなくなってきた。

大輔は昔はちなつが好きだったわけですが、記憶を取り戻してからは霞とくっつきます。共同生活を送る中で霞の本質に触れて惹かれていったと。こんなん絶対好きになりますやん。昔はちなつ以外目に入ってなかったというのが霞の評価ですが、これもどうなんでしょうね。わざわざ大輔が霞の身代わりになったのは単に約束を守ろうとしたからだったのか、好意があったからなのか、友情だったのか、はっきりとはわからない。ただちなつが一番だったことは確かなようなので、最後の最後で逆転満塁サヨナラホームランを打った感じです。打とうと思って打ったわけではないんだけど。

大輔とくっついた後は再びお家騒動の話に。ちなつが本家の跡目取りを辞退したことで、霞のそのお鉢が回ってきます。霞は例のクズ親父にそろそろ帰ってこないと、10年前みたいに大輔とちなつをいびり倒したるぞと脅され、二人のために大輔の元を去り、父親の元に戻り、本家に行くことに。ここまで清々しいほどのクズはなかなかいない。どうやって芹澤の四女とくっついたんだよこいつ。クズがモテないのかといえばそうでもないのが世の中ですが。今はただのおっさんだけど、霞の容姿から考えると、顔だけはとんでもなくイケメン説あるな。ちなみにクズ親父は長女を狙ってたけどその過程で思わず四女を妊娠させてしまったという経緯があります。何をどうやったらそういう経緯になるのかわかりません。四女を落としたら長女に行けるみたいなシステムじゃないでしょ。モテる人間にしかわからない領域があるのか。

急にいなくなった霞を探し回った大輔は本家に霞がいることを知りますが、助けに行こうとするとちなつの父に引き止められます。霞を助けると大輔が芹澤から追放されることになり、大輔の依存しているちなつはもういよいよヤバくなるんだよと。かと言ってちなつを取ると霞を見捨てることになります。最後にせまるメモリーズオフチックな究極の二択。大輔は霞を取りました。そらそうよ。もうすでに選んだんだから。夜に河原で落ち合って逃亡しようとしますが、落ち合ったところまではいいものの、クソ親父が現れます。謎のクソ親父とのバトルに勝利して一緒に逃亡するところでこんなセリフか。

「ねえ、何を考えてるの?」
「大したことじゃないよ。誰かさんに言われたことを思い出していたんだ」
「追い出したいならご自由に。私は寝床を、貴方は将来を失う。面白い取引になる……ってやつ。本当にそうなったなって」
「アパートにももういられないし、学費や生活費のあてがない。そんな生活が待っているわけだ」
「…………」
霞は足を止めた。
「失礼ね。私は何も失ってないわよ」
「貴方のいるところが私の寝床だもの。そして……」
霞はそっぽ向きながら、俺の手を取った。
「あ、貴方も将来を失ってないはずだけど?」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

金もない。住処もない。当てもない。権力もない。全てがない。内々づくしの中の逃亡劇の中で、出てくるセリフが、貴方のいるところが私の寝床だもの、ですよ。こんなセリフあるぅ? 震えるわ。10年間耐えてきた霞だけが言えるセリフです。今まで受けてきた仕打ちに比べてば、大輔さえいれば、全てが些細なことだと。大したことではないと。その全てが集約されている言葉。愛だよ。一途な愛。

その後物語が大きく動き、最終的にはちなつが本家に対して霞と大輔の中を認めないならい私も一緒に逃げるけどいいんか? 誰も跡取りいなくなるけどそれでもいいんか? 芹澤家滅亡するけどええんか? という趣旨の主張を、自分を盾に押し通して、事なきを得ました。本家的にも三人全員いなくなったら終わりですからね。ちなつも理由はどうあれ大輔と共に過ごした10年があるわけだから、大輔に幸せになってもらいたいという想いがあったんでしょう。

霞と同棲してたこともクソ親父から霞を救った美談みたいな扱いになり、クソ親父は一族から追放され大輔が芹澤を継ぐことを条件に霞との仲も公認となりました。最後は丸く収まっている。跡目取りで婿を迎えるよりも、大輔を本家の養子にして継がせた方が話は丸いよね。大輔が芹澤の男系男子なのかはよくわからんけど。後継者の資格があるんなら鷹見という家系が芹沢の男系であると考えるのが自然ですが、作中では何も触れられていないので謎です。大輔の両親がこの作品の一番の謎かもしれない。

霞ルートは、とんでもない毒親から逃亡して、10年間想い続けた相手自分のことさえ覚えていない状況で、自分のことを顧みず、ちなつと大輔を支え続け、お家の逃れられない運命に翻弄されながらも、最後の最後に想い人と無事に結ばれるという美しい物語でした。

いやぁ。昔やった時もいいなぁと思ってましたが、改めてやると本当にいいシナリオでした。あの過去最高と言われたいのりに勝るとも劣らない物語です。こういう他の誰かのために、っていうのが歳を取ると本当に刺さる。逆に我儘に好き勝手に生きてる奴が浅く見えてくるんだよなぁ。人類が長く繁栄してきた本質って、こういう誰かのためにってところですよね。つまりこの手のお話の素晴らしさには普遍性がある。今後これを超えるシナリオできるのだろうか。考えられないですね。シュタゲの時も同じこと言っててカオスチャイルドで超えてきたので、双想で超えてくるのかもしれない。

メモリーズオフNo. 1ヒロインです。全てが至高。文句なし。愛に生きる女。

●ちなつルート 大罪の魔女と王子様

ちなつはなおくんの嫁なのです、が決め台詞のヒロイン。意味がわかるとこれほど怖いセリフはない、ということで有名なセリフです。大輔の従兄弟で、昔の大輔が好きだった女の子で、少し前まで一緒に暮らしてたヒロイン。同級生だけど妹的な可愛さで、嫁嫁と主人公に懐いてきます。見知らぬ人に告白されているシーンもあるので、容姿も整っているはず。元々許嫁だったので、その名残で嫁を自称しています。と見せかけて、実は復讐のために嫁を自称していたことが後々判明する。こええよ。

本当の許嫁であった直樹を事故で失った悲しき過去の持ち主で、そのせいで病んでしまったという経緯の持ち主でもあります。ちなつは芹澤本家に本家の妻となるべく育てられた存在で、本家の男の依存して言いなりになるように仕上げられています。だから小さい頃から直樹(本物の方)にべったりと依存していました。当の直樹は霞が好きだったんだけどね。噛み合わない四人。

直樹が死んでからは依存先がなくなってこの世の終わりみたいな状態になっていたわけですが、大輔が僕がずっと一緒にいると約束したことで、生きる気力を取り戻しました。ところがどっこい、ちなつは直樹が死んだのは大輔だとか、あることないこと本家の人間に吹き込まれるようになり(この風評被害の黒幕は霞のクズ親父ですが、クズ親父はあくまで末端で、首謀者は他にいたはずだと大輔は分析していました。大輔がいなくなれば得する人間が一族の中にはいるわけです)、大輔を酷く憎むようになります。さらに直樹の許嫁だったら仇を取らないと、とまで言われ、ある種の洗脳状態に。ちなつは大輔を呼び出して、殺すつもりで階段から突き落とすという行動に出ます。そして大輔はこの事件から回復した後、直樹を名乗るようになると。大輔の意図は、ずっとそばにいるというちなつとのゆびきりを守るためには、直樹になるしかないというものです。当の本人はそんなこと忘れていた訳ですが。というか記憶がないし。ちなつは自分で突き飛ばしておいて戻ってきた? 直樹に依存するようになりますが、当然大輔であることは知っているので、同時に大輔に対してずっと復讐を続けていました。なおくんの嫁だの何だの言ってくっつき虫なかわいいちなつでしたが、その裏ではとんでもない復讐物語を描いていたというのが物語の真相です。

なおくんの嫁なのですって、ホラーなセリフなんですよね。ちなつはなおくんの嫁(大輔の嫁じゃねえんだよ)なのですと言っているわけで、言葉の裏には常に復讐の意図が挟まれていたと。女は恐ろしいのう。しかもこのセリフ、他に女が寄ってこないように常に発言していたというおまけ付き。なぜそんなことをしていたかと言えば、直樹を殺した(実際はほぼ無関係)大輔に絶対に幸せになってほしくなかったから。つまり復讐。このセリフ(なおくんの嫁)を言えば大輔に寄ってきた女がみんな離れていったと後々白状しています。どうしてくれんの。大輔に寄ってきた女は当社の推定だと50人以上いるというのに。あまりにも重い罪。おかげで大輔は俺はモテないのだと勘違いしています。絶許。

物語は依存関係にある大輔とちなつをちなつの父親が引き剥がして、大輔を一人暮らしさせるところから始まります。いつまでもなおくんなおくん言ってたらちなつがやべえぞと。大輔もやべえぞと。最近二人とも精神的に怪しいし、早くなんとかしないと。そんな父親の親心。

作中常に嫁嫁言って主人公を甲斐甲斐しく世話するヒロインですが、依存&復讐という誰も想像しない動機によってそれを成していたという。真相がわかると全てが違って見えてくる。大輔が記憶を取り戻そうとした時も、今更大輔に戻られても困る(自分には直樹が必要&大輔を直樹で居続けさせることが最大の復讐)ので、スコップで襲撃してくるという恐ろしさ。一回ガチで殺そうとしただけはある。キッズの時の話は仕方ないとしても、こっちは仕方ないでは済むのか。霞の助けが入ってことなきを得ましたが、助けに来なかったらどうなってたかわからない。

でも仕方ないと言えば仕方ないんですよね。本家の意向で直樹(本物)に依存する、尽くすように育てられたんだから。言ってみれば直樹は崇拝対象の神様なわけで、神に仕える信従としては至って正しい行動と言えます。小さい頃から洗脳されていることに対して人は責任を負えるのかという哲学的テーマを投げかけてくる。結果的に昔も死ななかったし、今も怪我を負わせたわけではないから、ギリギリ許されてる感はあるけど、メモリーズオフのヒロインズの中では割とガチで犯罪に近いヒロインです。栗泥棒の片棒担いだのとは訳がちがう。究極的に悪いのは本家のアホな訳ですが、人はどこまで自分に責任を負う必要があるのか。僕の見解だと、キッズの時は流石に仕方がない。スコップは結局本人無傷だからセーフ。そう考えるのが一番適当な気がする。霞に感謝しとけよ。ほんまに。とはいえ、直樹が死んでしまったのは霞に遠因があるので、全てがお互い様と言えなくもない。直樹(本物)がちなつに惚れていれば丸く収まっていたというのに。

大輔に戻った後も、今まですまんかった、と謝罪が出てきますが、相変わらずずっとなおくんなおくん呼び続けていました。相当病んでいる。だいちゃんと呼んだら負けみたいな。ちなつは元々大輔が苦手だったらしいからね。優しいなおくんと違ってガサツで苦手だったみたいな。途中からは慣れたようですが、それがファーストインプレッション。多分昔の大輔には何の好意もなかったのだと思われます。直樹に依存するように育てられてるんだから当たり前ですが。悲しい。

最終的にはちなつが全てを白状し、大輔がちなつの罪を全て許して無事結ばれます。ちなつも10年ずっと一緒にいたのは直樹ではなく大輔だったのだと理解して、ようやく全てを受け入れました。まあね、どんな罪も本人が許すって言えば終わりなんですよね。少なくとも二人の間では。

「ずるいのです……。力が入らないのです……」
「王子様のキスには解毒作用があるからな」
「ちなつはお姫様じゃなくて、悪い魔女ですよ。ずっと毒を与え続けていたのですから」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

最後の方のセリフ。「王子様のキスには解毒作用があるからな」という、誰もが人生で一回も言わない言葉を平然と言ってのける男です。一回くらい使ってみたいわ。使ってみたいか? いや、使ってみたいわ。どこで使うんだよ。I am your fatherくらい使い道がない。

ようやく、本当の大輔として、本当のちなつと見つめ合えた気がする。
「ちなつも約束するのです。ずっと一緒です……」
ゆびきりしたまま、もう一度キスをした。
大輔がちなつと。ちなつが大輔と。
悪い魔女と王子様の恋愛譚があってもいいじゃないか。
そんなことを考えながらーー心の繋がった本当のキスをした。

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

悪い魔女と王子様の恋愛譚。これが一番ちなつルートを言い当てたセリフじゃないですかね。悪いどころじゃないんだけど。極悪の魔女。大罪の魔女くらいは言ってもいいけど。何にせよ王子様が助けてやればいいんですわ。自分を王子様と言っていいのは大輔くらいですよ。イケメンは違うのぉ。

ちなみにイノサンフィーユでちなつが出てくるので、正史はちなつっぽいですが、そんなもんは毎度恒例の公式が勝手に言ってるだけなんでね。僕の中では霞ルートが正しい歴史です。半分ネタだけど半分はガチ。そもそも表現は表現物として出力されたら表現者の手を離れるものなので、公式が勝手に言ってるだけ、というのは、荒唐無稽な言葉ではない。作者インタビューとかね、開発の声とかね、絶対に本当のことを言ってるとは限らないんですよね。おまけにイノサンフィーユのキャラ選は人気投票とかのデータで決めてるんじゃないの。じゃなきゃクロエパイセンが出てくるわけあらずだし。むしろユーザーが勝手に言ってるだけ、正確にはユーザー(統計)が勝手に言ってるだけ、という方が正しいかもしれない。統計を取ったのは公式だから、結局は公式が勝手に言ってるだけが正しいのか。

話が逸れました。とにかくいろんな意味でヤバさが際立つちなつですが、困ったことに可愛いんだよね。こんだけやらかしまくってるのに憎しみの感情がほとんど起きない。論理的に考えれば、情状酌量の余地があるとはいえ、とんでもない人間なわけですが、それでも許せちゃう。大輔も許しちゃう。同姓の霞も守ってあげたくなると評している。なんでも許せそうな可愛さを持つヒロインです。可愛いは正義を地で行く女。そういう意味では、大輔の言うとおり魔女なのかもしれない。

ホラー度No. 1ヒロインです。

●織姫ルート 倫理と欲望の狭間

※ややこしいですが、以下サブヒロインのルートは大輔が記憶を取り戻さないので主人公は直樹と表記します。

直樹の担任のちっちゃい先生。通称姫ちゃん先生。CVは野中藍さんですが、ちっちゃい先生をやらせたら世界一だと思う。ちっちゃい先生が他にどのくらいいるかわからんけど。ちっちゃい先生のための声としか思えない。年上なのにちっちゃくてポンコツで生徒思いというギャップで攻めてくる。つばめは授業なんて意味ないから! さっさと出ていけ! と言ってる(言ってない)不良教師ですが、姫ちゃんはきちんとした先生です。つばめは双想でどんな立場になってるんでしょうね。相変わらず授業なんて意味ないから、みたいに尖ってるんだろうか。それとも丸くなってるのか。丸くなったつばめなんて見たくないんだが。風を眺めてるの、くらいは言ってほしい。

姫ちゃんの担当は数学です。珍しく理系の女。機械音痴だけど。過去にペタペタ(ペンギンアニメ)に励まされたことがあるので、作品一のペタペタファンでもあります。いじめられっ子のペンギンのぎんじろーさんが勇気の石を取りに行くというストーリーのアニメのようです。作中ではかなりキーワードになっているアニメでもある。

織姫ルート、やたらと過去の男の話が出てくるんだよね。バスケやってた時の憧れの先輩とか。こういう話、個人的には元彼がいたとかよりも心に重く響く。何この重さ。まあそれだけじゃなくて元彼もしっかりいたわけですが。しかもバスケ部の顧問の数学教師と付き合ってたというオチ。ふーざけんなよマジで。この純也さんとかいう教師よ。鈴の告白をしっかりと断った教師を見習えや。教え子、ましてや顧問やってる部活の生徒に手を出すという許されざる所業。

直樹と姫ちゃんは、直樹がトラブル起こして姫ちゃんに庇ってもらったり、偶然遊園地で見かけた姫ちゃんと一緒に遊んだりで、だんだん仲が深まっていきます。姫ちゃんは描写的にはメモリーズオフNo. 1のメシウマヒロインですね。まあ数学教師のために練習したんだけどさ。何この切なさ。知ったら気持ち味が落ちる気がするわ。ほんの気持ち。

だんだん仲良くなっていく最中で、山岸いずみという探偵を名乗る人物が現れます。織姫の縁談が進んでるので、身辺調査してますと。実はこいつは作中でも相当あたおかのキャラで、何なら探偵ですらない。真相は昔数学教師を織姫と取り合った人物です。実際は取り合ってすらおらず、自分が数学教師と付き合ってると思い込んでいた精神異常者のストーカー。織姫はそれに騙されて数学教師が二股かけてると思って別れたという。この辺だけは純也さんに同情する。ストーカーに付き纏われてもう限界や、警察に行くと織姫と話し合っているところにいずみがやってきて、織姫と純也が自分を裏切って付き合っていると思い込んだいずみが二人を刺します。かろうじて二人は生き残りますが、純也は行方知れずに。織姫も転校を余儀なくされます。作中では週刊誌の記事になっている事件です。織姫の悲しい過去。

直樹はやがて織姫に告白しますが、教師としてそれは受け入れられないと諭します。よかった〜。純也さんと同じじゃなくて。そもそも生徒を自分の家に毎日呼んでることからして怪しいわけですが、最後の一戦は死守している。そして売り言葉に買い言葉で元彼の話だのなんだのを叩きつけて大喧嘩して帰ることに。これだけ派手に喧嘩するルートも珍しい。

帰り道にちなつと出会い、お前あの泥棒猫に騙されてるぞ、という趣旨の話をされます。このルートはちなつがおじゃま虫なんだよね。さらに織姫の過去の出来事までちなつが知らせてくる。ちなつが誰に聞いたかといえばいずみ。いずみは過去の復讐のために織姫たちに付き纏っていました。織姫と直樹が仲良くしてる写真を隠し撮りしていたようで、これをばら撒くぞと織姫に脅迫メールを送ってきます。それを受けて直樹に助けを求める織姫。

慌てて部屋に戻って織姫の話を聞いていると、いずみが登場。私の純也はどこよぉおお! みたいな感じで完全に狂ってます。カオスヘッドのキャラかな。謎のバトルを繰り広げ、最終的に直樹が刺されます。いずみは逃亡して川で溺死。悪党に相応しい最後でした。

ちなつはあたおかおばさんを見て頭が冷えたのか、直樹のことは諦めました。より狂った人を見て正気に戻るパターン。命を助けられた織姫は、直樹の腕のアザを見て、過去に落ち込んでいたところに勇気の石を持ってきてくれた少年だと気づきます。

快復した直樹に対して織姫は、直樹のことが好きだけど付き合えないと告げます。それをやったら、また同じようなことになるかもしれないと。よかった。欲望より倫理を優先する大人でよかった。

直樹は織姫の返事を受けて、卒業したらまた告白しますと返します。

「待ってて、くれますか?」
「……う……うん……」
「その時まで……他の誰かのものにならないって、約束してくれますか?」
「ならないよ……あなた以外のものになんか……絶対にならない」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

とか言ってさ〜、明日には他の男と付き合ってるのが女なんだよね。という野暮なツッコミはやめておこう。織姫は大丈夫。先生は嘘つかないはず。でもここで安易に付き合って終わりじゃなくてよかったわ。そしたら純也さんの二の舞だからよ。賢者は歴史に学ぶ。ED後にエピローグが出てきて、卒業後しっかり付き合うことになったことが描かれます。うまくまとまったんじゃないでしょうか。最後に芹澤君から呼び名を変えるところが憎らしい。先生から恋人に変わった感じが出てていいですね。

織姫ルートは過去のないほどダークな話でした。いずみというあたおかおばさんが出てきたり、刃傷沙汰に巻き込まれたヒロインだったり、ちなつが病んでたり、生徒と先生という禁断のテーマだったり。この辺はイノサンフィーユへの萌芽とも取れる雰囲気を醸し出しています。いずみは完全にカオスシリーズのキャラなんだよね。メモリーズオフの雰囲気に似つかわしくはないけど、たまにならいいかという。ポンコツ先生の可愛さを愛でる話かと思いきや、かなりヘビーな物語というギャップを楽しむルートでした。

ちっちゃい度No. 1ヒロインです。

●詩名ルート 絶対に気づかせたい乙女

中学の頃からの知り合いで後輩という珍しい枠のヒロイン。声が最強の女です。詩名は音楽少女で、昔路上ライブしてオフ会0人状態の悲劇に見舞われたものの、通りがかったちなつだけが聞いてくれて心底救われたという過去の持ち主でもあります。ペタペタの主題歌の歌詞を作った人物でもある。音楽要素があるのはいいけど、肝心の曲はないというね。1曲くらい用意してくれてもよかったのではないか。ゆびきりの唯一と言っていいほどの不満はボーカル曲が少ないことですね。キャラソンもないし。T-waveはあんなに力入れてたのに。ボーカル曲1曲増やすのにいくらくらいかかるんですかね。減らしたってことはそれなりに予算が必要だってことだと思いますが。ノベルゲーの予算感を知っている人がいたら教えてほしい。何回も同じことを書いてる気がしますね。これだけ文章が増えればデジャヴ感も出てくる。

このルートの見どころは、絶対に詩名が自分から行為を伝えられないという構造です。詩名もおそらく登場時点で直樹に惚れているのですが、それを絶対に伝えられません。なぜ伝えられないのかと言えば、ちなつに顔向けできないから。救われたと言ってるくらいお世話になった先輩が、日頃から嫁嫁言ってる相手に直接好意を伝えることはできない。だからせめて直樹君に自分で気づいてもらえれば、その時だけはこの恋が報われるかもしれない。そんな絶妙な乙女心がシナリオのテーマでもあります。しかし直樹君はこのルートではレジェンド級の鈍感男になっているので、非常にやきもきする。それが面白い。人によっては直樹が鈍感すぎて流石におかしいやろと思うくらいにやりすぎてる話ではありますが、このルートのテーマは「レジェンド級の鈍感キングVS絶対に気づかせたい乙女」なので、これでいいんだよ。これが正解。非常にテーマに沿った内容だったと思います。

物語は直樹君がよ〜し、詩名の恋を応援しちゃうぞ〜と謎のやる気を出した辺りから動き出します。好きな相手はお前なんだよって話ですが、当然直樹はそんなこと気付きません。好きな相手に歌を作ってあげたらいいんじゃないか、ということで、詩名は直樹と一緒に作曲を試みます。

で、曲が出来上がって、最初にそれを直樹に聞かせます。この時点で気づけよと思いますが、とにかく直樹君は認知がおかしくなって詩名の好意にだけは気付けないというカオスシリーズのような状態になってるので、全く気付きません。好きな人に贈る曲を、最初に聞いてくれと言われてるんだから、普通気づくだろ。でも気づかないんだな。これが。曲を聴き終わった後、いい曲だったな、絶対伝わるよ、などと供述し、さらに詩名を絶望させます。絶対に気づかない男。

直樹君は何を思ったら詩名は亨が好きなんだと勘違いし、二人をくっつけようとします。二人は普通に付き合いだしますが、明らかに様子はおかしい。で、霞に相談したところで、上述のセリフが出てくる訳です。

「私思うんだけど……その娘ーー詩名ちゃんって子……貴方のこと好きだったんじゃないかな?」

「だから、私が言いたいのは、その詩名ちゃんは貴方に恋心を抱いていたんじゃないかっていうこと」
「恋心? 詩名が? でも、アイツは享さんのこと……」
「だから、それ自体が貴方の勘違いじゃないかっていってんの」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

霞さんの神サポートで、ようやく事態を把握し始める直樹君。そもそも詩名は一回も享が好きなどとは言っていません。全て直樹のはやとちり。感謝せえよほんまに。目の前に大輔がいるのにこんなサポートを強いられている霞さんの気持ちを考えたことあるんか。知らないんだから無理だけど。

仮に霞の言ったとおりだったとする。
そうすると、俺と詩名は両思いだったということになるわけだ……。
だけど……。
だけど、今はその事を少しも喜べない。
だって……。
もしもそれが自室ならば、俺は詩名に対して、とんでもない事をしてしまったのだから……。

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

霞のサポートでようやく認知が正常になる直樹君ですが、正常になると今度はとんでもないことをやらかしてしまったということに気づきます。狂った人間が正気に戻るとヤバいんだよね。

詩名ルートはヒロイン視点が効果的に使われており、さまざまな内情を知ることができます。だいたいこんな感じ。

・最初はちなつにくっついてる謎の人くらいの認識だった。
・恩人の恋人を好きになるなんてあってはならないことだと思った。
・それでも先輩が先に気づいてくれれば天川先輩には義理立てできる。
・ズルいけどこれに賭けるしかなかった。
・一緒に曲を作ればすぐに自分の気持ちに気づいてくれると思った。
・朝によく出会うのは待ち伏せしていたからだった。偶然ではない。
・直樹に応援されることはズルをしている自分に対する拷問みたいだった

複雑な乙女心。いやぁ。いいですね。ここまで心の機微を書いたシナリオはメモリーズオフの中でもなかなかないんじゃないかな。最高の物語です。

最後は詩名への好意を自覚した直樹君が、享と詩名のデートに乱入して享に鉄拳を浴びせます。その代わり自分も殴ってくださいと。享は二人のことをお見通しだったので、ぶん殴ってからあっさりと引いていきます。元々付き合いだしたのも直樹君のためのフリだからね。りりすの恋人のフリとは訳が違う。いやぁ。やっぱり享先生なんだよなぁ。僕は体を張れる男が好きです。体を張らないコンサル信君もちょっとは見習ってくださいよ。

最終的に二人はくっつくんですが、ちなつとの関係がどうなったのか詳しくわからずじまいでした。全てのルートでちなつをお邪魔虫にするとくどいので、これはこれでよかったのかもしれない。

乙女心No. 1ヒロインです。声も最強。

●リサルート ひとときの清涼剤

いつもニコニコなバイト先の留学生。留学先は浜咲です。浜咲の制服着てるシーンもある。何回浜咲出すねん。綾園なんか一回しか出てないでしょ。ベビーシッターが日本人だったので日本語ペラペラで、詩音的な謎日本知識を披露する、日本通のキャラでもあります。お気に入りのスポットは大江戸ミュージアム。メモリーズオフでは珍しい外国籍のキャラクターです。他は春玉しかいないはず。

ルックス最強ヒロインで、風流庵の看板女になっています。多分リサがいるだけで客が300%くらい増えてるはず。いなくなったらやばい。風流庵がやばい。立ち絵が一番可愛いキャラでもある。声も可愛い。直樹君のことをナオキと呼んでくるのも可愛い。

メモリーズオフで最大級に大きい何か

リサのルートは、激重ルートが多いゆびきりの中でひとときの清涼剤と言っていいほど、ライトな物語になっています。ライトと言ってもメモリーズオフ基準だけど。

リサの過去はだいたいこんな感じです。

「チナツ? ワタシが頑張ろうと思えるのは笑顔のためなんですよ」
「えがお?」
「はい。ママが死んでしまって泣いていたワタシに……ベビーシッターのチヨコが教えてくれました。いつまでも泣いていたら、天国でママが心配するよ、って……」
「天国のママがずっと笑顔でいられるように……頑張ろうねって……」

「そして、いつかワタシがママのそばへ行った時に、胸を張れる自分でいたいって」

「大切な人にはずっと笑っていてほしいじゃないですか? だから頑張れるんです」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

リサがスマイル全開なのはこういう発想があったと。しかし物語は父親が再婚しようとするお話になっています。再婚話何回目よ。鷹乃と那由多と志雄りりすとメモリーズオフの中でも定番のシナリオになっています。そのおかげで父親と不仲に。どこがライトなんだよという。そりゃ主人公を殺しにきたヒロインとか過去に刺されたヒロインに比べればライトよ。

ある時親父が風流庵に襲来して国に戻ってこいと言われます。それにとにかく反発するリサですが、父親の意図は結婚式をやるから一時的に戻ってきてくれというだけの話でした。終わったらすぐに帰っていいと。リサ父はいい親父だよ。メモリーズオフの中では珍しくいいパパ。リサはアメリカに戻るから日本に帰ったはずのベビーシッターのチヨコに会いたいと言います。ただ病気でもうリサのことは覚えてないと。そのパターンも知ってる。鷹乃のお母さんと同じです。こっちはお母さんではないけど。

それからなんだかんだでチヨコに会いに行って、女にリサと名付けているところを確認し、声もかけず満足して帰りました。全く鷹乃と同じですやん。メモリーズオフも過去問が大量になってきましたからね。流石に問題被りは仕方ないのかもしれない。許した。筋書きが似てるだけでリサと鷹乃のパーソナリティは全然違うしね。

リサは納得して国に帰り、家族と和解し、新しい家族と幸せに暮らしています。最後は日本に帰ってきて直樹君に告白して無事幸せにハッピーエンドです。幸せにハッピーエンドね。途中からすごーくいい雰囲気だったけど、お互いに好意を明確に伝えていなかったという。

「ワタシ、リサ・ケイシー・フォスターは……その……」
「その……」

「せ、芹澤直樹のことがっ、大好きですっ!」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

ナオキから最後直樹になるのがなんかいいですね。友人から恋人に変わった感じがある。やっぱり呼び方って重要なんだな(呼び方というか表記だけど)と思わされました。いやぁ。円満に結ばれていいお話でしたね。

大きさNo. 1ヒロインです。身長のことね。身長。

⚫︎まとめのまとめ

いやぁ。本当に終わってしまったんだなという感じですね。掛け値なしに神作品でした。特に霞ルートね。いのりルートに勝るとも劣らない出来。原罪と贖罪と救済というテーマは、まさにこのシリーズに相応しい題材です。霞は間違いなくメモリーズオフの魂の継承者でした。魂の継承者は唯笑ーいのりー霞ですが、その中でも一番誰かのために、という思いが強いヒロインだった。だってその対象が主人公だけではないわけですからね。ちなつも含まれているという。想い人のためだけではなく、恋敵のためにも自分を犠牲にするという、まさにメモリーズオフのヒロインオブヒロイン。至高のヒロインです。いのりは究極のヒロイン。唯笑は原初のヒロイン。

他のヒロイン達、ちなつも詩名も織姫もどこに行ってもエース張れる逸材。リサは可愛い。可愛ければそれだけでいい。ゆびきりはどこ切っても面白いです。そういう意味ではそれからに並び得る作品でした。僅差でそれからを上にしてるけど、作品のまとまりに微差があるという程度で、どっちも神作品です。

改めてBGMもよかったですね。T-waveとかそれからみたいに強烈に襲いかかってくるBGMがあったわけではないですが、自然と心に染み入ってくるような曲が多かった。Reciteとかね。あまりにも名曲。永遠に流しておきたい。キャラソンがなかっただけは残念かな。何事も完璧はないということで。

三ヶ月に渡る旅も終わりが近づいてきました。最後に恒例のベスト○○を挙げて終わりにしたいと思います。

ベストシナリオ 霞ルート
ベストキャラ 霞
ベストBGM Recite

ほぼ全部霞。やっぱりゆびきりは霞が主人公で霞が真ヒロインです。霞に始まり霞に終わる。T-waveの智紗と同じ。本当にいいキャラクターでしたね。この作品に出会えたことを感謝したい。

次はいよいよコアレビューのラストの作品です。もうしばらくお付き合いください。

いいなと思ったら応援しよう!