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介護生活における幸福感?

認知症介護者のポジティブな側面

ある海外研究論文

 認知症の母を介護するようになってから、ネットで関連ページを探すことが増えました。実家に戻る前は、認知症の知識に関することが多かったのですが、最近は介護者に関連することが大半を占めます。
その中で、「認知症介護者のポジティブな側面」というキーワードをみつけました。PAC(Positive Aspects of Caregiving)という学術用語で、近年欧米で研究が進んでいるそうです。
 介護生活が始まって2ヶ月弱。日に日にストレスが増している私には、関心ある言葉でした。早速読んでみると……

介護者のポジティブな側面とは

まず「PACとは何ぞや」。まとめると次の4点です。

  1. 個人的な達成感や成長

  2. 感謝や報いの感覚

  3. 人間関係の強化

  4. 人生への新たな視点

 研究論文なので硬い表現は仕方ないとして、私が期待していたものとは若干ずれたものでした。でもまあ、分からなくもありません。この研究結果をざっくりまとめると……

  • 時間の経過とともにPACは安定してくる。

  • PACは長期にわたって維持されていく。

  • ストレスを感じながらも、ポジティブな面を見出すことが介護者の精神的な適応に役立つ。

ということです。要するに、介護生活におけるストレスコントローにPACが重要な役割を果たすため、医療従事者はPACを増強・維持させる介入が必要だ、ということのようです。
 なに一つ否定するつもりはありませんが、どこか痒いところに手が届いていないような感想をもちました。私の介護生活はまだ2ヶ月と日が浅く、何年も継続している方の気持ちは到底理解できないはずです。ただ「ポジティブな面を見つけ出そう」という感情は、最近強く感じていることでした。

どんな境遇にあっても幸と恩を感じること。

50を過ぎて大切にしてきました。これが成せれば時間とともに安定し、長期にわたって維持されるとなれば納得できます。タイトルで使った幸福感とPACの意味は若干違うのかもしれませんが、大きく間違ってはいないでしょう。むしろ幸福感の方が、介護者には身近な感覚ではないでしょうか。

私の幸福感

 わずか2ヶ月弱の介護生活で語るのは痴がましいですが、私が幸福感を感じるのは「以前の母」に戻った時です。頻度は決して多くありません。1日に1度あるか、ないか。18歳までの記憶にある母、優しくてお節介な母です。
 深夜の数時間におよぶ独言で眠れないことはよくあります。翌朝、寝不足の父と私は何度もため息をつきます。自然に何度も出てくるため息です。そんな重い空気の中でも、独言など一切記憶にない母がいるわけです。なかなか朝食に手をつけない私に、「何で食べないの?どこか具合悪いの?」と言ったことがあります。
「フッ…」、私は苦笑いだけ。
冷たい反応だったかもしれません。でも私の感情は、憎みきれない愛情でした。最終的に「俺を産んでくれたおふくろ」という落ち着いた心地に辿り着いてしまうのです。私が感じるPACなのでしょう。
 論文中にブロードンアンドビルド理論(Fredrickson, 2004)が紹介されています。この理論では、ポジティブな感情(うれしい、楽しい、感謝の気持ちなど) を感じると、人は普段よりも広い視野で物事を見ることができるようになるそうです。これをブロードン(広がる)効果 と呼びます。たとえば、楽しいときは新しいことに挑戦したくなったり、仲間と協力しやすくなったり。さらに、このポジティブな感情が繰り返されると、次第にビルド(構築する)効果が起こり、人間関係が深まったり、困難に立ち向かう力が強くなったりするそうです。
 つまり、ポジティブな感情はその場限りではなく、将来に向けて重要なスキルや強さを築くことができ、ストレスを越える心理的資源になるというものです。
 さて、昼食の準備をしなくては。早速探してみます。ポジティブを……。

記事で参考にした論文はこちら!
Longitudinal Trajectories of Stress and Positive Aspects of Dementia Caregiving: Findings From the IDEAL Programme

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