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エスカレートする嫉妬妄想


悪化を感じさせる行動の変化

 深夜0時をまわった頃だったと思います。母の独言が始まりました。1時間ほどが経過し、父の怒号が響きます。母は水をかけられたようで、ブツブツ文句を言いながら階段を上がってきたのです。そのままノックもなく引き戸をあけ、
「お父さん、彼女がいるのよ」
「今まで黙ってたけど、お母さんもう耐えられない」
勿論初めての訴えではありません。落ち着かせようと声をかけますが妄言は続きます。諦めた私は、母に背中を向けて布団を頭から被ったのです。独言は、そこから1時間以上続きます。
 今までにない新しい行動でした。私に訴えようとしているのか、共感を求めているのかは分かりません。しかし何の反応もしない私のことなどお構いなしで喋り続けます。妄言に付きあうと話が拡大していくので、やむなく放置。これが本当に正しいのか、私自身戸惑いはありますが。

嫉妬妄想とはナニモノか

 母がみえてる世界はどのようなものなのでしょうか。そもそも嫉妬妄想とは何か調べてみました。
 嫉妬妄想は特にアルツハイマー病の初期段階でよく見られる症状で、右頭頂葉の機能不全と関連しているそうです。この部位は空間認識や注意の調整に関与しており、これが損なわれることで現実の認識が歪み、嫉妬に関連する妄想が引き起こされると。
 別の報告では、アルツハイマー病患者における虚偽記憶と妄想の関連性が示されています。アルツハイマー病では記憶の欠損や歪みが生じ、特定の出来事や人物に対する不正確な記憶が嫉妬妄想の発端となることがあるそうです。このメカニズムは、特に配偶者に対する不貞の疑念を生む場合が多いと報告されています。

「現実の認識に歪みが生じ虚偽記憶として残り、特定の出来事や人物に対する不正確な記憶が嫉妬妄想の発端」というのは納得です。母の症状や言動とぴったり重なります。

嫉妬妄想に対する介護者の対応

 母の嫉妬妄想に対して、現状は独言と妄言がおさまるのを待つしかありません。では介護者は嫉妬妄想にどう向き合えばいいのでしょうか。ヒントになる資料がありました。
 そこには嫉妬妄想を根本的に解決することは困難であること。嫉妬妄想を肯定するのではなく、それよって生じた不安に共感を示すこと。その上で、被介護者の注意を別のところへ向けさせる会話が有効だそうです。以下に対応についてまとめておきます。

1. 環境調整と安心感の提供
2. 非対立的な対応
3. 注意の転換
4. 介護者自身の休息と支援

World Alzheimer Report 2016 Improving healthcare for people living with dementia.

 実は私、資料を読んだ日の夜に実践してみました。妄言に共感するのではなく、母の不安に共感を示します。次に注意を転換させようと別の話題を投げかけたのです。調子がいい時、ハワイ旅行に行った時の話をよくするので、「ハワイに行ったのって何年前だっけ?」と。
失敗に終わりました。
私の問いかけには全く反応せず、一方的に独言は続きました。母の注意とハワイの話題はあまりにもかけ離れていたのでしょうか。もっと上手に注意を転換させる方法を知る必要があるようです。
 我が家では嫉妬妄想への対応は大きな課題です。介護者である父と私が最も消耗する要因になっています。父に関してはかなり深刻な問題です。もちろん母も苦しいはずです。全員の負担が少しでも軽くなることがあれば、素直に、そして積極的に試していこうと考えています。
 この嫉妬妄想……もっと向き合っていくことにします。

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