いま話題の「警察小説」について
※アイキャッチイラストと内容はまったく関係ありません。
少し前、なにかと創作界隈で話題を集めていた「警察小説」ですが、
実はわたくし西田三郎も書きました「警察小説」。
エロはないホラーですが。
いずれこちらでも発表させていただく予定です。
しかし警察小説とエロ、なかなか結び付けるのは難しいですね。
警察でエロをやる、となりますと、
・女刑事がヤクザや悪の組織に掴まってエロいことをされまくる。
・スケベ女刑事が色気とセックステクを使って事件を解決。
・絶倫ヤリチン刑事がセックステクを使って女性容疑者を篭絡。
・性犯罪をポルノナイズしてひたすら無反省に素材として消費する。
・ストーリーとは何の関係もなくエロシーンを随所にソー入。
くらいの展開しか思いつきませんが、これをお読みの創作界隈の皆さん(いれば)何かほかにありますでしょうか。
ところで現代的な日本の「警察小説」のフォーマットを作り、「基準」を作ったのはやはり高村薫先生でしょう。
とにかく高村先生の「マークスの山」以降、それまでの警察小説は過去のものになったと言っても過言ではない。
もちろん松本清張先生など(いわゆるマツキヨ文学)徹底した取材と調査に基づき警察、および警察捜査を描くヘヴィな先例もあり、「リアルな警察小説」はなにも高村薫先生が発明したものではありませんが、フィクションにおける「現代の警察のすがた」の解像度をあそこまで引き上げたのはなんといっても「マークスの山」です。
といいますか、高村先生の警察小説は小説だけではなく、ドラマや映画、漫画などの表現で描かれる警察の描写をすっかり変えてしまいました。
とにかく「マークス」以降、警察組織の描き方はこう変わりました。
・サラリーマン社会のように班同士がライバル意識にとらわれており、
協力せずに足を引っ張り合う。おなじ班の刑事同士も仲が良くない。
・縦割りの組織の官僚主義的な融通の利かなさがヤバい。
のわりに、腐敗が隅々まで進行しており、現場はたいへん。
・あまり“頼れるオヤッさん”みたいな人はいない。
というか恐ろしく幼児性を剥き出しにするいい歳こいた男が多い。
※いい歳をこいた男どもの幼児性がめちゃくちゃリアル
・刑事たちは出世に憑りつかれているか、
出世できなかった自分の境遇を底暗く呪っている。
・ピストルなど撃たない。取調室で容疑者にかつ丼も食べさせない。
などなど、実際「マークス」以降となりますと、テレビの連続ドラマの刑事ものでも拳銃をぶっ放しまくって犯人を生きたまま捕まえて落として自供させて警察署の屋上で夕陽を見ながら「悪いのは奴じゃない。世の中だ」的なことを言ってメデタシメデタシ、というような刑事ドラマは絶滅しました。
テレビの連続ドラマでも「警察組織の腐敗」や「組織内での足の引っ張り合い」が描かれるように。
というか、ほんとうに刑事ドラマという刑事ドラマがそうなってしまいましたので、「もうリアルな警察組織ごっこはお腹いっぱいだよ!」と思ってしまった時期もありました。
高橋英樹や船越英一郎などが主演の2時間サスペンスドラマだけが相変わらずの安定の刑事ドラマをやっていて、信頼できる刑事仲間たちのチームワークや事件解決、からの同僚や家族とちょっとおチョケて「おっとっと!」とか言って停め画でラスト、みたいなのを観るとなんか安心してしまうくらいでした。
あ、そういえば藤田まこと主演の「はぐれ刑事純情派」にも汚職刑事が出てきたりしてビックリしたのですが、そのコラプターが70年代~80年代初頭にかけてやたら刑事ドラマに出てた石立鉄男だったのはなかなか良かったですが。
ま、それはそれとしまして、高村薫先生の小説です。
基本的に高村薫先生というのはこれまで多くの方が指摘されているように、日本でいちばんのハードコアな高級腐女子であります。
といいますのも、高村薫先生の小説にはほとんど男しか出てまいりません。いちおう女性も出てきますが、めちゃくちゃ影が薄い。
デビュー作でありますところの中之島での金塊強奪小説「黄金を抱いて翔べ」からして、いかにもな主人公周辺でのBL的描写があり、井筒和幸監督による映像化におきましても、そのへんはやや露骨なまでにネットリ描かれていました。
「李歐」などはもうあからさまでありまして、改題・大幅改稿前の「わが手に拳銃を」がややマニアックすぎるきらいのある拳銃マニア小説だったのが、BL度が大幅に増量されました。
で、「マークス」をはじめとします合田刑事シリーズにおかれましても、スーツに白スニーカーの合田雄一郎刑事とその義兄(合田とは大学の同期で登山仲間)であるところの東京地検特捜検事・加納祐介の関係性はガチガチにBLであります。
義兄・加納は何かと理由をつけては押しかけ女房のように合田の部屋に訪れてはこまごま・まめまめと生活の世話を焼きます。
合田の部屋の合鍵を持っていて留守中に勝手に部屋に上がり込んではシャツにアイロンをかけたりします。
※ちなみに崔洋一監督の映画化には義兄の加納は出てきません。
高村先生ご自身が何度も何度も脚本にダメ出しして直させ、「死んでもこの職場で働きたくねえな」と思わせる、常に窒息するほど空気の悪い警察組織の描き方(これが後の警察ドラマに与えた影響は計り知れません)と、突然「えっ??」というほどのやりすぎバイオレンス描写がさく裂するこの映画、わたしは結構好きですが、原作ファンの方々は結構戸惑たようです。
中井貴一の合田刑事、わたしの中では一番イメージに合ってますが。
合田と加納の間には合田の元妻という女性の存在があるはずです。
しかしこれがまた高村薫作品ではいつもそうなのですが、女性の存在は非常に希薄。
「マークス」に続く合田雄一郎サーガ第二弾の「照柿」では合田刑事、女性に一目惚れして幼馴染の野田達夫(鉄工所勤務)と三角関係チックのようなものが生まれます。
が、やはりガールズ・オン・ザ・サイド。
合田と野田の間に挟まれた女の存在、いったいどんな女だったのか思い出せないくらい希薄です。というかそのぶん合田と野田のドロドロした愛憎(ここに愛憎がある)のほうが濃厚こってりなのです。
そして義兄との関係性は健在です。
※ちなみみこれはNHKの連続ドラマになりました。
なんと合田刑事役は三浦友和。したたかさの裏に時折、青年のようなデリケートさを見せる合田にしてはかなり淫水焼けしたドス黒さばかりが際立ちますが、合田が非常に極私的な感情から逸脱行為をしてしまう、ドロドロした「照柿」のストーリーには合っていたように思います。
ちなみに野田役は野口五郎で、これがまた原作における職場の炉や大型機器と一体化してしまったように屈折した男を大熱演。ちなみに二人に挟まれる女の役は田中裕子で、それだからこそ原作よりは大幅に彼女の存在は印象的です。
ちなみに合田の義兄・加納役はなんと白竜でした。
さらに「レディ・ジョーカー」です。
グリコ森永事件をもとにしたたいへん読み応えのある小説ですが、この小説でもやはり(というか前2作に増して)義兄・加納の存在は濃厚で、合田の部屋にブラリと現れては、「今夜泊っていい?」とか言いながら冷蔵庫にあったアンチョビの残りとジャガイモとニンニクのソテーを作って食べさせたりします。
そして、ある事件がきっかけでひどくショックを受けて打ちひしがれた義兄がボロボロになって合田の家に転がり込んできて珍しく弱みを見せ、「雄一郎、助けてくれ!!!」と泣きすがるシーンなどがあって、もう高村印BL路線爆発でそれをお読みの全国の読書好き高級腐女子の皆さんはビショ濡れです。
その後も合田雄一郎シリーズは続き、「太陽を曳く馬」・「冷血」・「我らが少女A」と続いているようです。
ようです、と書いたのはその三冊、わたくし自身が未読という体たらくですので、今後の課題図書としたいと思います。
キチンと追ってないくせになぜこんなことを書き出したのか自分でもよくわからないのですが、とにかく日本の警察小説を変え、スタンダードにした高村薫先生の存在は大きいです。大きすぎます。
ですので、最初に挙げましたような「警察小説新人賞」(なんせ賞金が300万円ですからね!)に「よし、自分もいっちょうやってやるぜ!」という皆さん、緻密な構成や捜査手法や組織のリアリズムに加え、高村印の明らかにブロマンスを超越しているハードなBLテイストを作中に盛り込んでみるのはいかがでしょうか。
念のため申し上げておきますが、高村先生、大ファンです。
残りの合田シリーズもちゃんと読みたいと思います!
<了>