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お前の母ちゃん元合ロリ女優!【1/5】
■
祐樹は泣きながら家に帰ってきた。
また、学校の帰りにタカスギとオオツキにいじめられたからだ。
もう小学六年生。
はっきり言って、いじめられて泣きながら帰ってくるのは情けなすぎる。
タカスギやオオツキに殴りかかったら、たぶん勝てるだろう。
祐樹はよく女の子と間違われるくらい華奢で色白だが、低学年から空手を習っている。
だから……あの二人をぶちのめすことくらいどうということはない。
本来なら泣かされて家に帰っているのはタカスギとオオツキのはずだ。
でも……空手の先生はいつも言っている。
“ケンカをするために空手を教えてるんじゃない。ケンカに勝っても少しも偉くない。相手に手を出してしまったらもう負けだと思え。本当に強い人間はそんなことで強さを見せびらかしたりしない”
……いかにも空手の先生が言いそうなことだ。
先生は六〇歳を超えたおじいさんだ。
そう言いながら、先生が一人で駅前の居酒屋に飲みに行った際、居合わせた知らない男3人にハゲをバカにされて、そいつらをぶちのめしたことはこの街のみんなが知ってることだ。
先生は空手を使わず、ビール瓶で3人をぶちのめした……
事件化しなかったのが幸いだ。
空手は使っちゃダメだがビール瓶ならいいのか……
当時、祐樹はそう思ったものだが、やはり先生が普段言っていることはそれなりに説得力があって、正しいと思う。
それに……祐樹には、タカスギとオオツキに対してガチギレできない大きな理由があった。
「やーい! やーい! お前の母ちゃん合法ロリ!!!!」
「て、てめえらっ……くっ……」
一発の回し蹴りで二人をバタバタと横倒しに倒すこともできたかもしれない。
祐樹は華奢だったが、タカスギは愚鈍なデブでオオツキはヤワなチビだ。
いや、タカスギがチビでオオツギがデブだったんだっけ……?
どっちにしろ、できる。
その気になれば、瞬殺できる。
……が、こいつらを倒しても、なんの解決にもならない。
「お前の母ちゃん、セーラー服めっちゃ似合ってんなあ!」
「まだ家でも着てたりすんのかよセーラー服?」
「俺のねーちゃんより女子高生っぽいよお前の母ちゃん」
投げかけられる心無いことば。
(くっ……くそっ……)
しかし、佑樹はぐっと堪えるしかなかった。
なぜなら、タカスギとオオツキが言っていることは事実だからだ。
「なー、会わせろよお前のかーちゃん、“椎名こころ”によー」
「そーだよ合わせろよ合ロリかーちゃん“椎名こころ”に」
祐樹の母は……実の母ではない。父の後妻だ……もうすでに引退しているが、一部の(ごく一部の、とくにマニアックな)AVファンに絶大な人気を誇ったセクシー女優“椎名こころ”だった。
もちろん“椎名こころ”は芸名だ。
本名を信野(旧姓)ことみという。芸名は本名をもじったものだった。
「くっ……」
唇を噛んで下を見る祐樹に、タカスギとオオツキはますます図に乗る。
「おめー、母ちゃんの動画でオナニーしてんだろ?」
「おれ、お前の母ちゃんで昨日オナニーしたぜ!」
「うるせえっ! 黙れっ!」
祐樹は二人をぶちのめす代わりに、踵を返して駆け出していた。
バカ二人の嘲笑を背に、走って、走って、走った。
学校の前の国道を横切り、路地を走り抜け、気が付けば土手を走っていた。
その頃にはいつしか、涙を流していた。
走り続ける祐樹に、河原を根城にしている年寄りの浮浪者が声をかける。
「なーんや、ボク。また泣かされてきたんかい……なっさけないのう!」
「うるせえっ!」
泣きながら吐き捨てて、まだ走った。走れなくなるまで。
で、自分はどこに向かっているのだろうか、と祐樹は思う。
タカスギとオオツキにからかわれた母……継母だが……の待つ家には、できれば帰りたくない。
帰りたくはないけど、自分ままだ小学六年生だ。
ほかに行くところもなければ、どこか遠くに家出するようなお金があるわけではない。
自分の母親だとは決して認めたくはないけれど……
とりあえず、立場上あの“母親”がいる家に帰るしかない。
タカスギとオオツキが言ってた、「合ロリ母ちゃん」のいる家に……
■
「ただいま……」
どこにも行き場がない……家はあるが……祐樹は重い気分でドアを開く。
「ユーちゃん、おっかえりぃ♪」
シロップのように甘い声がして、リビングから継母が飛び出してきた。
肩までの黒髪をポニーテールにして、大きすぎる紺のパーカは萌え袖、丈が長いので下に履いている短いショートパンツが完全に隠れていて……パーカだけを着ているように見える。
真っ白な脚は細く、素足だった。
「………………」
できるだけ継母……こころ、ではなく本名ことみの顔を見ないようにしようとした。
が、まるで魔球のようにことみの小さな顔が舞い、下から祐樹の顔を覗き込んできた。
「あれ? ユーちゃん、泣いてる? ひょっとして泣いてる?」
卵型の小顔に、大きな目。
すこし目は垂れ気味だが、その下にこじんまりまとまった小さな鼻と唇のせいで、たぬきに似ている。
そう、いわゆる男受けのいいたぬき顔というやつだ。
肌はみずみずしく、ほぼノーメイク。
どう見ても……30を前にしているようには見えない。
というか女子大生くらい……いや女子高生、いや、下手をすると女子中学生くらいに見える。
見えてはいけない!
立場上、この女は自分にとって母親なんだ!
「な、泣いてねーよっ!」
怒りと羞恥と激しい感情がないまぜになって、祐樹はこころ、ではなく本名ことみに叫んでいた。
「え、でも泣いてんじゃん。鼻水垂れてんじゃん……てか、なんか学校であったりした? ひょっとして、いじめられたりした?」
ことみは小動物の動きで祐樹の周りをうろちょろ、ちょこまかと動き回る。
身長はことみのほうがわずがに高い。
祐樹はクラスでも背の低いほうだが、二人が並んでいるとまるでクラスメイト同士がじゃれあっているようだ。
「ち、ちがうよっ……」
「ちがわないでしょ~? いじめられたんでしょ~? だから泣いてんでしょ~?」
そう言ってことみは後ろから祐樹を抱きしめ、小さな顎を肩に乗せた。
と、背中にボリュームのある脂肪の塊の存在を感じる。
ことみ……芸名:椎名こころは…………合ロリ巨乳系だった……
ビクン! と祐樹の全身に戦慄が走る。
こぼれそうだった涙も、一気に引っ込んでしまった。
「ち、ちげーよっ! 関係ねーだろっ!」
「きゃっ……」
ことみを振り払い、祐樹は階段を掛け登った……そして2階の自室に飛び込み、ドアに鍵をかける。
「はあっ……はあっ……はあっ……だ、だめだっ……だめだ……」
背中にはまだ、焼き印を押されたように、ことみの乳房の感触が残っている。
心臓は飛び出さんばかりに激しく跳ねていた。
涙が引っ込んだ代わりに、全身にじっとりと汗をかいている。
「だめだっ……だめだよっ……」
祐樹は自分に言い聞かせるように言う……
が、視線は勉強机のうえのノートPCに釘付けだ。
視線を逸らそうとしても、まるでPC自体が引力を帯び、祐樹を引き付けている。
「あっ……」
異様な高まりを感じて、下半身を見下ろした。
ハーフパンツの前が、もうぎんぎんに突っ張っている。
「だ、だめだって……」
誰か他人がこの部屋にいて祐樹の様子を見ていたとしたら、いったいこの少年は何をしているのか理解に苦しんだだろう。
よろよろと机のPCに近寄っては、2歩後ずさる。
また3歩近寄っては、後ずさる。
「ああああっ! だめだっ!」
しかしついに、祐樹は勉強机に駆け寄ると、PCを起動させた。
わずかな起動時間も逸る心をイラつかせる。
起動した! ブラウザを立ち上げ、検索エンジンの画面へ……
そして祐樹は検索を掛けた。
“椎名こころ 妹 動画” と。