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映画館で隣の少年に欲情した話【前編】
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あまりぶっちゃけた話をするのもなんだが、先日ある大ヒット怪獣映画をひとりで観に行ったときのことだ。
わたしはいつも通路側の端の席を予約するのだが、わたしの隣に、中学生くらいの男子二人組が座った。
まあ、それはふつうによくあることだ。
別にどうということはない。
というのもわたしはいつも、映画を観に行くときはひとり。
隣が老夫婦ということもあるし、若い女性二人ということもある。
映画好きらしい中年男が一人、ということもある。
しかし、そのときは少年が二人だった。
最近の少年はみんな美しい。
わたしの隣に座ったのは、とても細面で華奢な少年。
くっきりした目元が印象的だった。
その隣に座った少年の友人はちょっと大柄で、すでに生物学的にも男になろうとしている感じだ。
これくらいの少年の成長には個人差がある……わたしは昔、どっちかといえばその時隣に座った少年のように、成長が遅いほうだった。
映画館の明かりが落ちて、映画が始まる。
映画は面白い……かなり面白い。
でもわたしくらいの映画好き、かつ年期の入った変態になると、映画を100%楽しみながら、頭の別の部分でほかのことを考えることができる。
さて、この映画館の暗がりのなか、そして画面のなかで怪獣王が暴れまわり轟音が場内を支配するなか……
わたしが隣に座った少年の股間に手を伸ばしたら、どうなるだろうか。
……ちょっと待て。通報したらダメだ。
実際にわたしは手を伸ばしていない。
頭のなかで想像しただけだ。
いや、頭のなかで想像すること自体、犯罪だとは思う。
でも、妄想が止まらなかったんだから仕方ない。
だったらこんなとこに書くな、と思われそうだが、こういうことを書こうと思ったのにもわたしなりの理由がある。
映画館に関しては、高校生だった頃にこんな思い出があった。
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その頃わたしは別にグレていたわけではないが、学校をサボることがあった。
別に学校がキライだったわけでも、イジメを受けていたわけでもない。
なぜ学校をサボったかと言えば、ポルノ映画を観に行きたかったからだ。
当時、大阪の京橋には「京橋アカデミー」という老舗のポルノ映画館があり、モギリのおばあさんはいくら私服でも未成年まるだしのわたしをスルーしてくれた。
で、わたしはそこで当時からしてもいったいいつ撮影されたのかわからないような、時代がかった新東宝エクセスポルノの観まくっていた。
「ストッキング暴行魔 ぶち込め!」とか「OL私刑 切り裂く!」とか「美姉妹 剥ぐ!」とかうろ覚えだがそのたぐいの作品だ。
当時は、わたしは当然のように童貞だった。
すでに時代はアダルトビデオの時代だったが、家には家族がいるし、テレビとビデオはリビングだし、そういうものを観る機会がない。
だから、ポルノ映画館は唯一のエロ補給所だった……しかし脳裏と網膜にエロは溜まるが、その場で発散することはできない。
しかし……だ。
場末のポルノ映画館にモラルはなかった。
観客のほぼ全員が場内でタバコを吸い、“禁煙”の赤い表示が煙で霞んでいるのはまだしも、平気で座席でせんずりをこくおっさんがいた。
座席に座って前の座席の裏を見ると、何かをぶっかけた飛沫の後がたくさんあった。
映画を観ながら前の座席に目をやると、おっさんの後ろ姿がガタガタ揺れていることも多かった。
場内の生臭い腐臭は、タバコの香りがかろうじてかき消していた。
今考えれば……童貞で線の細い色白な美少年高校生だったわたしが、そんな映画館に足しげく通っていた、というのはかなり危険だったと思う。
まさに、飛んで火にいる夏の虫というものだ。
しばらくは無事だったが、やはりそんなわたしにも洗礼のときが訪れる。
で、その日、映画館でかかっていたのは痴漢電車ものだった。
痴漢電車もののピンク映画を観たことがある人ならわかると思うが、ピンク映画では「痴漢電車」とタイトルに入っていても、それはつまり「映画のなかで電車での痴漢シーンがある」というだけで、映画自体はラブコメだったり、単なるウケ狙いのお笑いだったり、しょーもないラブロマンスだったりして、痴漢自体にそれほどフォーカスした内容ではない。
しかしまあ、いちおう映画のなかには申し訳程度に痴漢シーンがある。
童貞だった高校生のわたしは、食い入るように画面を見つめていた。
画面のなかではOLさん(当時すでに過去の遺物だったワンレングス)が、スカートをまくり上げられ、ストッキング越しにお尻を撫でまわされている……
と……当時、高校生だったわたしは、奇妙な違和感を感じた。
さわさわっ……と、そのとき履いていたカーゴパンツの太ももに、何かが触れた。
これは……電車のなかで痴漢に遭ったことのある女性なら当然わかると思うが……誰かの手が自分の体に“偶然”触れるのと、“意図的”に触れるのとでは、触れられるほうが感じる感覚はまったく違う。
“あっ……?”
誰かの手が偶然触れたとしても、それは日常で自分の身体にいろんなものが触れるので、それを特に意識することはない。
しかし、何か“意図を持った”手が身体に触れる感覚は、それとはまるで違う。
触ってきた人間の邪な意図は、まるで冬場の乾燥した空気のなかでセーターを脱いだ時に感じる静電気のように響いてくる。
少年だったわたしは、“びくんっ”としてしまった。
びくんっ! としたのにも、それなりの理由がある。
さらに話を数年前に遡らせてほしい。
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というのも、わたしにとってこれは初めての体験ではない。
中学生から電車通学だったわたしは、帰り道のターミナル駅の小さな書店でよく立ち読みをしていた。
当時から映画が好きだったので、映画雑誌かなにかを立ち読みしていたんだと思う。
「ロードショー」か「スクリーン」か「キネマ旬報」か……当時はまだ「映画秘宝」はなかった。
で、それを学校帰りの制服姿で立ち読みしていると……
するり……
何かが股間に当たった。
それは、先ほど挙げたように、“偶然触れた”という感じとは全く違っていた。
そのひと触れで、当時男子中学生だったわたしの下半身は、びくんっ! と震えた。
というのも……一連の官能小説でしょっちゅう書いているように、そのように悪意を持って他人に陰部を触られたのは、それが初めてだったからだ。
「えっ……」
当時、13歳か14歳だったわたしは思った。
今、味わった感覚は、これまで味わったものとは別の感覚だと。
ちらり、と左側を観た。
作業ジャンパーを着た小汚い小柄な中年男が、何事もなかったかのように、わたしが立ち読みをしていた本の前に平積みにされていた、芸能雑誌に手を伸ばしている。
見るからに不審な男だった。
とはいえ……このへんは、電車のなかで痴漢に遭った女性と同じ感覚だと思う。
それよりも、満員電車で女性が痴漢に遭うことよりも、中学生の少年が本屋で立ち読みしているときに、知らないおっさんに股間を撫でられることのほうが、
「まさかそんなこと?」
と考えがちなのは、理解してもらえると思う。
で、わたしは映画雑誌に向き直った……と……
するり……
びくん!
またおっさんの手が、わたしの股間を撫でた。
今回は、掠った、とか当たった、のではない。
完全に撫でられた。
はっとしておっさんを見下ろす。
おっさんは顔を上げずに、平積みになった本を物色するふりをしていた……
そのときまだ13歳だったわたしは、純粋に戦慄を覚えた。
わたしは映画雑誌を投げ出すようにして、足早に本屋を後にする。
本屋を離れてずんずん歩いても、心臓がどきんどきんと激しく鼓動を打っている。
背中にいやな汗が流れ、息も乱れていた。
たぶん手足もかすかに震えていたと思う。
“このまえ……ちょっとした好奇心で……あの本屋で『薔薇族』を立ち読みしていたのを見られたんだろうか…………”
そんなどうでもいい考えが頭をめぐる。
今からは信じられないだろうが、当時、けっこうふつうの本屋でも『薔薇族』や『バディ』や『さぶ』は売られていた。
いやいやいやいや……そうじゃない。
なにより、自分が、この自分が、誰かの性欲の対象になった、その事実に衝撃を受けていた。
そういうことは噂では聞いていたが、まさか自分に降りかかってくるとは。
で、もうひとつの思いもあった。
『もしあのまま……もしあのまま、僕が抵抗しなければ、どうなっていたのだろう?』
おっさんはそれを同意と受け取って……
『僕のおちんちんをもっと露骨に触ってきたり……ズボンのチャックを降ろされたりして……いやいや、そのまま駅の汚いトイレの個室に連れ込まれて、それで……』
妄想が止まらなかった。
これもまた、一種のトラウマの形だと思う。
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で、また高校時代のエロ映画館に戻る。
さわっ……おっさんの手が、明らかな意図をもって、わたしの太ももに触れた。
そしてわたしは“びくんっ”とする。
わたしには中1のときの本屋の経験があった。
だから、それが“偶然”触れたものか、意図的なものかは瞬時にわかる。
まあそこが映画館であった、というのもある。
映画館ではふつう、隣の席の客の手は“偶然”当たらない。
しかしまあ……世間の男性諸君。
痴漢冤罪とやらに怯える男性諸君よ。
人間が他人に身体を触られたとき……それが女性であろうと男性であろうと、その手に“明確で”“邪な”意図があるかないか、それは触られた人間にははっきりとわかる。
ぎゅうぎゅうの満員電車で女性の身体に手が偶然触れたからといって、ほとんどの場合、女性がそれを痴漢と認識することはない。
痴漢の触り方は……明らかに怪しく、いかがわしい。
手つきから、欲情と悪意が伝わってくる。
とにかく……高校生だったわたしのカーゴパンツの太ももに、隣に座った客の手の甲が触れる。
何度も、何度も。
偶然を装うのにも限度と言うものがあろう。
明らかにわたしは、太ももを隣の男に触られている。
そーっと見ると、黒いジャンパーを着たおっさんというか、ほぼじじいだった……
じじいは、前方の大画面を見つめている……が、その手は器用に動いた。
くるり、とじじいの手が裏返る。
つまり手の甲ではなく、手のひらがわたしの太ももに置かれた。
“ひっ……”
びくびくんっ!
く、悔しいけど感じちゃうっ!
……ではないが、人から悪意(性欲)をもって触られる感覚に、少年だったわたしの全身が震えた。
恐怖?
そうではない。
期待?
いや……いくらわたしでもまだ16歳か17歳だ……そこまで淫乱ではない。
しかし……どうすべきか?
叫び声を上げるべきか?
席を立つべきか?
逡巡する私に乗じて、おっさんの手がどんどん、太ももからSexy Zone
……鼠径部に迫ってくる。
“あっ……あ、あっ……”
当然だが……そのときのわたしは、ギンギンに勃起していた。
じじいに触られているからではない。
当時16歳か17歳。
目の前の大画面では痴漢役の男優にスーカートをまくり上げられ、パンストを降ろされて尻を撫でまわされている、OLに扮したポルノ女優……当時から見ても“ええっ?”というほど流行遅れな真っ赤なバブリースーツを着ていた……が大味な演技で喘ぎ、悶えている。
じじいの手が到達するより以前に、その部分はすでにギンギンだったのも仕方ない。
「あっ……」
それは劇場に大音声で流れているバブリースーツの(前髪を固めた)ОLの喘ぎ声ではない。
彼女は「ああん」とか「うふん」とわざとらしく喘いでいる。
それは、わたしの声だった。
じじいの手が、わたしのテンパったおちんちんに触れたのだ。
びっくん!
わたしの尻が、座席から跳ねた。
そして、背中が反り返る。
じじいがまるで、文鳥でも撫でるようにわたしの股間を撫で始めた……
それがわたしが生まれてはじめて、おちんちんを他人に、明らかに愛撫された瞬間だった。
正直言って……快感を感じたわけではない。てか、そんなわけない。
いくらわたしが変態だとはいえ、さすがにそれはない。
しかし、その暴力的なまでの違和感は、今でもはっきり覚えている。
じじいの手がわたしの陰部を弄んだのは……時間にすると、数秒、長くて十秒くらいの時間だったと思う。
びくん、びくん、びくん、とわたしの背筋が確かに3回震えた。
しかし、遅まきながら我に返り、慌てて席を立つ。
そして……そのまま劇場を出ればいいものを、何をイキっていたのか、わたしはなぜかじじいから4段ほど後ろの席に移った。
わずかな額とはいえ、入場代を払ったのがもったいなかったのだろうか……今となっては思い出せない。
席について、画面を見ようと前方を見る。
じじいが……肩越しにこちらを振り向いていた。
そして、わたしの顔を見ながらガタガタと腰を動かしている。
じじいの眼は劇場の暗闇のなかでもギラギラと輝いていた。
その肩の動きはますます早くなり……やがて、ガクリ、と果てる。
じじいの眼が言っていた。
“ボク、良かったでえ……”
じじいは画面に向き直ると、新しいタバコに火をつけて、悠々と吹かした。
こんな話だが【後編】はこちら