義理の妹(の声)がどストライクだった元オタの俺 【前編】
■
「おにいちゃん?」
「ああっ……いいよ、そう、そう……そうだよミエカちゃんっ……」
「おにーい、ちゃん?」
「ああああっ……そ、そうっ……その調子っ……」
「おにいちゃんの……すーっごく大きくなってるよ? イヒヒ!」
「ああああっ!」
俺はアホではない。
いやアホかもしれない。
そして俺はイメクラにいるのではない。
とんでもないと思うかも知れないが、俺は妻の実家にいる。
俺の実家じゃない。
「妻の」実家にいる
………………俺は狂ってるのかも知れない。
「おにいちゃん? なーんでこんなとこか、こんなになっちゃってるのかなあ? ……ひょっとして、ミエカでえっちなこと考えてる? イヒヒ!」
「そ、それは……」
と、ミエカ……じゃない。ミユキだ。
それが彼女の名前。
妻の妹、つまり俺の義理の妹の名前だ。
俺はアイマスクで目隠しされている。
そして、ミユキの部屋のベッドに腰かけている。
その脚の間には、ミユキが跪いている……
「おにいちゃん? ……悪いお兄ちゃんだねえ? マキお姉ちゃんのダンナさんなんでしょ? ……それなのに、ミエカでえっちなこと考えて、おちんちんこんなにしていいの~?」
「あっ、ああっ……ミ、ミエカちゃんっ……そ、そんなっ……」
ミエカ……じゃないミユキの指が、そろそろとおれのぬめる亀頭の上を這いまわる。
「ふーん……このおちんちんをマキお姉ちゃんがいつもいたずらしてるんだね~……そんなときはいつもお兄ちゃん、こんなふうに悶えちゃうの?」
「あっ……ああっ……くっ……み、ミエカちゃんっ……」
マキ……妻とはラブラブだ。
本当に愛していて、俺にはもったいない妻だと思う。
結婚して2年、妻に隠し事はない……たったひとつの過去を除いて。
あ、別に人殺したとかどこかに火をつけたとかそういうんじゃないから安心して。
俺は昔、キモオタだった。
自分で言うのなんだが、ただオタクなだけではなくてキモかった。
日曜朝の某国民的美少女アニメは欠かさず観ていたし、劇場版も欠かさず初日に行った。
それはあくまで表の顔で、ほんとうに好きなのはエロゲだった。
こいてこいてこきまくった。
エロフィギュアにもぶっかけた。
エロ抱き枕で死ぬほどこすりつけオナニーした。
オタ仲間とつるんでいるとき、俺の体重は今の1.5倍……90キロ近かった。
そして語尾は「~ござるぞ?」。
そんな俺が正気に戻ったのは、イチオシだった人気声優、桃森樹里が結婚したとき……俺は完全に鬱状態になり、そのとき大学生だったが、ガチなひきこもりになってしまった。
桃森樹里は……声も可愛かったが、顔がヤバかった。
ちっちゃい顔に目がでかくて、鼻がくるん、と上向いてて唇がつやつやで……
ガチの二次元顔だった。
一般人の間ではそうだな……橋本環奈と桃森樹里、どっとがカワイイか聞かれたら、99%が橋本環奈だと言うだろう。
でも、俺は違う。
俺たちは違う。
橋本環奈より、断然、桃森樹里だ。
「今日という今日は教育的指導でし!」
がキメ台詞の深夜帯アニメ『魔法学校いんぐり☆もんぐり』の学級委員長、高崎メメル役で、俺たちキモオタの人気を一身に集めた彼女。
ちょっとメンタル病んでる陰キャ学級委員長メガネ少女役。
小さなお友達の人気はイマイチだったが。
俺たち大きな(キモい)お友達には絶大な人気があった。
そして……
声優・桃森樹里にはもうひとつの顔があった。
エロゲ声優、富嶽ルンナとしてのキャリアだ。
桃森樹里と富嶽ルンナが同一人物であることは、俺たちキモオタの間では公然の秘密だった。
そして富嶽ルンナ名義で主演したエロゲが……
『俺の妹が衆議院議員のチャラ男息子に寝取られていいはずがない』
そのヒロイン、白柚木エミカ役だ。
キャラクター設定としての年齢は(エロゲにはありがちなことで)ぼやかされている。
が、女子中学生くらいの年齢らしく、スリムなのに超巨乳だ。
そして(やはり)ヤンデレ系でお兄ちゃん(俺らプレイヤー)に、メロメロに甘えてくる。
『も~……お兄ちゃん、妹にヨクジョーしておちんちんこんなにしてえ……変態だね? イヒヒ!』
エミカの特徴的な笑い声。
「あっ……ああっ……エミカちゃんっ……お、俺、もうっ……」
そして俺たちはちんこを扱く…………
■
あっ、い、いけない。
俺はオタ趣味と縁を切ったんだ……オタ以外の人を“一般人”なんて呼ぶオタしぐさともすっぱり足を洗ったはずだ。
俺はオタクからはスッパリ足を洗ったんだ!
あんなキモデブ40童貞どもと俺は違う! もう“奴ら”に縁はないんだ!
桃森樹里が結婚……相手は“一般人”らしい……したショックに打ちひしがれた俺は、大学を1年間休学。
しかし、自分で言うのもなんだが、俺はエロかった。
いや違う。偉かった。
引きこもりから立ち直ったあとは、オタク趣味とはきっぱり縁を切った。
エロゲ、エロフィギュア、抱き枕、あらゆる女児向けアニメのDVDやグッズ、桃森樹里のCDや写真集もなにもかも、すべて断捨離した。
売れば相当な額になったかもな。
ほとんどのグッズにブラックライト当てると光っただろうけど。
ま、それはいいとしてそれからの話だ。
クソマジメに勉強し、身体を鍛え、体重をなんとか60キロ台に落とした。
そして就活もバリバリがんばって、それなりの会社に入った。
仕事も頑張った。おしゃれにも気を使った。
給料をかなりつぎ込んで、値はそう貼らないけど小ぎれいで清潔感あるファッションを心掛けた。
ジムにも通い続けて、今や腹筋はキレイなシックスパックだ。
仕事もできて、あっという間に係長になり、いまは課長。
女子社員にもちょっとモテた……
会社では誰も、俺のキモオタ過去を知らない。
そんな中、出会ったのがいまの妻、マキだ。
マキははっきり言って、会社一の美人だった。
猫顔系のクール顔で、ちょっと近寄りがたい雰囲気。
体型は完全にモデル系で身長172センチ、俺より2センチ高い。
完全な9頭身、脚なんか長すぎて軽自動車をひとまたぎできそうだ。
外見も最高にクールでイカしてるが、マキは中身も超いけてる女だった。
めちゃくちゃ仕事もできて、あまり笑わず、男に媚びたりしない。
俺は営業課、マキは営業戦略課だった。
そしていま、俺は課長でマキは部長補佐。
なにもかも完璧な女だぜマキ……
そんな彼女とつきあって結婚までできた自分を、俺は毎日自分でホメている。
当然、マキは俺のキモオタ過去を知らない。
というか、バレたら大変だ。
マキはオタク……というかオタクも含めて、サエない男が大嫌いだ。
『あーいう人たちってさ……人生損してるのわかってないよね』
と、このまえ二人でオタク街の近くを通りがかったとき、マキは吐き捨てるように言った。
『あ、はは、ははは……そうだよね』
俺は笑ってごまかした。
隠してさえいれば、大丈夫だ。
というか、たとえこの身が業火で焼かれる羽目になろうと、決して、ゼッタイに、マキに俺のキモオタ過去を知られてはならない……
そう、俺は北欧家具と天然素材の食材、ハイブラで固められたマキとのタワマン暮らしを守り抜くんだ……
そう思っていた。
年末にマキの実家に行って、マキの妹……ミユキに会うまでは。
■
今年の正月、妻のマキの実家を訪ねたとき、ミユキがいた。
結婚前に会ったこともないし、これまで一度も会ったことはない。
「……わ……」
その晩の食卓で初めて俺と顔を会わせたミユキは、分厚い眼鏡で俺をねめつけた。
はっきり言って……ミユキがマキの血のつながった妹とはとても思えなかった。
前髪ぱっつんで、雑に後ろで髪をまとめている。
マキは超クールな超キツネ顔だが、ミユキはゆるキャラ系の超タヌキ顔だ。
決してブサイクではない。
愛嬌がある顔立ちで、どことなくお茶の間を和ますような雰囲気を持っている……そうだな、有名食パンメーカーのCMに出てるあの女優さんに、ちょっと似ている。
が、残念ながらその猜疑心にあふれた目つきに、愛嬌はまったくない。
身長は150センチ台で、デブとは言わないが、ちょいムッチリした体系。
しかし、いつも妻であるマキのすらりとした、ひれ伏すと東京スカイツリーのようにそびえ立つ長身の、見事な、完璧なスタイルを見慣れているわたしには……
ミユキのリアリティあるムッチリ体系は、どうにも新鮮だった。
それに妻とは違って、ミユキはその毛玉のついたセーターを内側から爆乳で持ち上げていた。
大振りの台湾マンゴー級のおっぱいだ。
まるで……『俺の妹が衆議院議員のドラ息子に寝取られていいはずがない』のヒロイン、白柚木エミカのように。
そう……かつてシコりまくった、あの二次元の彼女のように。
「ミユキと会うの、初めてだったっけ?」
と妻。良かった。
ミユキの乳を凝視していたことには気づかれなかったようだ。
「あ、うん……は、はじめまして」
「はじめ……まして……」
ミユキが俺に目を合わせず……というかうつむいたまま小さな声でブツブツとつぶやく。低い、沈んだ声だった。
なんだかめんどくさそうな子だ。
そういえばマキは、妹の話をほとんど俺にしたことがない。
ちらりとマキを見ると、妹であるミユキにはあえて視線を合わせないようにしているように見える。
「まあ、とりあえず明けましておめでとう! とりあえず飲んで!!」
「そうそう! いい日本酒買っといたのよ!!」
と、義父母が地元の銘酒を出してくれた。
既婚者ならわかると思うが、義実家というものはどうにも寛げない。
本心から寛げるわけでもないのに寛いでいるフリをしなければならないとき、酒があると非常に助かる。
「え……大丈夫? お父さんもお母さんも……そんなにお酒強くないのに……」
とマキ。
そういうマキも、あまり酒が強くない。
「いいのいいの! お正月なんだからっ!」
「そうそう! たまにはマキも飲みなさい! ……ほら、ミユキも!」
と、いかにもマイナスの瘴気が漂っている次女にもお酒を勧める義母。
義父母もやはり……家に他人の俺がいるというのは、なんとなーく、かすかに居心地が悪いのだろう。
「うん……じゃ、飲む……」
そんなわけで俺たち4人は、おせちを肴に飲み始めた。
2時間後…………それなりに(かりそめの)楽しい時間を過ごしたが、
「……うう、わたし、ちょっと先に休むわね……」
と義母が、
「……んん……なんだかこのお酒、強くない?」
と妻のマキが、
「ああああ……へへへ……お、和尚がふたりで、おしょーがツー……へへへへ…………ヒヒヒヒ……」
とかなんとかわけのわからないことを言いながら義父が、次々に酔いつぶれて食卓から離脱していった。
で、食卓に残ったのは、案外アルコールに強いほうだがもうかなりヘロヘロだった俺と……義妹のミユキだけ。
「み、ミユキちゃん……だっけ……け、けっこう……お、お酒強いんだね……」
「てへ❤」
「えっ……?」
思わず酔いが3分の2ほど覚める。
こ、この声は?
『魔法学校いんぐり☆もんぐり』の学級委員長、高崎メメル……を演じる、桃森樹里の声だ。
「お義理ちゃんも、お酒強いね~? ミユキ、まだまだいけるよ~? イヒヒ♪」
「あ、あうっ……」
お、『おにいちゃん』?
それも桃森樹里の変名、富嶽ルンナ演じる『俺の妹が衆議院議員のチャラ男息子に寝取られていいはずがない』のヒロイン……ヤンデレ超巨乳メンヘラ妹……白柚木エミカの声だ。
ミユキが、分厚いメガネの奥の目をとろんとさせて、俺に向かって小首を傾げた。
「ね、お兄ちゃん?」
俺のなかで、絶対零度の塚に封じ込められていた感情が、大友克洋の『アキラ』のように目を覚ました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?