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妹 の 恋 人 【4/30】

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 なにか……あたしの考えとすべて行動が、お姉ちゃんに見透かされているように感じるときがある。

 お姉ちゃんは、あたしが何かを感じ、何を思っているか、すべてお見通しだ。

 それはやっぱり、あたしたちが双子だからだろうか……?

 それとも単純にあたしの頭があまりにも鈍くてトロいから、誰の目にも頭の中がガラス張りみたいになっている、ということなんだろうか?

 ……それにしても、あたしのさまざまな感情……とくに恋愛や、いやらしいことに関するお姉ちゃんの勘は、ほとんど超能力者なみだと思う。

 そして、あたしのすべてに対して……お姉ちゃんは否定的だ。

 たとえばあたしは玉葱がキライだが、お姉ちゃんも実は玉葱が大嫌いなクセに、子どもの頃から無理してあたしの前では玉葱を山盛りで食べようとしたりする。

 涙を流しながら、えづきそうになりながら、もりもりと玉葱を貪ってみせたりする。

 あたしは卵焼きが好きで、いつもたくさん食べる。
 お姉ちゃんも実は卵焼きが大好きなくせに、あたしの前ではこれみよがしにイヤな顔をしてわざと残したりする。

 あたしは子供のころからドンくさかったので、しょっちゅう家の皿を割ったり、洗面所を水浸しにしたりしてはお母さんに怒られていた。

 怒られると、あたしはすぐ泣いてしまう。
 そんなとき……お姉ちゃんはあたしのことを少し離れたところから遠くで見ている。

 冷めた目をしているが……なぜかいつもお姉ちゃんは震えていた。
 自分が怒られているわけでもないのに。

 テレビでお笑い番組を観ていたりすると、あたしとお姉ちゃんはいつも同じネタやタイミングで笑う……けど、お姉ちゃんはあたしが笑ってるのを見ると、とたんに“しまった”という顔をしてむっつり黙り込んでしまう。

 たぶん、お姉ちゃんはあたしのことが大嫌いなのだろう。
 そして、目に見えない不思議な糸でつながっている、わたしたち姉妹の絆のことも。 

 あたしの初恋は小学校五年生のときで、その男の子の名前は君沢くんといった。

 とても目がきれいな、まるで天使のように素直で快活な男の子だった。

 ちょっと太り気味だったけれど……そんなぽっちゃりした身体も、いつも何か呆けたような顔も、古い絵画に出てくるキューピッドとそっくり……に見えた。

 そんなかわいらしい顔と、凛々しく刈られた丸坊主のミスマッチがたまらなかった。
 彼の頭の左側にある十円玉大のハゲだって、わたしにはアクセントとして愛おしく見えた。

 彼と同じクラスになったのは、たぶん運命だったと思う。
 運命の神様が、あたしに与えてくれた初恋だったに違いない。

 はじめて、胸が痛くなった。苦しくなった。

 学校の教室にいる間は、君沢くんと一緒にいることができる。
 むこうはあたしのことをまったく意識していないとしても、あたしはずっと彼の姿を見ていた。

 
 彼が給食のときにベチャベチャとシチューをかき回し、口の周りを食べかすでべっとり汚す姿も……
 
 休み時間にデタラメな歌を歌ってまるで操り人形みたいに踊り出す時も(それに関して、ちゃんと見ていたのはほんとうにクラスではあたしだけだったと思う)……

 彼が教室で飼っていたザリガニを口に入れた瞬間も……

 彼がしょっちゅう自分の鼻くそを食べる仕草も……どれを見ていても愛おしくて仕方がなかった。

 彼の鼻くそなら、あたしは何人前でも食べられそうな気がした。

 しかし、学校が終われば、あたしは君沢くんと別れて家に帰らなければならない。
 明日の朝、学校が始まるまで……彼とは会えない。

 その時間が、どれだけ長く感じたことだろう。
 どれほど胸が締め付けられて、痛かったことだろう。
 どれだけ寂しかったことか……最初はそれが理解できなかった。

 クラスで君沢くんのことを見つめているときに感じる幸福よりも、彼と会えない時間に味わうことになった、空しく、胸がつぶれそうな、寂しい感覚を感じることこそが、『』という感覚であるということを、11歳だったあたしははじめて知った。
 
 クラスメイトの女子の友達のみんな(数は少なかったが)は、すでに誰か好きな男の子がいるらしく、早い子は三年生か四年生の頃から好きな子がいる、とか、誰がすてき、とか誰がダメ、とか言い始めていたので、あたしの初恋はちょっと遅めだったのかも知れない。

 でも、周りの友達が『誰が好き』とか『あの子がかっこいい』とか言うのは、何味のポテトチップスが好きとか、どんなお笑い芸人が好き、とか、そんな感覚と変わらなかったんじゃないかと思う。

 そうでないと、あんなふうに、みんなで笑いながら胸の内を語り合って、大声で笑い合うようなことはできなかったはずだ。

 女友達の間での……君沢くんの評価は、最低だった。
 みんなは君沢くんのことを、ひどいあだ名で呼んでいた。

 “あいつだけはありえない”というのが、あたし以外の女友達の共通見解だった。

 あたしは大笑いしながら君沢くんのことをこき下ろす彼女らを見ても、怒りや理不尽を感じることはなかった。
 ムキになって反論することもなかった。

 あたしには昔から、自己主張というものがまるでない。

 でも、あたしは逆にクラスの友達のことを、心から気の毒に思っていた……この子たちは、ほんとうの『恋』をまだ知らないんだ……と思いながら。

 逆に彼女たちのことが羨ましくもなった……なぜなら、あたしの心をずっと締め付けている片思いの辛さを、彼女たちはまだ味わっていないからだ。
 
 つらくて、つらくて、苦しくて仕方がなかった。
 
 誰かにこの気持ちを伝えたくて……とても君沢くんに直接言うのはムリだった……あたしが相談相手として選んだのは……よりにもよってお姉ちゃんだった。

 あたしが君沢君のことを好きになったと……お姉ちゃんに打ち明けたときには、すでに、お姉ちゃんはそのことを知っていたようだ。

 わたしがそれを漏らしたときのお姉ちゃんの冷たい目は、たぶん一生忘れることはできない。

 “あんた、頭おかしいの?”

 あたしはそう言われたことをはっきり覚えている。

キモザワでしょ? ……あのキモサワだよ??”

 とても悲しかった。
 悲しかったけど……胸の高まりはそれでも収まらない、

 身体の中で、とても気の荒い生き物を飼っているような気分だった。
 毎晩が寝苦しく、明け方まで眠れないこともあった。
 

 その少し前だった……お姉ちゃんが下で眠っている二段ベッドの中で、タオルケットにくるまって……パジャマのズボンに手を入れて……恥ずかしいところを捏ねる、あの遊びを覚えたのは。

 それであたしの寂しい心は癒されることはなく、切ない想いはさらに強くなったけれども、身体が熱く昂ぶり、火照ってくると……少なくともその間だけは、すべてを忘れることができた。

 そして……それがなんとなーく、いけないこと、いやらしいこと、隠さなければならないことであることは、いくら鈍いあたしにもわかっていた。

 だから、絶対に絶対に、絶対に……こんなことを続けていることを家族や友達や……特にお姉ちゃんには……知られたくはなかった。

 こんなことをしていることを知ったら、お姉ちゃんはいったいどんな反応をするだろう?
 
 考えただけでも怖かった。
 
 でも、あたしは……君沢くんのことを思って、寝床の中でいやらしいことをした。
 
 とはいえ、当時はセックスに関する知識があまり豊富ではなかったので、その頃の妄想なんてかわいらしくて他愛のないものだった。

 教室の後ろで、抱き合ってキスをしたり、お互いの身体をまさぐりあったり……
 君沢くんがあたしのスカートの中に手を入れてきて……その……気持いいところをパンツの上から触ったり。

 お腹の中が熱くなって、身体の中で飼ってる生き物がそのあたりにとどまり、大人しくなった。

 指を使えば使うほど、何かものごとの核心に迫っていけるような気がした。

 下で寝ているお姉ちゃんに気付かれないようにこれをするのが、けっこう大変だった。

 お姉ちゃんはいつも寝付きが悪い。
 毎晩、お姉ちゃんが寝静まるのを待ってから、あたしはいやらしいことを繰り返した……そのことに関しても、やっぱりお姉ちゃんは気づいていたのだろうか?

 ベッドの上で、まんじりともせずに、あたしが必死で声を堪えていやらしいことに耽るのを、聞いていたのだろうか。

 それは当時のあたしにとってとても恐ろしい、最悪の事態のはずだっけど……
 へんなもので、そういう危険を冒していることが、さらにあたしを興奮させた。

 たとえば高い塀の上に上がって両手を広げ、バランスを取りながら歩いているような……そわそわ、はらはらする気分。
 
 ドン臭くて実際にはそんな芸当はとてもできないあたしでも、その気持ちよさはわかる。
 でも、その頃は……怖くて最後までいくことができなかった。

 結局、君沢くんへの初恋はあたしの片思いで終わった。

 お姉ちゃんにうち明けたときの軽蔑、罵りがとても怖かったので……
 中学時代は人を好きになることがあっても、何もできなかった。

 もちろん、気になる男の子や、男の人は何人かいた。
 でも、あたしの生活にはぴったりとお姉ちゃんがついている。

 クラスは違えど、学校でも家でもお姉ちゃんは一緒だ。
 お姉ちゃんはいつでもどこでも、あたしの一挙一動を見ている……というか、監視している……というか、そんな気がする。

 あたしが好きになる男性のほとんど、いや全ては、お姉ちゃんにとっては受け入れられないタイプらしい。

 日常の会話でほんの少し男子の名前が挙がっただけでも、お姉ちゃんの態度と言葉は、冷たく、固くなる。
 そしてあの目であたしを見て、蔑む

 あたしが馬鹿だから、仕方ないのだろうけど。

 だから、中学生のときは……毎晩のように、あの行為を(その具体名は、小学校六年生のときに知った)、ベッドの中で繰り返していた。

 さいわい中学一年生のときに、はじめていけるようになった。

 寂しくて仕方ないので、それからあたしは毎晩のように自分で自分を慰めて、毎晩のようにいった。

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