大男~また、あいつが犯しにやってくる【1/5】
■
その男のイメージには顔はなく、あるのは視界を覆うほどの大きな体と、息苦しくなるくらいの獣じみた体臭だけだった。
わたしはその男の顔をはっきり見たことがない。
その男の顔はわたしの身長よりもずっと、ずっと、ずっと高いところにあり、まるで曇りの日の東京スカイツリーのてっぺんのように、霞んで見えない。
比喩や喩えで言ってるんじゃない。
ほんとうに男の顔を見上げても、霞んでいて見えない。
だから男がどんな顔をしているのか、わたしを犯す時にどんな表情をしているのか、怒っているのかニヤけているのか、それとも無表情なのか、それさえ知らない。
そしてわたしは、男の声を聞いたこともない。
あいつはこれまでに、わたしの人生に3度現れている。
一番最近現れたのは、先週末のことだ。
大学のキャンパスのはずれにある喫煙所で、わたしはいつも煙草を吸っている。
人のいないときを選んで、この申し訳程度の雨よけの下にある、一台の設置式灰皿の前に通っている。
もともとわたしは人と話すのが得意ではない。だから大学に友達はいない。
先週末、もう遅い時間だった。
6コマ目の授業が終わって、キャンパスの中庭の街頭にも火が灯り、人影もまばら。
わたしはそのまま下宿に帰っても何 もやることがないので、喫煙所にいた。
こんな時間だし、もともと学内の喫煙率はどんどん下がっている。
学生の間でもそうだし、先生たちも煙草を次々とやめているみたいだ。
さらに言うなら女子学生がこの場所で喫煙しているのを、わたしは見たことがない。
まあどうでもいい。
人は人、わたしはわたしだ。
わたしは辺りを見回し、虫の声以外何も聞こえないその静けさの中で、何か重荷でも下ろすように大きなため息をついた。
そして首をぐるり、と回す。
ゴキッ といい音がした。まるでおっさんだ。
そして、トートバックからキャスターマイルドを取り出す。
吸っているタバコも、おっさんみたいだ。
わたしは今年で二十 歳になったばかりだが、いろいろとおっさん臭いところが多かった。
一本取り出して100円ライターの腹でトントンとフィルターを叩き(ほんと、おっさんだ)、それを咥える。ライターで火を点け、煙を深く、深く、ふ かーーーーく吸い込んで、一気に鼻から吹き出す。
後ろから誰かが見ていたら、わたしの顔の両脇からひゅーっと、煙が飛び出す様が滑稽だったろう。
とても落ち着いた。
もう一服吸って、灰を弾き落とそうと、灰皿の方を振り返ったときだった。
目の前に、あの男が立っていた。
ちょうど目の前におとこのへそのあたりがある。
「あっ…………」わたしは声を失い、煙草を地面に落としてしまった。「……な、なによ」
「……………」
男は無言だった。これまでのように。
わたしは、一歩下がって、男の顔を見てやろうとした。
しかし、まるで野球のグローブのような大きな手が、わたしの両肩をガッシリと掴む。
「いたっ……」
その手はまるで石のように固くて、冷たかった。
そして身体ごと、前に引き寄せられる。
「ち、ちょっと……」
わたしは恐怖より、怒りのせいで男に抗議していた。
この前、この男に犯されたのは4年前、16歳のときだった。
最初はその8年前で、12歳のとき。
あたりまえだが、わたしはこの『大男』を恐れていた。
恐れながら、憎んでいた。
いまに至るまで、わたしに恋人はいない。友達もいない。
わたしは人がキライだ。
男も、女も。とくに男は。
キライなのではなく、怖いのだ。
それらはすべ て、この『大男』に植えつけられたものだ。
というか、身体に、心に、刻みこまれたものだ。
これまでの2回では、わたしは恐怖でこの男に抗えなかった。
罵声 のひとつも浴びせることもできず、ただ男に自由に弄ばれ、無残に犯された。
でも、この前犯されてから4年。わたしもタバコを吸える歳になった。
わたしは成長した。大人になったんだ。
もう、この男にただ黙って犯されるような、かよわい少女じゃない。
ずっと決めていた。16歳のときに犯されてからずっと。
今度あいつが現れたときは……たとえ最終的に力でねじ伏せられ、結局は犯されることになったとしても、男がわたしを犯す前に、しっかりと罵ってやろう、 と。
怖かった。
怖かったけど、わたしはとりあえず息を吸い込んで、男に挑むことにした。
キッと怖い顔を作った……
それがどれだけ男にとって恐ろしかったのか、と言われれば自信がないけど、とりあえずそのとき、わたしは精いっぱいがんばっ¥て顔面に怒りを集中させた。大きく深呼吸する。
そして、“グッ”っと男を見上げる……やはり顔は見えない。
丸坊主らしい男の大きな頭が見えたが、薄暗い闇に隠されてその顔がどんなのか、確認すること ができない。
「久しぶりだね……」
わたしは毅然と言ってやった。
声は震えていたが、意志で言い通す。
「……あんた、一体なんなの? ……また、わたしとヤリにきたの? ム リヤリ、犯そうと思ってるわけ? ……バッカじゃねーの? ……あたし、もう今年でハタチだよ??? あんたが知ってる、かわいい少女じゃねーのよ? もう、オトナな んだよ。これまでみたいに、わたしがあんたの思い通りになると思ってんの? ……ねえ、聞こえてる? ……聞いてる? ……それにここ、大学だよ? ……ここ、勉強するとこだよ? ……あんたみたいなムリヤリ、女をヤるしか能のないケダモノは、入ってきちゃいけないとこなんだよ? ……それをわかって………きゃっ!」
ふわり、とわたしの身体が浮いた。
ほんとうに1mくらい、軽く持ち上げられた。
「ち、ちょっと……や、やめてって……言ってるでしょ? ……あんた、いったい………ひえっ!」
そのまま、肩に担ぎ上げられる。
男のブロック塀のような背中が見えた。
わたしは男の肩の上……馬の鞍くらいあるだろう(馬に乗ったことないけど)……にお腹を載せる形で、軽く3メートルは 上空にいた
……大げさに言ってるんじゃない。
実際、大学とその外を隔てている塀よりも、男の肩の上は高かった。
……大げさに言ってるんじゃない。
ほんと、落ちたら命に関わりそ うな高さだった。
「な、なにすんのよっ!!」
わたしはそのときになってようやく、恐怖を感じた。
「……危ないじゃないっ!! 降ろしてよっ! ……ってか、降ろせ!!」
わたしは脚をバタバタさせて、男の背中を叩いた。
湿っていて、固くて、びくともしない。
男の顔がちょうど脇腹くらいに来ているはずなのに、息づかいも聞こえてこない。
大きさも人間離れしているけれど……その男から人間らしさはまったく感じられなかった。
「きゃっ……ちょ、ちょっと!!」
グローブ大の手がスカートの中に入り込んできた。
その手が、パンツを脱がそうとしていることは明らかだった。
う、うそでしょ……こんなとこで……ま さか……。
「やめてっ!! ……ってか、やめろ!! 何考えてんだよ!! こんなのとこで……あっ……」
ズルリ、とパンツが脱がされ、膝の後ろくらいまで下ろされる。
「やだっ!!」
男はわたしを肩に担いだまま、ゆっくりと腰を下ろす……
また、ふわりと持ち上げられた……これからされることを考えると……まわりに人がい ないことを確かめる必要があった。
いや、人に見られるとか見られないとか、そういう問題ではないけど……。
肩から下ろされると、わたしはまるで赤ちゃんが“高い高い”されるように、男に持ち上げられたその一瞬に、男の顔を見てやろうと思ったが、上空でくるり、と身体全体を裏返される。
恐る恐る……真下を見た。
そこにそれがあった……まっすぐ、天を目指して直立している、メタリックに光った巨 大な亀頭が。
その大きさは……成人男性の握りこぶし分二つくらいある。
それが男の毛むくじゃらの股間から隆起している。
長さは……上空からの目視による とだいたい五〇センチはありそうだ。
おかしい。
前回よりそれは、確実に巨大になっている。
「……う、うそでしょ……」わたしは言った。「そ、そんなのムリ……だって……ねえ……ちょっと……あっ!」
ゆっくり身体が下降する……そして……スカートの中ですっかり怯えきっていたわたしの入口に、その禍々しい凶器の先端が触れた。
「だ……だめ……やめ…………てっ………んんんんんっ!!!」
ぎゅうう。
その先端の上に座っている感じだ。
大男が、右手でわたしの肩を、左手でわたしの腰をしっかりと掴み、わたしをねじ込もうとする。
あまりの激痛 と衝撃に、気が遠くなる。
「あっ……かっ……はっ……む……ムリムリムリムリ……ムリっ!! …… はああっっ!!」
信じがたいことだが、その凶悪な物体は非常に柔軟性があるのか、それともわたしの入口のサイズギリギリ一杯まで収縮するようになっているのか……
だとし たらとても器用 なことだけど……入口を精一杯押し広げながら、中に侵入してきた。
息が止まった。
もう、人が来たらどうしようとか、余計なことは考えないようになった。
“こ、こ、殺されるっ……し、し、死んじゃうっ……”
それしか頭になかった。
でも、わたしの身体は、ぐいぐいとその肉塊を飲み込んでいく。
そして、これ以上進めない、というところまでくると、男は掴んでいた肩と腰の力を緩めた。
そのせいで……わたしは自分の全体重をこの身体の奥で受け止 めることになった。
「うああああああっっ!!」
大きな声を出してしまい、思わず自分の口 を自分の手で塞いだ。
ぎゅ、ぎゅぎゅぎゅ、と身体の奥で肉が軋むのが聞こえる。
身体が凶悪な侵入者に対抗するため、わたしの意思とは関係なく、当てずっぼうにそれぞれの器官を活性化させて問題に対処しようと試みている。
思考は乱れる……あまりにも非現実的な ことが起こっているということは知っている……
しかし、わたしが今、全身で感じているこの感覚は何なんだ。
現実じゃないか。
「あうっ……うあっ! ……あっ!!」
男に揺さぶられ始めて、わたしは声を上げていた。
突き上げられるものすごい圧迫感。
わたしの膣の奥に男の先端が押し付けられ、そこにわたしに全体重が掛かっている。
もう逃げようがない。
身体は逃げられないので、感覚はすべて声になって唇から出て行こうとする。
さっき、声を出してしまった。
でも、一度出てしまった声を引っ込めることはできない。
これ以上は……これ以上は、絶対声を出すまいとくっと歯を食いしばる。
そして男の顔を睨みつけようとする……しかし、さっきよりは近いはずなのに、男の顔は見えない……そこには黒い靄が掛かっている。
男は自分で腰を動かさずに、ゆっくり、ゆっくりとわたしを揺さぶり続けた。
「うっ……くっ………あうっ………あっ…………くううっっ……!」
男の胸に顔をうずめて、自分でしがみついていた。
男から獣じみた体臭が消える。
わたしは声をあげていた……そして、涙を流していた。
上からも下からも。
ちょっと下品だっただろうか?
わたしは揺さぶられ続けながら、この大男との出会いを思い出していた。
■
あの大男がはじめてわたしのところに現れたのは、わたしが12歳のとき。
わたしは一人っ子で、そのときにはもう自分の部屋を与えられていた。
その夜はとても寝苦しい夜だった。
ちょうど季節も今くらい。
とかなんとか言うとまるで怪談話みたいだが、確かにあいつは、これまでのところ夏の周辺に現れている。
ただ、金縛りに遭ったとか、部屋の隅に髪の長い白い服の女が立っていた、とかいうような話とこの話は、まったく趣を異にする話だ。
なんせ、わた しはあ12歳であの男にレイプされてしまったのだから。
あの頃は寝る前には部屋のクーラーを切って、扇風機の風だけでも眠ることができるくらい、まだ地球の気温も高くなかった。
それでもその夜は寝付けなかっ た……当時のわたしはかなり寝つきのいいほうだったのだけど。
何度も寝返りをうち、目を閉じて、眠気がやってくるに任せようとしても……思うとおり眠りはやってこない。
全身にじっとりとかいていた汗が気持ち悪かった。
ずっと遠くで、どこかのバカ犬が「ワンワンワン」と三回吠えては沈黙し、数分後にはまた「ワンワンワン、ワンワンワン」と吠えるのも……普段はまった く気にならないはずなのに、気になって仕方がなかった。
部屋の空気が、妙に熱っぽく、薄く感じられた。
何度目か、身体の向きを変えた。
左の脇をベッドにつけて、壁のほうを向き、右の脇をベッドにつけて部屋のほうに向いた……それを何度か繰り返した。
それでも眠りはやってこない。
だからわたしは……その頃覚えたばかりだった、あの遊びを始めた。
まあその……ようするに、オナニーをはじめたわけ。
なんか文句ある?
……これを聞いてるあんただってしてるでしょ、オナニー。
子どものころから、ずっとしてたんでしょ?
……てか、わたしの話聞いて、オナニーしようとしてんでしょ?
……いいよいいよ。
恥ずかしいことじゃないし、 誰だってやってることだからさ。
とにかくわたしは……一旦、タオルケットにくるまってパジャマのズボンをするすると脱いだ。
Tシャツの上から、まだ硬くて大きすぎるにきびみたいだったおっぱいをさわさわしながら……。
ズボンを脱いじゃって、下半身はパンツ一枚になっちゃうと、すっごくいやらしい気分になれた。
それは日によって違うけど、その日はとってもむし暑かった、ってこともあって、ある程度おっぱいをほぐすと……Tシャツも脱いじゃおっかなかあ……って 気分になっていた。
おへそのあたりに指で触れてみると、そこが息づいているのがわかった。
その頃のやせっぽちの体型は(ありがたいことに)今も変わらない。
わたしはやはり、Tシャツも脱いじゃうことにした。
Tシャツの襟首に頭をくぐらせると、肘の上あたりまででTシャツが引っかかる。
と、そこで頭にある情景が浮かんできた。
その頃、テレビで見た昔の映画かドラマのワンシーンだった。
場所は廃工場か何か。
ヒロイン(当時は確か、芸能界一番セクシーで売ってた人だ)が悪い人に捕まって、手を万歳の格好で吊るされ、一枚一枚服を剥がれて、いろいろといやらしいことをされる。
悪役の役者は「ヒッヒッヒッ」とか笑いながら、言葉で(正確なセリフは覚えていない)ヒロインでいたぶりながら、 辱めていく。
わたしはしっかりと目を閉じて、辱められていくヒロインの気持ちに出来るだけ近づこうとした。
ベッドから上半身を起こし、壁にもたれて、両手首を揃えて上に上げる。
そして、太腿をすりあわせながら、自分の身体に這い回る男の手の感触を想像した。
ものすごく、ぞくぞくしたのを今でもはっきりと思い出せる。
“もうこうなったら……パンツも脱いじゃおうかな……”
わたしはそのとおりにした。
両手を下ろしてパンツをするすると下ろし、タオルケットとシーツのぐちゃぐちゃとした空間に、脱いだパンツを蹴りこむように 押し込んだ。
いたずらをたくらんでいるときのような、かくれんぼのときに鬼に見つかるのを待っているような、わくわく、そわそわする気持ち。
もし今、この部屋に母親とかがいきなり入ってきたらどうしよう……
そんな気持ちがさらにわたしのぞくぞく、わくわく、そわそわ感を掻きたてる。
“わあ……わたし、裸じゃん。ベッドのうえで、すっぱだかじゃん……すっごくやらしいっ……”
たしかに、わたしは全裸だった。
全裸のまま、ぴょん、ぴょんとベッドから床を跳ね、普段はめったに掛けない部屋のドアに鍵を掛けた。
こんな夜中だ……よほどのことがない限り、母親が部屋に入ってくるなんてことはない。
でも……わかるでしょ? これ読んでるあんただったらわかるでしょ?
そーいう『密室』を作り出すことによって、『いけないことしてる感』がますます高まるじゃん?
わかんない? ……まあいいけど。
とにかくわたしは、真っ暗な部屋の中で素っぱだかで立ち、目を閉じた……そして、またあのエッチなドラマのシーンを思い出して……両手をまっすぐ頭の上 に挙げて、手首を重ねた。
そして、つま先に力を入れて、かかとを上げる……これで、天井から吊られているイメージはばっちりだ。
「あんっ……いやっ……」
小さな声を出して、手を上に挙げたまま、太腿をすり合わせる。
こんなところ、母親とか、近所の人とか、ありえないけど学校の友達とかに見られたりしたら、ほんとうにわたしはその場で舌を噛み切って死んじゃったかも知れない。
でも、もしそんなことになったら……とか……もしこんなの人に見られたら……とか……わたし今、人に見られると死んじゃうくらい恥ずかしいことしてんだ……とか、そういうふうに考えれば考えるほど、エッチな気分になれた。
ぎゅっと背筋を伸ばして、“背伸びの体操”のポーズをとった。
うん、そのときには、はっきりと太腿がぬるぬるするくらい濡れてたと思う。
「だめ……やめてっ……」小声で呟きながら、もじもじ、もじもじとお尻を動かす。「いやっ……はずかしいっ……」
バカみたいと思うかも知れないけど、いやまったく……バカっぽかったと言わざるをえない。
そろそろ自分の手で触っちゃってもいいかな……と思って、上げた手の片方……右手を、下に降ろそうとしたときだった。
大きな手が……まるでグローブのような手が、上に挙げていたわたしの両手首を掴んだ。
「えっ?」
目を開ける……目の前に、何か壁のようなものが立ちふさがっている。
「はっ……な、なに?」
突然、あの獣じみた体臭が鼻をついた。
幼稚園のときに飼っていた犬のゴローが、雨にぬれたときみたいな匂い。
目の前にあるのが、男の下半身だということに は、なかなか気づけなかった。
あたり前だ。
わたしの目の前、ほんとうに、睫毛で触れられそうな位置にあったのは、男の固くなった陰茎の先端だった。
12歳のわたしに、男の固くなった陰茎の形が わかるはずもない。
それは、わたしの握りこぶしよりもずっと大きかった。
薄闇の中でも、テラテラと輝くほど張り詰めていた。
見たことがないものの存在は、理解することができない。
ただ、わたしはショックで呆然としていた。
なぜ目の前にこんなものが突き出されているのか、これは一体、何なのか。
どうやら、生き物らしい。
なぜならその物体が、息づいて、びくん、びくんと動い ているからだ。
その形状や、それが蠢いている様に対して、恐怖を抱くまでにたぶん、10秒か20秒かかったと思う。
とにかく、おぞましいものであるということはわかった。
そして、その物体の根元に、もじゃもじゃの剛毛が渦巻いていること、その毛が逆三角形になって、おへそに続いているのがわかった。
それは人間のお腹だった。
目の前に突きつけられた先端から下に目をやると、ブルドッグのほっぺたのようにぶらさがる、二つの大きな肉の袋……これもまばらに剛毛に覆 われている……が見える。
そして、その下には丸太のような2本の脚があった。
男の身体はわたしの前方の視界すべてを覆うほど大きい。
それはあまりにも大きすぎて、そしてわたしの目の前に突きつけられていたものがあまりにも醜怪だったので、それが人間の身体の一部であると理解するのに、 たぶんプラス30秒くらいかかった。
「……えっ……なに?……」
ふわり、と身体が持ち上がった。
床から、自分の素足が浮き上がる。
わたしは上を見上げた……自分をかるく、片手で持ち上げたその巨人の顔を。
しかし、何も見えなかった……ほんと信じられないことだけど、それほど高くないわたしの部屋の天井に、その男が直立して収まっているのが不思議なくらいだった。
いや、その瞬間、わたしの部屋の屋根は、男の背丈に合わせて、『高く』なっていた。
見上げれば、天井が見える。
それはいつも感じられるよりも、もっとはるか上空だ。
そして、天井付近には、夕立ちが振り出す前の雲のように、暗闇がたちこめている。
男の胸の位置くらいまで持ち上げられても、男の顔は見えなかった。
「い、いやっ…………」
ここにきてわたしの全身に、はっきりとした悪寒が駆け巡った。
これは、夢ではない。
ありえないけれど、現実だ。
わたしはすっぱだかで、部屋の真ん中で中でいやらしいことを考えながらオナニーしようと考えていた。
そこを、この『大男』につかまえられた。
これ、いやらしいことをしてた罰かなんかなのだろうか。
さらにぐいっと、男がわたしを上に持ち上げた。
「いやああっ! ……た、助けて……お、おかあ……」
さん、と言おうとしたが、男に抱きしめられた。
「む、む ぐっ……」
裸の胸板に顔を押し付けられる。
鼻腔を犯すような獣の匂い。
目が痛くなるくらいの悪臭。
小さかったお尻は、痛いくらいに握り締められている。
男の手はあまりにも大きく、その頃のわたしのお尻はあまりにも小さかったので、たぶん男の手にはわたし二人ぶんのお尻が入っただろう。
両手が自由にされた。
そのかわり、腰を封じられる。
お尻を掴んでいた手が、らくらくと……その頃のわたしの、まるで小枝みたいだった両脚を開かせた。
「えええっ???」
これから何をされるのか、そのときは一瞬で理解できた。
下を見ると、あのおぞましい器官の先端……林檎のような大きさで、つやつやしている……が待ち構えている。
「い、いや、いや、いやあああっ……!!! …………うううんっっ!!!」
先端がわたしの入り口に、押し込まれていった。
信じられないけど、十二歳のわたしは、その肉の塊を自分の下の入口で受け入れた。
そのあとは、意識がない。
【2/5】はこちら。