見出し画像

ちょいワルオヤジに生きる気力を貰った話


最近めちゃくちゃバイトしている。

毎日毎日ひたすらバイトばっかりしている。

何じゃこれ。

何じゃこの生活。

わしゃ東京にバイトをやりに来たんか。

東京行きの新幹線に乗る際、見送りのみんなに「東京でバイトするまで絶対帰ってくんじゃねーぞ!」と泣きながら言われでもしたんか。

大事な人に「必ず東京でバイトするよ!」て約束でもしたんか。

それぐらいバイトばっかりしている。

とはいえ仕方ない。

生活していく+諸々の返済等を考えるとこれでもバイトが足りないぐらいである。

辛抱してやっていくしかない。

ただやっぱり心が疲れてくる。

今日はその疲れのピークだった。

昨日朝から晩までバイトで今日も早朝からバイトだったので非常に気分がどんよりしていた。

自然と「何やってんねやろ。。」と呟いてしまっていたのである。

僕は現在2つのバイトをしているのだが、今日はそのうちの1つ「車とかを停めたりするっぽいみたいな場所」で働いていた。

あんまりはっきりバイト名を書いてもあれかなと思ったので一応ぼやかしてみた。

で、そこで働いている最中

ちょいワルオヤジとその奥さんが車に乗ってやって来た。

僕のいる「車とかを停めたりするっぽいみたいな場所」はサイズの制限がありたまに断らないといけない車がある。

今回の車はサイズは問題なさそうだが何かちょっと自分的に引っかかる車だった。

ざっくり言うとレトロな高級車みたいな感じなのだ。

イメージで言うと赤ジャケットのルパンが乗ってそうな車というか。

あくまでイメージだが。

とにかくあんまり見た事ないタイプの車だったのでサイズは大丈夫だし案内してもほぼ間違いなく問題ないけど何かちょっと不安、そんな感じだったのである。

そこで僕はとりあえずここに停めた事が今まであるか聞いてみる事にした。

まあここで嘘をつく人も稀にいるし無理そうな車は結局しっかりサイズ確認しなければいけないのであんまり意味ない質問ではあるのだが、「停めた事ある」と言うのならひとまず安心出来るからである。

僕は運転席にいるちょいワルオヤジに聞いた。

「こちらに以前停められた事はありますか?」

するとちょいワルオヤジはうんざりした顔でこう答えた。


「なんんんんんんんんんんんん回もあります💢」


お?

何や?

めっちゃ「何回も」の部分を強調して言うてきたやん。

くだらん質問してくるなと。

誰に向かって言うてんねんと。

俺はすっごい常連やねんぞと。

だってこちとらなんんんんんんんん回も停めとんねやから。

そしてちょいワルオヤジは「なんんんんんんんん回もあります!」と言った後、続けてこう言った。

「なんんんんんんんん回も!!」


もうわかったて。

どんだけ強調すんねん。

何で「なんんんんんんんん回もあります」言うた直後に追撃の「なんんんんんんんん回も」入れてくんねん。

何やねん。

ちょいワル、イラっとしてるやん。

たまにこういうお客さんがいるのだ。

以前停めた事があるのに次来た時に車のサイズを確認されたり停めた事があるか聞かれたりすると露骨に苛立ちを出してくる人が。

何度も確認されるのが嫌なのだろう。

でも仕方ない事なのである。

僕が一年中常にいて凄まじい記憶力の持ち主ならそんな事起こらないかもしれないが、そうではない。

ていうか、そらそんな赤ジャケのルパンが乗ってそうな車で来られたらこっちも何かしら確認するやろ。

しゃあないやん。

何をうんざりしとんねん。

「なんんんんんんんん回も」てなんんんんんんんん回言うねん。

なんんんんんんんんやねん。

あかんんんんんんん、腹立ってきた。


僕まで心の中の「ん」の数が増えてきた。

結構イライラしていたが勿論顔には出さずしっかり案内をした。

ちょいワルオヤジはスッと華麗に車を停めた。

さすがなんんんんんんんん回も停めた事があるオヤジである。

駐車券を渡すとルパンと不二子ちゃんはどこかへと消えていった。


事務所に戻った僕はまだイライラしていた。

何やあの「なんんんんんんんん回も」て。

知らんがな。

あかん、イライラが止まらん。

僕は心がMAXに疲れていた事もあり余計にイライラしていた。

頭の中であの

「なんんんんんんんん回も」がリフレインする。

何かもうドリカムにまで腹立ってきた。

あっちは「なんんんんんんんん度でも」やけど。


そんなこんなで僕の怒りも収まり、2時間ほど経つとちょいワルオヤジと奥さんが戻ってきた。

僕は思った。

帰ってきよったで「なんんんんんんんん回も」が。

いい買い物が出来たのかちょいワルは何やら上機嫌である。

2時間前あんなうんざりしてたくせに何を上機嫌なっとんねん。

僕はまたふつふつと怒りが沸いていた。

地下からちょいワルの車が到着した。

颯爽と乗り込むちょいワル。

エンジンをかけアクセルを踏む。


ヴゥウウン、、、プスン


ヴゥウウン、、、プスン


焦った顔のちょいワル。


ヴゥウウン、、、プスン


ヴゥウウン、、、プスン


車は一向に走り出さない。

そう。

ちょいワルの車はバッテリーがあがってしまっていた。


原因は分からないがとりあえずこっちのミスでは全くない。

ちょいワル側が何かしらやらかしてしまっている。

こうなると自分の力では一切動かない。

業者に来てもらうしかない。

間違いなくこっちにも迷惑かける事になるのである。

僕は表向きは無表情を保ちながら内心は満面の笑みで小躍りしていた。


ちょいワル〜!!!

ちょいワル〜〜!!!

どうしたどうした、ちょいワル〜!!!

何を焦ってるんや、ちょいワル!

あんた「なんんんんんんんん回も」停めてるんやろ?

そんな「なんんんんんんんん回も」停めてる人が普通こんなハプニング起こさんよな?

てかあんな「なんんんんんんんん回も」てイキりきった顔で言うた人が2時間後こんな失態おかすか?

さあ、どうするちょいワル!

店員の俺に言わなあかんぞ!

どんな顔で言うんや??

2時間前あんなにイキり倒した店員に対してどんな顔で報告するんや!

早く車内から出てきてくれ!

そして俺に報告してくれ!

さあさあさあ!!!


ちょいワルはめちゃくちゃ申し訳なさそうな顔で車内から出てきた。

2時間前あんなに「んんんんんんんん!!!」言うてた奴がこんなしょぼくれた姿なるなんて。

言っちゃダメだがちょっと気持ちいい。

何とか思わない様にしようとするのだが寄せては返す「ざまあみろの波」が止めどなく押し寄せてくる。


めちゃくちゃ申し訳なさそうな顔でちょいワルは僕に力無くこう言った。

「ちょっと僕、、、どうやら、、、やっちまいました、、、」


あかんて。

笑てまうて。

何やねん「やっちまいました」て。

言葉のチョイスどうなってんねん。

あんな「んんんんんんんん!」言うてた奴が「やっちまいました」て。


僕は「え?あなたなんんんんんんんん回も停めた事あるんですよね?」と言いたいのを必死で堪えながら親切に対応してあげた。

僕はあえて必要以上に親身になって対応した。

ちょいワルは保険に入っていた事もあり比較的すぐに復旧出来た。

車が再び動くようになったちょいワルは僕にめちゃくちゃ感謝と謝罪の言葉を言ってくれた。

ちょいワルが言っている間、僕の脳内では「なんんんんんんんん回も!」がまるでバックコーラスの様に鳴り響いていた。


本当にすいませんでした、、、
(なんんんんんんんん回も!!!)

本当にご迷惑おかけしました、、、
(なんんんんんんんん回も!!!)

店員さんには親切にやって頂いて
(なんんんんんんんん回も!!!)

めちゃくちゃ助かりました!
(なんんんんんんんん回も!!!)

本当にありがとうございました!
(なんんんんんんんん回も!!!)


なんだろう。

今なら一曲書ける気がする。


こうしてちょいワル夫婦は走り去っていった。

僕は事務所に戻り、めちゃくちゃスッキリとした気持ちでいた。

不思議である。

生きる気力が湧いてくる。

あんなにしんどかった心が今はこんなに軽やかだ。

こちらこそありがとうちょいワル。

あなたのおかげで僕はこんなにも元気になりました。

またいつでも来てください。

お待ちしております。













いいなと思ったら応援しよう!

にっしゃん(ピン芸人)
100円で救えるにっしゃんがあります。

この記事が参加している募集