アブラカタブラ
毎日更新247日目。
この前、駐車場でバイトしていた時の事。
夕方頃に外国人のお客さんが車に乗ってやって来た。
見た所、おそらく南米系の男性のお客さんである。
外国人の方はもちろん全員ではないが、陽気な方が多いので、こちらも楽しい気持ちになれる。
そのお客さんは中でもとびきり陽気な方だった。
言葉はあまり通じないのだが、駐車場一体が明るい空間となった。
僕はジェスチャーでサイドブレーキとミラーを閉じる事を伝え、さらに車に鍵をかける事を伝えた。
旧式の車だったので、ドアに鍵を差し込み回さなければいけない。
僕は鍵を指差し、クイクイっと回す動作をした。
すると相手の方も「オオ〜OK!」と理解し、鍵を差し込みガチャっとロックした。
そしてロックした瞬間、ドアに対して大きな声で
「アブラカタブラ!!!」と唱えた。
鍵をかけた事を「僕魔法をかけたよ」みたいな事に例えてる、まあちょっとしたジョークである。
さらに魔法使いっぽく手をかざしたりもしてる。
そして言い終わった後、僕の方を満面の笑みで見てきた。
「どう?僕のジョークはどう?」と言わんばかりである。
僕は何故だか反射的に
「おもんな!」と思ってしまった。
あの方には本当に申し訳ないのだが
もう何かすんごい面白くなかったのだ。
何か言い方とか動きとか全部ひっくるめて、すんごい面白くなかったのだ。
100点満点中7点だったのだ。
いや、ああいうジョークはコミニケーションみたいなもんで、そんな面白いとか面白くないとかそういう話じゃないと分かってはいるのだ。
分かってはいるのだが
やっぱりすんごい面白くなかったのだ。
外国人の方のそういうジョークに対して「おもんな」って思ってしまう僕の方がおかしいのだが
こればっかりはどうしようもないおもんなさだったのだ。
水に濡れた地面に座って反射的に「冷たっ!」て言ってしまうように、反射的に「おもんな!」て思ってしまったのだ。
なので僕は全力で
「ハハハハハ!!!」とジャパニーズ愛想笑いをぶちかました。
とりあえず朗らかな空気になり、駐車券を持って外国人の方は駐車場を後にした。
数時間後。
その方が帰ってきた。
「ハア〜イ」といった感じで相変わらず明るい雰囲気である。
僕もハア〜イと笑顔で迎え入れた。
カバンの中から駐車券を取り出そうとする。
その瞬間、外国人の方の目がキランと光った気がした。
僕は「あ!」と思った。
くる!
"あれ"がくる!
駐車券をまるで魔法のように出しましたよ、みたいな感じで"あれ"がくる!
ていうかもう口が「ア」の形になってる!
やめてくれ!
おもんないの言うのやめてくれ!
頼むから!
お願いやから!
外国人の方「アブラカタブラ!!!」
にっしゃん「おもんなああああ!!!」
僕の願いも虚しく本日2度目のアブラカタブラが炸裂してしまった。
この短期間で2回炸裂するという事は、おそらくアブラカタブラはこの外国人の方の持ちギャグなのだろう。
色んな場面でぶちかましているに違いない。
地元ではウケているのだろうか。
いや、たぶんそれはない。
国によって感性は違うだろうが、声の出し方、動き、タイミング、様々な要素を考慮して
おそらくこれは万国共通のおもんなさである。
そんな激烈に失礼な事を考えながら、僕はまたしても
「ハハハハハ!!!」とジャパニーズ愛想笑いをぶちかました。
数分後。
駐車料金の精算を終え、車を呼び出し、車の到着まであと数十秒となった。
画面上の待ち時間がゼロになると車庫のシャッターが開くのだが、僕はまたしても嫌な予感がした。
シャッターは大きな音を立て、ゆっくりと開いていく。
これはどう考えても
アブラカタブラチャンスである。
もうアブラカタブラ言ってくださいと言わんばかりのシャッターの動きである。
僕が魔法でこのシャッター開けましたよ。
そんな表情が目に浮かぶ。
絶対くる。
数十秒後、必ずアブラカタブラがくる。
恐怖のアブラカタブラがやって来る。
僕はアブラカタブラの衝撃に身を備えた。
待ち時間のカウントは10秒を切っている。
9、8、7、6、5、
4、3、2、1、、、
0!!!
シャッター「ウイ〜ン」
外国人の方「・・・」
にっしゃん「言わんのかい!!!」
まさかのアブラカタブラずらし。
こっちが身構えている時にあえてアブラカタブラを入れてこない。
もしかしてこの方。
相当なアブラカタブラ使いなのかもしれない。
現にあんだけおもんないって言ってたのに、今回スカされた事で
すっかりアブラカタブラの口になってしまっている。
もう一度アブラカタブラが聞きたい。
そう思ってしまっている。
恐るべしアブラカタブラ使い。
結局その後はアブラカタブラは炸裂する事はなく、外国人の方は笑顔で車に乗って帰っていった。
僕は「ありがとうございましたー!」と言いながら
心の中で非礼を詫びた。
アブラカタブラの事、おもんないとか思ってすいませんでした。
何故だか分からないけど、今やすっかりアブラカタブラの口になってます。
あのおもんなさがあってこそのアブラカタブラだったんだと、ようやく分かりました。
本当に失礼いたしました。
またアブラカタブラに会いたいです。
機会があればまたこの駐車場に来て下さい。
お待ちしております。
そう思いながら、僕は車を見送った。
この記事が参加している募集
100円で救えるにっしゃんがあります。