【インタビュー】第1回・東京から京都へ。安永雄玄執行長が暮らしの中で感じる京都の魅力
<このインタビューは、2023年に行われたものです>
銀行員からコンサルタント、そして築地本願寺の代表役員へというユニークな経歴を持つ安永執行長。昨年8月に本山・西本願寺の事務方トップ、執行長(しゅぎょうちょう)に就任しました。
「お寺を改革する元銀行マンの僧侶」という枕詞で、テレビや新聞などマスメディアで紹介されることも。はっきりとした物言いに気さくな人柄、思いついたことはどんどん形にしようと動く姿は確かに僧侶というより現役ビジネスパーソン。
そんな安永執行長が東京から京都に来て1年が過ぎようとしています。京都での暮らしぶりや、浄土真宗本願寺派の本山「西本願寺」に向かい合う日々をお聞きし、3回に渡ってお届けします。
▼なぜビジネスマンから僧侶へ転身したのか?安永執行長のこれまでの歩みについては、ぜひこちらをご一読ください。
ーー昨年西本願寺の執行長に就任され、東京から京都に移住されましたよね。1年を経て、京都の暮らしには慣れましたか?
まだ東京でも仕事があり、休日は2週間に1回は東京へ帰ってるんです。正直なところ、京都の風土に接することができていないので、まだ慣れたとは言えないですね。暮らしの面で言えば、極端に東京より寒くて、夏は蒸し暑い。温度は1度か2度の違いなんだけど、体感温度が違うんです。築地は浜風が吹くでしょう。冬は空っ風が吹くから、風の流れがあるんだけど、京都は盆地だから風が通らない。西本願寺の本堂は冷暖房もないから、余計に季節の厳しさが身に染みるのかもしれませんね。気候も含めて、まだ慣れたとは言えないかもしれません(笑)。
風が吹き抜けないので、昔ながらの気が溜まってるような感じも受けるんですよ。平安貴族がいた頃の空気感がまだ残ってる気がする。言葉では言い表しづらいですが、そういうものが京都という街を形成している要素のように感じていますね。
ーー土地に匂いが染み付いてる、というようなことでしょうか。
そうですね。昔噺の世界に近い雰囲気を持っているとでもいいましょうか。東京は戦争で下町はほとんどが更地になってそこから新しく街をつくっていますが、京都は爆撃に遭ってないので、戦前の建物がまだかなり残ってる。それは、大きな違いでしょうね。
ーー京都で、お気に入りのお店は見つかりましたか。
実は週末は東京にいることも多くて、見つかっていないんですよ。銀座には、高級クラブや割烹だけでなく、適度な値段でおいしく食べて飲める店が多いんです。そんなお店を京都でも見つけたいですが、忙しいのもありなかなか見つからなくて。自分が住んでいる周りには飲食店が少ないし、どうしたものかと悩んでいます(笑)。
最近、食材と調味料を入れると、自動でおまかせ調理してくれる電子レンジを買ったので、家で作って食べることが多いですね。スーパーで、京野菜や地のものを買って調理するのも楽しいですよ。
ーー住む前と、京都の印象は変わりましたか?
昔から年に2~3回は京都に旅行に来ていましたが、旅行者と住人では印象は変わりますね。やはり住むと、観光地にはめったに行かなくなりました。
京都って意外と狭くて、せいぜい(車で)20分以内でどこでも行けるコンパクトな街なんですよ。東京だと銀座、上野、池袋、新宿もと繁華街がたくさんありますが、京都は中心地が、河原町から烏丸のあたり、京都駅周辺とそこまで多くないんです。街なかには鴨川が流れていて、中心部からも山が見える。自然環境が非常に近いというのは、暮らしてみて気づきましたね。
ーー新型コロナウイルス感染症の位置づけも変わり、京都観光も再び賑わいを見せています。京都という土地の一番の魅力は何だと感じていらっしゃいますか?
夏に市内から2時間ほどのところにある、京丹後へ行ったんですよ。天橋立、宮津と丹後半島をぐるっと回りました。海岸沿いの景色が本当に美しくて、こんなにきれいな所があるのかと感動しました。まだまだ全国的には知られていない場所なので、もっとPRするといいのになぁ…。
京都の中でも、海の方の丹後地方と、奈良との県境にある山城地方と比べると全く違いますよね。隣接している滋賀県の近江も湖があって山があって…また違った美しい景色を見ることができます。京都の魅力は、京都市だけじゃないんですよね。
日々の暮らしの中で言うと、やはり空の美しさでしょうか。朝のお勤めのため朝5時過ぎに西本願寺に行くんですが、裏門をくぐって境内に入ると、すっと朝日が立ち上がるところが見えるんです。それがものすごくきれいで。夕日が沈むときは、だんだんと西の空が赤くなって、空が一面染まる。その様子をみてると「あぁ西方浄土ってこれなんだな」って。そういう景色は東京では見ることができません。
平安の歌人が和歌で詠んだ景色と、僕が見てる景色は一緒なんだなと思わせてくれる情景が広がっているんですね。この空や自然の美しさがあるから、月を詠み、夕日を想い、西方浄土を想ったんだと、実感できる環境が京都にはありますね。