【2023年10月17日、福島取材その3 福島第一原発沿岸の海水および地下水、骨のサンプルの採取】
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双葉町郡山大原山に位置する細谷海岸には、2017年の11月に初めて訪れた。この時は双葉町の大沼勇治さんに同行する形で入域した。そのころはカメラも安物のRICOHのコンデジしか所持しておらず、今見てもとても粗い写真だ。
それから約2年半後、2020年6月に再び大沼勇治さんと共に入域。その時に大沼さんに撮影してもらった写真は、絵本『いぬとふるさと』の中でも使用している。大切な記録の1つ。
2020年10月には、鵜沼久江さんとこの海岸を訪れた。この場所をそれまで知らなかったという鵜沼さんは、それ以降、いろいろな人をこの場所に案内している。
海岸に向かう車中で、ふと鵜沼さんが「牛舎にある牛の骨とか、調べてもらうことは出来ますか」と東京新聞の山川さんに尋ねた。
それを聞いた山川さんは、早速、鈴木名誉教授と水藤さんに相談、この後鵜沼さんの家に行って飼料を採取することが決まった。午後に会う予定の東大の小豆川さんにも頼むという。
鵜沼さんにとって、牛の骨の測定は悲願だったという。牛たちは餓死したことになっているが、死んだ牛を食べたカラスも死んだという。実は牛たちが死んだ原因には、被曝も関係があるのではないかーー鵜沼さんは、科学的に牛が死んだ原因に辿りつきたかった。
僕は、鵜沼さんが牛の骨の測定を望んでいたとは、この日まで知らなかった。思いつきで水の測定をお願いしたが、まさかそれに加えて鵜沼さんのかねてからの希望であった牛の骨も調べられるとは。僕はただの言い出しっぺに過ぎないが、つくづくダメ元でも言ってみるものだと思った。国や東電は次から次へと理不尽なことをしてくるが、それに対して抗う術は、僕が普段から描いている絵でも、そしてこうした科学でも、やろうと思えば出来るじゃないか。たとえ微力であろうとも、どんな結果が出ようとも、やらないよりは全然素晴らしい。
5回目の細谷海岸訪問は、ただの写真撮影ではない。大事なサンプルの採取作業である。海水の採取は主にいわきの市民測定室たらちねの水藤さんが行なった。普段から定期的に海水を採取し測定している水藤さんはとても手慣れたもので、気付いた時にはあっという間に100リットルの海水が採取出来ていた。
少し力を加えるだけでボロボロと崩れてくる岸壁では、あちこちの場所から地下水が漏れ出していた。しかしどれもジャバジャバ出てくるものではなく、ポタポタと垂れてくる程度のものだ。ここは皆で協力して水を採取する。ジップロックやペットボトル、桶などで地下水を受け、それが一杯になるたびにポリタンクへと移す。数時間はかかると思われた地下水の採取だが、思った以上に早く進み、約2時間半で30リットルもの地下水を集めることが出来た。
水の採取を終え、車を移動し水のサンプル130リットルを回収、そして再び身分証を見せゲートから六国へ。道路の反対側で再び身分証を提示し、熊ノ沢へ入域する。鵜沼さんのかつての自宅の訪問は、僕はこれで5回目。他の3人は今回が初めてだ。
9月5日にも訪れたばかりだが、それから40日足らずで、細谷海岸の岸壁同様、こちらの家屋も更に倒壊が進んでいた。自宅周辺の線量は1.0μSv/h前後。線量インフレ状態の僕にとってはさほど大きく感じないが、原発事故前と比べればこれは25倍の数値だ。とても暮らせる数値ではない。特定帰還居住区域に指定され、2024年度に除染されるというが、果たしてここだけ除染したとて、どれだけの効果があるのだろう。すぐ隣の大熊側には、超高線量地帯があるのだ。
その後、牛舎の中へ。山川さんはこの牛舎の中にはかなり凄惨な現場が広がっていることを想像していたといい、やや怯えた様子だった。実際に中に入ってみると、一度は片付けがされたのでそれほどではないのだが、しかしあちこちに牛の骨が落ちている。こうした牛の骨は、今も次から次へと出てくるという。土に見えるものは、乾燥しきった牛の糞だという。
水藤さんと鈴木教授、そして山川さんがいくつかの骨に目星をつけて袋に入れていく。太い足の骨もあれば、背骨の一部もある。蹄もあった。牛の蹄は1年ほどで生え変わるといい、日常的に汚染されたものを食べ続けた牛の蹄にどれだけのストロンチウムが含まれているか、調べればそれは素晴らしい研究材料になるだろう。
牛舎内は場所によって3.0μSv/hを超えるところもあった。外と比べて、牛舎の中の方がより大量の放射性物質に汚染されていることがわかる。それは、外から風によって入り込んだものなのか、牛の身体の表面や体内に含まれていたものなのかはわからない。
<続く>
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