見出し画像

【2024年10月、双葉大熊富岡取材その6】暮らしの気配のない土地

「有料」とありますが、基本的に全て無料で読めます。今後の取材、制作活動のために、カンパできる方はよろしくお願いします。
〜〜〜〜〜

<続き>


前田地区へ引き返す

 R288の帰還困難区域ゲート付近まで行ったものの、思ったほどの高線量ではなく、安心したような拍子抜けしたような気分で前田地区へ引き返す。前田といえば稲荷神社の大杉が有名だが、そういえばもう何年も見てないなと思い、そちらへ向かうことにした。

前田団地跡

 元々前田団地があったところで曲がり北へ進むと、白い鉄板で囲まれた前田団地跡地が現れる。出入り口は立ち入りを阻むように2台のトラックで塞がれている。こんなところに侵入するバカがいるものか。

R288から前田団地跡地に向かう道を北へ進む。前田団地跡への入口は重機で塞がれている。
この辺りではこの一軒だけがまだ残されている。

 どうにも過剰なゼネコンのトラックによるバリケードの前には、一軒の家が今も残っていた。「解体家屋」の張り紙がないので、解体に応じてないか、しばらく待ってもらってるのだろう。生い茂る木に呑み込まれそうな家を写真に収めた。

 2021年に、蔦で全体が覆われた家を描いたことがあるが、その原画を見た元童心社の編集長は、「ダメだよ、こんな風に綺麗に描こうとしちゃ」と話した。しかし実際に、蔦で覆われ植物に呑み込まれそうになっている家は双葉郡に実在し、それをそのまま描けば、綺麗すぎて嘘くさく見えてしまうこともある。

前田団地跡を囲むような道。柵は地震で傾いたままか?
白い壁の向こうは重機置き場となっている。

更地と耕作放棄地と農地

2021年2月に訪れたときは除染中だった農地。今は耕作放棄地となっている。
更地だらけだ。
この右側の土地では…
農地として利用されている。家庭菜園という規模ではない。実証実験なのか出荷されているのか。

暮らしの気配のない土地

 前田の稲荷神社へ向かう。3年前の2月、除染の真っ最中で大量にフレコンバッグが置かれていた農地は、一部では稲作の実証実験が行われ、一部は農地として再開し、多くは耕作放棄地として緑の絨毯となるか、雑草が生い茂る荒野と化していた。人の手によって一部管理されていることはわかったが、実際にはここに人の気配はない。つまり、ここで農業をしていても、住んでる人は1人もいなかった。

 世間では「避難指示解除」というと、その文字のインパクトは大きく、まるで復興したかのような誤解をする人がたくさんいる。しかし現実は、電気ガス水道が復活したというだけで、その他の生活に必要なインフラは後回しだ。医療機関はもちろん、商店などが開店するのは解除から何年も経ってから。事実、2022年8月末に避難指示解除された双葉町では、2年が過ぎた今でも、駅前の復興住宅から2kmも離れた場所にコンビニが一軒あるだけである。そのため、現在双葉町の人口は130とも140人とも言われるが、その全てが双葉町にずっと住んでいるわけではなく、約半数の世帯は避難先あるいは移住前の住居との二重生活である。これは浪江、大熊、富岡、飯舘村でも同じだ。

ホットスポット

数少ない残された家屋。
祠があった。
2.0μSv/hを超える。ここはホットスポットだ。

 稲荷神社に向かう途中、小さな祠を見つけた。撮影しようと近づくと、胸元の線量計がけたたましく鳴り始めた。何事かと手に取ってみると、みるみるうちに線量は上がり、2.0μSv/hを超えてしまった。環境省のガイドラインでは、周辺よりも1.0μSv/h以上線量が高い場所はホットスポットとして除染することになっているという。この場所はそれに適合するが、如何せん私有地であり、役場に電話して伝えたところでどこまで対応してくれるかはわからない。

花は美しいが…

前田の稲荷神社(大スギ)

前田の稲荷神社到着。

 そんなこんなで稲荷神社に到着。ここを訪れるのは何度目だろう…モニタリングポストは0.148μSv/hと表示している。手元の線量計はもう少し高いが、そうはいっても0.2〜0.4μSv/hほど。ここは昔からさほど高線量ではない。除染の効果か、元々低かったのかは知らない。ただ、神社の社は改築がされている。

前田の大杉。

 福島県指定天然記念物の大杉の前には、以前はなかったと思われるが、「ふくしま緑の百景/前田の大スギ」と書かれた石があった。ふと、解体されてしまった寺内阿弥陀堂のことが頭をよぎった。もしかするとこうした「文化財」は不要不急なのかもしれないが、新しくハコモノを建てるよりも、こうした歴史の一部がちゃんと再建されてこそ「復興」と言えるのではなかろうか。そんなことを考えた。

前田公民館。
今回歩いたルート。

<続く>

ここから先は

0字

¥ 300

サポートしていただけると大変ありがたいです。いただいたサポートは今後の取材活動や制作活動等に使わせていただきます。よろしくお願いします!