【2023年10月16日、福島取材その3 葛尾村〜大熊町へ】
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津島の各小中高校を見た後、葛尾村の鵜沼さんの実家跡を目指した。何度かFacebookの投稿で見ていたため、僕も一度行ってみたいと思っていた場所だった。国道399を走り抜け、脇の林道へ。林道といっても、どこの道路も広くて綺麗だ。中間貯蔵施設への汚染土の運搬のため、ほとんどがダンプでも走れるように整備されている。
2023年3月にこの近辺を東京新聞の山川さんの運転で通っているが、その時は雨で天気が悪く、周囲があまりよく見えなかった。改めてよく見ると、2019年の夏に飯舘村の庄司圭一さんに連れられて走ったことのある道だった。あの時は汚染土を詰め込んだフレコンバッグが無数にあったが、今はそこはただの更地となって、大量の雑草が生い茂っている。汚染土の仮置場は基本的に借地で、中間貯蔵施設に移動後は地権者に返されると聞いている。いくら土嚢で遮蔽されてたとはいえ、一度は大量の汚染土が置かれた土地で、そこに家を建てたり農業を再開したりする気になるだろうか。ここには、理不尽なことはいくらでも転がっている。
日山葛尾登山口駐車場へ。山の頂上に日山神社があり、そこでは震災前まで葛尾三匹獅子舞が行われていた(村指定無形文化財)。震災後も避難先などで受け継がれ、2017年にようやく葛尾村内で開催できたという。形あるものは原発事故によって壊されてしまったが、人を通じたものは地元の人々によってこうして何とか受け継がれている。
広い駐車場に車を止める。鵜沼さんの話では、この駐車場の場所に実家があったという。5軒ほど並んでいたという。駐車場の脇に森があり、少し階段を登った先に大きな桜の木がある。桜の木の傍らには大きな石が置かれており、それが「カエルに見える」と鵜沼さんはいう。「帰る」と「カエル」をかけたわけだ。なるほどなあと思いながら階段を上がり石の脇へ。すると鵜沼さんが「ちょっと上のキノコを見てくるね」と山を上がっていった。その瞬間「ブオォッ」と大きな鳴き声が響き、何かが走り去った。イノシシだった。鵜沼さんは気にする風でもなく、普通に上へ上がっていった。そうした野生動物と遭遇しても、どう対応すればいいかは頭に入っている。たくましい人だ。
山の中で心地よい森林浴をしながら、ふと手元の線量計に目をやる。森の中では場所によって1.0μSv/hを超えた。駐車場は0.3〜0.5μSv/hといったところか。放射線は目には見えないが、しかしここにもレーザービームのように、埼玉ではあり得ない数の放射線が飛び交っている。
複雑な感情のまま、高線量地帯を抜け、浪江のイオンへ向かい夕食を買い込む。大熊町の大川原地区は復興の象徴としてやたらと取り上げられるが、実際には、夜も営業している飲食店は和食屋が一軒あるだけである。しかも金土日祝の夜は営業していない。つまり、完全なる「作業員用」だ。イベント時は知らないが、例えば何もない週末に大熊町民が一時帰宅して墓参りをしても、デイリーヤマザキでコンビニ弁当を買うか(20時まで)、周辺の町へ買い出しに行って、宿泊施設である「ほっと大熊」の居室か共有スペースで食べるしかないのだ。
政府の「復興」関係の委員となり、どのように復興利権に食い込むか、そればかり考えている人や企業が、大熊町の復興の象徴として盛んに大川原地区の「おおくまーと」を取り上げるが、実態は前述の通りである。僕はこれを「復興」とは思わない。
おおくまーとに着いた頃は18時頃で、もう空は真っ暗だった。僕は、望遠レンズで夕闇に浮かび上がる1Fを撮影したいと思い、Googleマップで目ぼしい場所をピックアップしていた。しかしそこはおおくまーとから1km以上あり、しかも途中の道は真っ暗だ。鵜沼さんはおおくまーとの近くで1Fが見える高台を知っているということで、そちらへ案内してもらうことになった。
整備されてるとはいえ、真っ暗な山道をせっかく案内してもらったが、残念なことに、僕の技術ではうまく夜の1Fを撮影することは出来なかった。想定していたよりも1Fが暗かったというのもある。1Fが見えるポイントはいくつか知っているので、これは今後の宿題だ。
ほっと大熊の共用スペースで、鵜沼さんが道の駅かわまたで購入した漬物と、イオン浪江で仕入れた酒と肴で夕食をとった。福島らしいものは道の駅なみえに行けば手に入るが、あそこは閉まるのが早い。福島の酒を呑みながら話が盛り上がり、この日の夜は少し呑みすぎた。
22時には部屋に戻り、その後カメラを持って1人でおおくまーと周辺を歩く。真っ暗だ。これが「復興している」大熊か。これが…
<続く>
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