2020年3月福島取材⑯/達観する警備員
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<続き>
大野駅西口は、駅前ロータリーからしてバリケードと廃墟に囲まれている。線量は毎時0.6〜1.5μSvほど。と言っても、大半は毎時1.0μSv以上だ。写真を撮りつつ駅から西へ向かうと、車以外は右折も左折も出来ない(まっすぐ進むだけ)と書かれた看板が出てくる。
交差点左側。
交差点右側。この先は車のみ通行が許可されているが、遮るものが何もない。徒歩で行くことが出来る。
ついさっき東口から陸橋を渡っていった交差点が見えた。大野駅周辺を、ぐるっと一周出来ることにここで気付いた。
僕は確信犯的に大野病院脇の道を進み始めた。遮るものもなく、止める人もいないから。こんな状況で立入規制を緩和した行政に対する当てこすりみたいな感覚もあった。
線量は当然高い。
脚立を抱えた鉄ちゃんが二人、談笑しながら歩いている。陸橋の上で常磐線を撮影するのだろう。僕みたいな確信犯と違って、彼らはここがどれだけの線量かは多分知らない。原発事故が終わったかのように喧伝する政権や、なかったかのように復興アピールをする地元メディア、原発がらみの報道は「県内ニュース」で済ませるNHK、SNSで出回る「未だに帰還困難区域があるのは線量が高いからではなく防犯のため」といった安全デマ、様々な要因が重なって、無防備な人たちがこれからもこうやって訪れるのだろう。彼らの視界には電車の車両は入っても、その周りの廃墟やどうしてこんなことになったのかということまで思いが至ることはあるだろうか。
大野病院も含め、大野駅周辺の廃墟が思ったよりも傷んでないのが意外だった。それは、ここが帰還困難区域の奥であることや、かなり高線量である事が関係してるのかもしれない。
毎時4.56μSv。今まで、帰還困難区域を通過する代行バスの車内でしか見たことない数値。
さっき歩いた交差点に近づいた。
今度は4.5はおろか5.0を超え、そのまま毎時6.41μSvまで上がってしまった。こんな数値は初体験だ。大きなため息と動悸、冷や汗。背中と脇の下から嫌な汗が出てくるのを感じる。
ここに水が溜まっているから線量が上がるのか。
交差点の少し先の帰還困難区域ゲート前に立っていた警備員さんに思わず声をかけた。
「今、あそこで6.0μSv超えたんですけど、すごいですね」
「ああ、そんなにいきましたか。あそこ(線路脇)に水が溜まってるからじゃないですかね」
「ここにはいつ頃から立つようになったんですか」
「今年に入ってからですね」
「今日は常磐線全通の日ですけど、どう思います?」
「あ、今日だったんですか。どうって…あまり興味ないですね。田舎だし本数も少ないし」
「ですよねえ…今日はともかく、一体どれだけの人が電車乗ってここに来るんでしょう…」
「あんまり意味ないですよねえ」
毎時6.41μSvを目の当たりにしてやや興奮気味の僕に対して、毎日ここに立つ警備員さんは達観しているように見えた。毎日見ていれば、非日常も日常になるのだろう。そして、この警備員さんにとっては、僕も脚立を抱えた鉄ちゃんも一緒に見えるだろう。こんな意識のギャップは、原発事故当事者と僕らの意識のギャップとも通じるものかもしれない。そんな意識のギャップが、文字だけのSNSという空間では増幅されたりするのかもしれない。
上り電車。
高線量地帯で仕事をする警備員さんに頭を下げ、元来た道を引き返し、大野駅西口へ向かう。
ここは車のみ通行可。しかし緊急時は避難路となる。毎時6μSvを超える避難路。
この先は歩行者通行禁止だが…いつか歩いてみたいと思う。
大野病院。ここにはロープが張ってあり、侵入禁止だ。
途中空を見上げると、空では報道と思われるヘリが飛んでいた。富岡の診療所から飛んだと思われるドクターヘリを見たことはあるが、報道のヘリをここで見たのはおそらく初めてだ。常磐線全通ということでわざわざヘリまで飛ばしたのだろうが、普段から同じようにこの浜通りのことを注目してくれと思う。防護服も線量計もタブーになってしまった地上波テレビ局だが、ちゃんと伝えて欲しいとしみじみ思う。
再び大野駅へ戻り、双葉まで向かう電車を待とうと思うが、電車が来るまで1時間以上ある上に、駅構内ではニコニコしながらテレビカメラを抱えたマスコミがいるため居心地が悪い。
<続く>
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