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歩いた道がそれぞれのパワー。―ハタラクヒトビト5人目 ―

全国に店舗を構える日本百貨店。
お店ごとにその土地やお客様にあったお店作りをしているので、「え、ここ同じお店なの?」というくらい雰囲気も商品もバラバラなのですが、不思議と「日本百貨店らしさ」が伝わってくるんです。
それは、場所ごとに異なる個性を持ったスタッフたちが「好き!」な気持ちを原動力にお店づくりをしているから。

みんなどこか変わっていて、そこが一番の魅力。きっとあなたと気の合う人もいるはず!
この連載は、そんなお店を形作る“ヒトビト”が、自分自身の「やってみよう精神!」をテーマに語っていく読みものです。

第5回目は秋葉原駅前、開店七年目を迎える、食をテーマにした商業施設「CHABARA(ちゃばら)」のメインテナント、日本百貨店しょくひんかんの蓑島(みのしま)店長が語ります。
はたして、どんなエピソードが飛び出してくるのでしょうかーー。



日本百貨店しょくひんかん店長の蓑島です。

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僕は日本百貨店に出会うまでに、映画制作、ウェディング業界、家具店で働いてきました。

最初の映画制作の仕事は8年ほど働きましたが、観るほうを楽しみたいという思いから辞め、1か月ぐらい沖縄をぶらぶらしながら何をしようかと考えていました。
僕は人と話すのがすごく好きなのでそれを活かせる仕事がしたいと思い、行き着いたのがウエディングプランナー。しかし、資格を取得して結婚式場に就職したものの、なかなかプランナーとしての仕事をさせてもらえず、4ヵ月ほどで退職しました。

その後、家具屋さんに就職。新店舗の立ち上げを2回経験しました。店舗でリーダーを任されるようになったり、お客様の自宅にお伺いしてぴったりの家具や収納を提案することもあったり、やりがいがありましたね。


期待に応えられないもどかしさ

あるとき、「購入した椅子を交換してほしい」というお客様がいらっしゃいました。お話を伺うと、椅子の背もたれの部分と軸の部分に隙間があるのがどうしても嫌だということでした。何度か交換をしたのですが、やはりどうしてもご納得いただけません。その椅子はオーダー家具ではなくて、いわゆる在庫品。完成品を工場から出荷しています。決まった設計で作られていて、隙間は元からあるものなんです。

でも、この商品はこういうものなんですよ、と繰り返しご説明してもだめでした。「この説明で納得してもらえないのは、なんでだろう?」と悩みましたが、4回目の交換のとき「お客様からしたら『規格だから、仕様だから』という説明が嫌なんじゃないだろうか」と思いました。

もし、僕が「この家具を作っているメーカーさんでは、あえてこうしています。なぜかというと…」と、ご説明できていたら変わっていたと思うんですよね。作っている人のことや、椅子を作る方法や、できるまでのストーリー。それがなんとなく分かっていたのに、僕には情報が手に入れられなかった。販売していた家具はベトナムや中国で作られたものを買い付けていたので、作り手さんがまったく見えなかったんです。

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そのときに初めて、物を売るだけじゃなくて、作り手に寄り沿った売り方ができないものかと思い、それがきっかけで新たな仕事を探し始めました。


背中を押された夜

そうは言っても、その時は辞めるほどのことだろうか?と、パッと行動するほどの熱量はなくて。なんとなく悩みがある状態で時間が過ぎていきました。そんなとき、北海道に住んでいる祖父が亡くなりました。

葬儀のために新千歳空港で家族と落ち合って、ビジネスホテルに泊まった夜。家族が寝ている横で、ひとりパソコンを開きました。僕は求人サイトの日本仕事百貨(当時は東京仕事百貨)が好きでちょくちょくチェックしていたのですが、そこに日本百貨店の求人が出ていました。

そのとき、不思議な感覚ですが「今しかない」と思ってしまったんです。

たぶん誰にもちゃんとした別れも言えなかった祖父の死のことを思うと、なんだろう、生き急いでいるわけじゃないですけど、やるなら今しかない、そんな気がして深夜0時に家族が寝ている横で応募したんです。それが日本百貨店との出会いでした。

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作り手さんを深く知っていることが自分たちの自信

入社してすぐに、しょくひんかんの立ち上げに携わりました。家具屋さんで新店舗を立ち上げた経験が活きたように思います。ただ、家具屋さんでは会社のルールが細かく決まっており、オープニングと言いながらも会社が作ってくれたレールに従っていけば、自然とお店ができていったような感じでした。

一方で、しょくひんかんの立ち上げでは本当に何もないところからのスタートだったので、めちゃくちゃ驚きましたね。「こんなことあるのか?本当にそこから?」って(笑)当時の上司だった佃さんと2人でボロボロになりながら、しんどくもあったけど、すごく楽しかったですね。

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家具屋さんでの悩みだった「作り手さんに寄り添い、お客様に伝える」点は、転職を機にすごく改善されました。

日本百貨店では、何を仕入れるかは最終的に各店舗が決定しています。「これを売って下さい」「はい売ります」というトップダウンの流れではないんです。商品の良いところも悪いところも、作り手さんとお話をして理解する。それをお客様に伝えられるのは、販売員としてこれ以上の幸せはないんじゃないかと思うんです。

売り手がいいと思ったものは売れるんですよ。説明に熱が入れば、お客さまは喜んでくれるし、物も売れる。結局のところ、「人」なんだなと実感しています。「あなたが言ってくれたから買ったよ」そう言ってもらうには、やっぱり自信を持って売らないといけない。ここは、それができる場所だと思います。逆に、自分が作り手さんのことを知らなかったり、商品の知識も中途半端にしか持っていなかったら、「あれ?あのお兄ちゃんからいいと言われて買ったけど、ちょっと違うな。期待ほどじゃなかったな」と思わせてしまうかもしれません。味覚の好みはしょうがない部分もありますが、あまりに差が出てしまうとよくないので、そこはすごくプレッシャーを感じながら、誠実であることを心掛けています。


みんなの蓄えが集まって、しょくひんかんになる

会長の鈴木が、「本をたくさん読んだり映画を観たりして、知識を蓄えておかないと仕事に活きないよね」って話をよくしているんですが、すごくそう感じています。

僕が映画業界で働いていた当時の話ですが、映画を撮るのってかなり肉体労働なんですよ。現場は泥臭くて体力勝負。寝られないし、帰れないし、お風呂も入れない。でも、僕の師匠にあたる方々や先輩方は、どれだけボロボロでも時間を作ってアートに触れていたんです。そうして生まれてくる映画は、クリエイティブだったり、すごく感動的だったりするわけですね。仕事以外のところでもちゃんと満たされているというのはとっても大事です。

だから、僕の場合は通勤電車の中で必ず映画を観ています。片道30分くらい、常に何かを再生しているんです。仕事のことだけだと、確実に頭が固くなってしまいます。僕はたまたま好きなのが映画ですが、ゲームでも読書でも何でもいいと思うんです。自分が没頭できる何かを、短時間でもいいから集中して頭に入れると、仕事を始めとしたいろんな部分に活きてくると思います。

僕はしょくひんかんで骨付鳥のASMRコーナーを作ったんですが、元々「ASMRを撮ろう」と思っての演出じゃないんですよ。

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※ASMRとは、聴覚や視覚への刺激によって感じる心地良い反応・感覚。YouTubeでは多くの動画が存在する。


「骨付鳥」を売るときにどうしたらいいだろうかと考えて、まずは視覚的においしそうと思ってもらおうとしました。必要な映像は、僕の家のキッチンで実際に骨付鳥を焼いて動画を撮りました。

これで見た目では伝えられるけれど、じゃあ、目が見えない方にはどうやって伝えるんだろう、と。それで今度は耳だと、じゅうじゅうと焼く音も録音したときに初めて、「ASMRっていう手法があるな」と思い付いた。だから、結果としてこうなったというだけなんですよね。

僕の場合は、たまたま映画の仕事をしてきたので、映像体験やメディアで取り上げられている流行に絡めて考える癖があるんです。それは僕のこれまでの経験からくるもの。他のスタッフで絵を描くのが好きな人であれば、それはその人が生きてきた経験値であり、持っているパワーです。それぞれが持っている違う力。しょくひんかんはそれを活かせるお店にしていきたいです。

例えば、しょくひんかんでは店頭には来られないお客様がインターネットでの注文が難しい場合、電話を一本いただければご自宅に発送もしています。そのサービスを必要としているお客様に届けるために、スタッフが作ってくれたチラシがこれです。

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これ、僕は何の指示もしていなくて、むしろ僕が夜寝てる間にLINEでみんなが盛り上がっていて、朝お店に来たらもうできていたんです(笑)「作りました」と見せられて「すごいいいじゃん」って。

しょくひんかんをみんなで作っていこう、という意識があってこその動きだと思います。みんなが自発的にどんどん動いていて、トップダウンじゃないんですよね。店長がお店を作っていると思われがちですが、どちらかというと、僕はみんなが作ったものをより良くするために動くサポート。スタッフのみんなのやりたいことや、がんばりの後押しをしていきたいですね。

しょくひんかんには、他にもスタッフが書いた黒板や手書きのPOP、こだわりの陳列の仕方など、楽しめるポイントがたくさんあります。今はお休み中ですが、いつかご来店いただけるときは、ぜひスタッフにおすすめを聞いてみてくださいね。

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