「宮古島の魅力を伝えたい」島の事業者がはじめた新たな取り組み―ニッポンのヒャッカ沖縄編6―
「みやこ下地島空港旅客ターミナル」がオープンした、2019年3月。
宮古島の居酒屋では、こんな会話が繰り広げられていた。
「観光客が増えるのは嬉しいけど、彼らに喜んでもらえるコンテンツを、島はちゃんと準備できるんでしょうか」
「せっかく来てくれても、宮古島の魅力がきちんと伝わらなかったら悔しいですよね」
その席にいたのは、宮古島で観光ツアーを主催する、株式会社プラネット・フォーの中村さんと、飲食店「パーラーレッドドラゴン」を経営する松吉さん。その晩、ふたりが出した結論は、「誰もやらないなら俺たちがやろう」というものだった。
そんなふたりの呼びかけに、「宮古島ウェディング&プロデュース」と「かたあきの里」の2社が答え、結成されたのが、「宮古島インバウンド受入民間協議会」。
立ち上げたときの想いを、中村さんはこう振り返る。
「これまでの観光事業は、行政や旅行会社、島の外の会社が旗振り役となって行われるものが多く、島の人発のものは少なかった。だから私たちは、この課題をチャンスととらえて、島の人が発信する新しい旅行商品を作ろう! と考えたのです」
中村さんが代表を務める、プラネット・フォーが提供するのは、
島の人との交流を楽しめる観光ツアー「宮古島ひとときさんぽ」。
代表の中村さんが、ツアーづくりのとき大切にしているのは、「人」。ただ美味しいものを食べるだけではなく、「あの人が作ったから美味しいんだ」と知ることで、訪れた場所への興味関心は格段に深くなるという。
ツアーにはガイドスタッフがつくものの、各プログラムには島人の「先生」がいる。ひとりひとり中村さんが地道に事業への思いを話し、共感してくれた人材だ。料理がうまい人には島の料理を、釣りがうまい人には島での釣りを、散歩が好きな人にはお散歩ルートを、参加者と一緒に楽しんでもらう。
「宮古の最大の魅力は、島の人々の暮らしそのものなんです」と中村さんは語る。
島人を先生としたガイドツアーは、そんな島の暮らしを存分に味わえるはずだ。
島の飲食店「パーラーレッドドラゴン」が提供するのは、
ハワイの定番グルメ「ガーリックシュリンプ」。
店主の松吉さんがハワイに訪れた際、その味に惚れ込み、4年間試行錯誤して完成させた一品だ。和洋中あらゆる素材を使った独自配合で、日本人好みの味でありながら、ハワイのガーリックシュリンプにも負けない美味しさに仕上がっている。今では、島の子どもからお年寄りまで「あのエビのやつちょうだい」と食べにくる、「島の美味しいエビ料理」に成長した。ソースは販売も行っており、お土産としても人気の商品となっている。
お店では、ガーリックシュリンプのほかに、松吉さん自慢の肉巻きおにぎりや、宮古島産パッションフルーツから作った酵素パッションフルーツジュースも提供している。
「お店に来てくれた人とは、なるべく会話したいと思ってるんです。居酒屋はここがいいよとか、あそこの海が綺麗だがら見逃さないでねとか、あの場所から見る岬が最高だよとか。せっかく来てくれたのだから、宮古を好きになってほしいんです」
宮古島で結婚式をあげる人のトータルプロデュースを行う「宮古島ウェディング&プロデュース」では、観光で訪れた人が気軽に利用できるサービスも提供している。
それは、海や街中などでのロケーションフォトサービス。宮古島の絶景で、カメラマンが記念写真を撮影してくれるのだ。1ロケーションにつき1時間2.5万円からお願いでき、かりゆしウェアを2,000円ほどの値段でレンタルすることもできる。
沖縄は台風が多いため撮影の予定が狂うことも少なくないが、「私たちの会社は、そうしたケースにも対応できるようにしているんです」と、代表の玉元さんは語る。以前、挙式当日に台風が被ってしまったケースがあったが、「なんとか開催させてあげたい」と、翌日に空いている会場を必死に探し、無事に開催することができたという。とても親身になって、伴走をしてくれる会社なのだ。
「人が親切で、時間の流れが穏やかな、本来の宮古の魅力を知ってほしいと思っているんです。フォトブースを兼ねた、宮古島とハワイのギフトショップを新たにオープンしたのは、そのほうが立ち寄ってもらいやすいから。この場所が、宮古を好きになってくれた人が、いつでも“帰ってこられる場所”になってほしいと思っています」
最後は、島にかつてあった赤瓦の集落を再現した、一棟貸しの宿泊施設「かたあきの里」。
琉球古民家の間取りを忠実に再現しながら居心地の良さを追求した、暮らしを楽しむ宿だ。
「調理器具はひと通り揃っていますし、みなさん、縁側でのんびりしたり、中庭で花火をしたり、自分の家のように思い思いに過ごしています」
と語るのは、かたあきの里の専務、垣花(かきはな)さん。長期滞在やリピートのお客様も多く、敷地内で顔を合わせるうちに仲良くなって一緒に買い物やごはんに行くこともあるという。「オープンしたころから、家族4人で通ってくださっているお客様もいます。その子供たちが高校生、大学生と成長する様子を毎年のように見ることができるのは、とても嬉しいですね」
かたあきの里には、時計もテレビもない。そこには、こんな想いが込められているとスタッフの松尾さんが教えてくれた。
「朝は島の鳥・アカショウビンの声で起き、夜はリュウキュウコノハズクの声を聴きながら眠りにつく。お腹が空いたらご飯を食べて、時間を決めずに出かける。晴れの日に海に出かけにいくのもいいし、雨の日に1日中ぼーっとしているのもいい。そんな島の暮らしを体験してほしい」
あらためて中村さんに島の魅力を尋ねると、
「宮古島の一番の魅力は、島独自の文化が、今も人々の生活に息づいているところだと思うんです」と言う。
たとえば、宮古島の高校受験は、試験中、家族が待機できるよう学校の体育館が開放されるという。お昼になるとみんな体育館に集まって、家族でテキカツやビフテキを食べるそうだ。また、祭りは土日に開催する世の風潮があるなか、宮古島の祭りは曜日関係なく旧暦を元に昔からの決め方で開催される。人の都合に祭りを合わせるのではなく、神様の暦に人間が合わせているのだ。
宮古島には、島生まれ・島育ちの人の割合が多い。
だからこそ、古くからある島の美点もしっかりと守られ続けているのである。
「外からくる人たちにとっては、こういう独自の文化こそが面白い体験になるんですよね。そしてその文化を一番知っているのは、旅行会社でも、島外のPR会社でもなく、島の人であるはずです。だからこそ、私たちが島から発信していくことに意味があるんです」
島の本当の魅力を知って、宮古を好きになって帰ってほしい。
そんな思いで立ち上がった彼らの提案は、きっとこれから、宮古島のファンをたくさん増やしていくはずだ。