「『病院の給食は、まずくて当たり前』との認識では、患者の状態は改善しない」前編
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*****令和5年5月31日(水)第158号*****
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「『病院の給食は、まずくて当たり前』との認識では、患者の状態は改善しない」前編
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◇─[はじめに]─────────
私事で恐縮ですが、弊紙発行人の親は80代後半で、通所系のサービスを週2回受けています。ここはお昼ご飯が付いていて、食事後に自宅まで車で送ってくれるのですが、親は帰宅したとたんに「お腹がすいた」と訴えます。
そこで食事の内容を聞いてみると、食事量・内容とも「これではお腹がすくのも当然だろう……」といった程度しか摂取していません。一度、事業所側と交渉してみたのですが「必要なカロリーは、管理栄養士がキチンと計算しています」との答えでした。
「本当に他の、食事を提供する介護事業所も同様なのか?」と、以前から疑問に感じていました。この弊紙発行人の疑問に答えてくれたのが、5月18日に開催された日本慢性期医療協会(日慢協・橋本康子会長)の定例記者会見でした。
ここで、橋本会長は「病院給食に栄養はあるか? ~寝たきり防止への栄養管理~」と題して講演し「『病院の給食は、まずくて当たり前』との認識では、患者の状態は改善しない」と指摘しました。
介護事業所と病院とでは経営環境も違いますが、利用者・患者の食事の提供に管理栄養士が関与している点では、全く同じ条件下にあると思います。そこで今回の本紙では、この橋本会長の講演内容を取り上げ、この課題の解決策を探ってみたいと思いました。
内容が多岐に渡るため、今回は「前編」「後編」の2回に分けて連載いたします。今回の記事が、介護サービスを受けている読者の皆さんや、そのご家族が介護事業所を選択する際のご参考になれば幸いです。
どうか最後まで、ご一読頂ければと思います。
日本介護新聞発行人
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今回の記事は「はじめに」で記したように、橋本会長の5月18日の記者会見で、日慢協が「BLOG」に掲載した内容をベースに構成しておりますが、内容の一部は読者の皆さんにも理解しやすいように、表現等を弊紙で一部変えております。
この点をご了解の上、読み進めて頂ければ幸いです。
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「栄養量・食欲増進・摂食機能強化の3点で、病院の給食の改善を進めていくべき…」
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寝たきり防止へ向けた慢性期医療の課題は、担い手の「質」「量」「意識(やる気)」の改善である。今回は「リハビリテーション質の向上」に関わる課題として「リハビリテーション栄養の充実」について述べる。
「病院給食に栄養はあるか? ~寝たきり防止への栄養管理~」というテーマで、日慢協の見解を示したい。具体的には<1>栄養量の設定<2>食欲の増進<3>栄養管理実現へ──という内容で整理している。
<1>については、現行の「基準栄養量によって、体重減少や低栄養が進行するのではないか?」という問題意識を示したい。<2>では「病院の給食はまずい」と言われる要因について説明する。
ここでは「給食部門の赤字によって、食事改善が進まない」という問題を指摘する。「病院の給食は、まずくて当たり前」という認識では、患者さんの状態が改善しにくいと考えている。
<3>では、栄養量・食欲増進・摂食機能強化の3点で「改善を進めていくべき」との考えを示す。
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「そもそも患者は、急性期病院で治療中に低体重(=低栄養)になり改善できずに…」
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そもそも患者は、急性期病院で治療中に低体重(=低栄養)になる。その後、回復期やわれわれの慢性期へも、その状態(=低栄養)で入院し(低栄養が)改善できずに退院している。
これら一連の流れにより、入院患者の栄養状態が懸念される。「治療による体重の減少」は避けられないが、治療後の回復期や慢性期でも体重が回復せず、そのまま退院するケースが多い。
入院患者の栄養状態は、身長と体重から計算されるボディマス指数(BMI)を用いて評価される。BMIは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で、肥満度を示す指標として広く用いられている。
BMIによる評価では「体重が減少しすぎて、栄養状態が悪化した場合」も確認可能だ。例えば、体重が65キロで身長が170センチの人が5キロ減量すると、BMIが20まで下がる。
これ以上体重が減ると、患者は「痩せすぎて、栄養状態が悪い」と判断される。病気になる前の60代男性の平均BMIは24で、これは健康な体重の上限に近い値だ。しかし、病気になり急性期の入院治療を受けると、平均5~7キロの体重減少が見られる。
これにより、BMIは21.6まで下がる。入院患者がリハビリテーションを始めるとき、すでに栄養状態は悪化した状態に陥っている。慢性期の病院やリハビリ病棟では、リハビリとともに栄養補給が行われる。
しかし、実際には体重がさらに減少し、BMIが21.2まで下がることがある。これは「低栄養状態」を示し、筋肉量も減少することを意味する。
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「回復期の入院中も、体重減少や低栄養状態が進行し、もしや食事量の不足では……」
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回復期の入院中も、体重減少や低栄養状態が進行している。そこで、もしや食事量が不足しているのではないかと(橋本会長が運営する医院で)調べてみた。まず、回復期リハビリ病棟の、入退院時のBMIの変化について。
回復期リハビリテーション病棟協会の調査によれば、回復期リハビリテーション入院時のBMIについて「一般65歳以上」のカテゴリにおいては「普通」が64.3%と最も多く「やせ」は1割以下にとどまっている。
ただし「やせ」というのは、単にスリムであるとか、スラリとした体型であるという意味ではない。これは栄養状態に基づく判断で「目に見えて体重が落ちている」と評価される方々を指す。
急性期病院でBMIが18.5以下にまで下がり、低栄養状態になっている人々が23%も存在する。その患者が回復期リハビリ病棟でリハビリに励み、退院する時点で「やせ」になっている。すなわち「低栄養状態」の人々が増えている。
これは2023年2月の報告書であり、最近の状況を反映している。次に示すのは(橋本会長が運営している)千里リハビリテーション病院の調査結果である。このデータを見ると、全体の6割から7割の患者が、入院時に比べて退院時のほうが体重が減っている。
食事の摂取状況について調べてみた結果、73%の患者が出された食事を100%摂取している。しかし、食事を摂っているにもかかわらず体重が減っているということは、食事量が不足しているということを示唆している。
それはまるでダイエットをしているような状態で、おそらく患者は「お腹が空いている」だろうと推測される。これにより、体重が大幅に減少してしまっている。
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「体重減少(低栄養)の一因はカロリー不足で、基準栄養量が不足していると……」
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体重減少の一因は、一般的には「カロリー不足」から生じると考えられる。その「カロリー不足」には、基本的な理由が存在する。それは、基準栄養食の不足と、高齢化による摂取量自体の不足である。
体重減少は「カロリー不足」に直結する。消費カロリーが一定で、摂取カロリーが低い場合、体重が減少するのは自然である。それでは、このカロリー不足の原因は何かと考えてみる。
食事を摂る能力(摂食機能)があったとしても、以下の2つの要素が関わっている可能性がある=画像・日慢協BLOGより。黄色のラインマーカーは、弊紙による加工。
■1.提供される食事の、基準栄養量が不足している=つまり、病院が十分な量を提供していないため、患者はいわば「飢餓状態」に陥っているのではないか?
■2.基準栄養量の食事が提供されていても、患者が全量を食べられていない=高齢であったり、体調が悪かったりすると、必要な全量を食べきることが難しくなる。
以上の2つの要素が、体重減少の主な要因として考えられる。
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「病院基準食は、リハビリや体重増に必要な栄養量を満たしていない場合がある……」
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病院基準食は、入院患者の年齢構成を加味した「食事摂取基準」を踏まえて提供されるが、リハビリや体重増に必要な栄養量を満たしていない場合がある。まず、必要な栄養量と、病院で必要とされる栄養量はどのように計算されるのか?
そこで、病院基準食の設定を見てみる。推定エネルギー必要量とは「1日に何kcalが必要か」という基準である。男性・女性の区別に加えて、「身体活動レベル」によるカテゴリー分けがあり、それは「1」「2」「3」に分けられている。
この身体活動レベル「1」は自宅に滞在し、ほとんど外出しない人が相当する。「2」は自立はしているが、あまり外に出ることはない人を指すが、積極的な運動をしているとは言えない。一方「3」に分類される人は運動を行っていると言えるだろう。
75歳以上の入院患者には女性が多い。この場合、必要とされるカロリーは大体1,400 kcalから1,650 kcalである。そのため高齢女性が多い病院では、1,500から1,600 kcalの範囲で、病院基準食のカロリー設定がなされている。
次に、回復に必要な栄養量(cal)について説明する。「1,500」というのが、病院基準食のエネルギー量である。つまり、1日に1,500 kcalのエネルギーを摂取すれば良い。
だが、これだけでは体重が減少する傾向にある。回復期リハビリ病棟では、毎日2時間から3時間を費やしてリハビリが行われる。では、リハビリにどれぐらいのエネルギーが必要か?
計算してみると「3メッツ」という数値が出る。これは事務仕事で消費するようなエネルギーではなく、屋外で活動的な重労働をするような場合のエネルギー消費量に相当する。
「3メッツ」のエネルギーを消費するためには、378 kcalを確保する必要がある。すなわち、1日に2~3時間のリハビリを行うために378 kcalが必要となる。若者であろうと、80歳・90歳であろうと、必要なカロリー量は同じである。
そして、病院の基準食エネルギーと、このリハビリを行うための消費エネルギーを合算すると、1,878 kcalが必要となる。また、急性期で体重が減少している患者さんで、特に10キロぐらい体重が減っている場合もある。
この際には、少なくとも5キロほど体重を戻してあげることが望ましい。そのためには、体重増加を促すためのエネルギーとして、1日に233 kcalがさらに必要となる。これらを全て合計すると、必要なエネルギーは2,000 kcalとなる。
リハビリを行いながら体重を増加させ、筋肉を付けて、ADLを上げるためには「2,000 kcalのエネルギーが必要」である。この点が、十分に理解されていない可能性がある。
NST(=患者に最適な栄養療法を提供することを目的とした、多職種により構成された医療チーム)も介入して、リハビリ栄養を十分に意識している先生方は10年以上も前から「リハビリを行うためには高齢者でも2,000 kcal程度が必要」と指摘している。
しかし「80歳・90歳で、小柄な高齢者がそんなに多く食べられないでしょう」という考えもある。その結果、患者はどんどん痩せてしまう。そこは見直さなければいけない。「リハビリや体重増に必要なエネルギーを、確保できているだろうか……」と。
※【以下、次号(本紙第159号)へ続く】
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