子どものままで_

子どもが子どものままでいられる権利。

「子どもの権利条約」というものがある。

そう知ったのは、児童館で働くようになってからだった。

ユニセフによれば、1989年の第44回国連総会で採択され、1990年に発効。日本は1994年に批准。2017年3月現在、196の国と地域がこの条約を締結しているという。

前文と54条からなるこの条約では、大きく「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」に分けられる権利を、批准国が子どものために守ることを定めている。

僕の勤める児童館は、子どもたちの遊び場だけれど、時々こうした「子どもの権利」の話をすることがある。

大抵の場合、子どもたちは「ふうん」という感じで聞き流している。「世界中のすべての子どもがもっている権利です」などと話すと「どこが?」といって反発することさえある

かく言う僕自身も、この話はあまりピンと来ていなかった。ピンと来ていないヤツがもっとピンと来ていない子どもたちに話すのだから、伝わるはずもない。

書いてあることは大事なことだし、もっともなのだけれど、何回読んでも条文と目の前にいる子どもたちとの間には大きな溝があるように思えていた。

それが「自分たちのものである」と思えないような溝が。

この記事を読んで、ようやくその溝の正体がわかった。

『となりのトトロ』のサツキに焦点をあてて「子供を大事にする」とはどういうことかを語ったこのコラム。

筆者の瀧波さんは「子どもの権利」について、次のように書いていた。

子供には、権利がある。
大人の都合など、知らずに無邪気にすごしていいという、無限の許しだ。

欲しいものがあれば、しつこくねだってギャーギャーわめいたらいいし、
くだらないことでヘソを曲げて意地を張っても、好物だけを食べ続けたいと願ってもいい。

雲のカタチに笑い転げてもいいし、意味なく親に甘えてもいい。
いいのだ。まったくいい。むしろ、そうでなくてはいけない。
聞き分けよく振舞うことは、成熟してからいつでもできる。

これならわかる、と思った。
そして「むしろ、そうでなくてはいけない。」というところに強く共感した。

児童館で働く前、僕は子どもを純粋無垢な存在だと思っていた。
愛らしくて、自由で、僕たちの心をなごませてくれるイノセントな存在。

でも、実際に関わってみると、子どもというのは、ぜんぜんイノセントじゃなかった。

口はわるいし、けんかするし、あばれるし、物をこわすし、片付けないし。

一言で言って「めんどくせー」存在だった。

だから、先のコラムに書かれていたこの部分を読んで、ハッとさせられた。

子供だった時間は、二度と戻らない。

毎日「大人」としてすごしている我々は、そのことを誰よりも知っているはずなのに、自分の都合よく振舞う子供を、「しっかりしている」「頼りになる」と持ち上げすぎて、気づかず無理をさせてしまう。

子供は大人に褒められたいし、役に立ちたいと思っている。
それを声に出して感謝するのはイイコトだが、「聞き分けがいいことこそが、君の価値」と子供に感じさせた途端、その子の子供時代は終わってしまう。

「めんどくせー」彼らは、それでよかったのだ。
それが「子どもでいる」ということなのだから。

僕たち大人には、どこかでサツキのような子どもを「いいね」と思ってしまう傾向があると思う。聞き分けがよくて、大人に迷惑をかけない「おりこうさん」の子どもを持ち上げる癖がついているのだ。

そういう子どもといると、ラクでいい。
そうでないと、めんどくさい。
それは、たしかだ。

でも、そうした視線や期待に応えようとして、子どもが「子供時代を終わらせる」という代償を払っているとしたら?

子供には、権利がある。
大人の都合など、知らずに無邪気にすごしていいという、無限の許しだ。

この「大人の都合など、知らずに」というところが、とても大事だと思う。

子どもは、大人の都合など知らずにすごしてよい。

それを尊重し守ることが、大人の役割である。

そう言うと、僕の暮らす日常と権利という言葉のあいだにあった溝が埋まって、自分が当事者になれる実感が湧く。

そして、こうも思う。

子どもを尊重し守るというのは、大人に余裕があるからできる慈善行為なんかじゃない。

だれか他人の価値観を尊重することが、自分の価値観との軋轢に耐える格闘であるように、子どもを尊重するというのは「めんどくせー」存在を「めんどくせー」と思いながら、時にはけんかしながら、折り合いをつけていくこと。

そんな気がする。
そして、その格闘の中で、僕たち大人の器も鍛えられ、広がっていくのだと思う。

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