「世の中に、あなたしかいない」 〜稀代の恋愛巧者・光源氏〜
私個人が、恋愛小説家として目指す頂は「源氏物語」です。
テレビで「源氏物語」が放映されているようですが、そんな流行りとは全くの無関係です。(そもそもテレビは何十年も観ていません)
故 瀬戸内寂聴は、70歳で6年かけて源氏物語を書きました。
寂聴曰く「世界一の恋愛物語は源氏物語」なのです。
女性の作家としても”世界初”であり、男女差別の激しい欧米の世界では、それから数百年後に女性の作家が出現したのです。
源氏物語には、恋愛の知識や技術が満載です。
平安時代の貴族の仕事とは。
『源氏物語』の主人公、光源氏は太政大臣(だじょうだいじん)、国政を総括する最高位の官職を務めるまでになります。
この時代に、女性として煌(きら)びやかな生活を望むならば、貴族を選ばなくてはいけない。
そのために、美しい着物を纏い、和歌というもので恋文を書いたのです。
超美男子で最高に”強い男”との恋は燃え上がりやすく、女同士の嫉妬も尋常ではありませんでした。
そんな時代背景において、稀代の”愛の遍歴者”光源氏は手当たり次第に女性を手に入れてゆくのです。
その恋愛成就の本質は、「情熱」的な和歌にあります。
光源氏は義母との恋もし、年令も関係なく恋をして、10歳の子供を自分好みに育て妻とする。
平安時代の平均寿命は男性が「33歳」、女性が「27歳」ですから、現代の10歳とは全く感覚は違います。
光源氏は、なよなよっとした”美しさ”があった。
その光源氏のモテの決め台詞は、「世の中に、あなたしかいない」です。
どんな女性と出会っても、「世の中に、あなたしかいない」というのです。
その決め台詞を、どのように歌にしたのか。
その気になる和歌を披露します。
空蝉の身をかへてける木のもとに なお人がらのなつかしきかな [光源氏]
「蝉の抜け殻のように着物を残していってしまったあなたですが、それでも恋しく想っているのです。」
おもかげは身をも離れず山桜 心の限りとめて来しかど [光源氏]
「山桜の花のようなあなたの面影が私から離れないので、心のすべてをそちらに残してきたのですが・・・」
もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の 袖うち振りし心知りきや [光源氏]
「あなたのことを思って舞うこともできないほどなのに、あなたはこの心を知っていますか。」
暁のわかれはいつも露けきを こは世に知らぬ秋の空かな [光源氏]
「あなたとの別れはいつも涙で濡れていたが、今朝こそは今までになく悲しい朝です。」
橘の香をなつかしみほととぎす 花散里をたづねてぞ訪ふ [光源氏]
「橘の香りを懐かしんで来たほととぎすのように、私も橘の花の散るこの里を訪ねてきました。」
むつごとを語りあはせむ人もがな 憂き世の夢もなかばさむやと [光源氏]
「愛の言葉を語り合う人がいれば、悩みの多いこの世の夢も覚めてしまうでしょう」
みをつくし恋ふるしるしにここまでも めぐり逢いける縁は深しな [光源氏]
「身を尽くして恋い慕ってきたかいがあって、ここでめぐり合うことが出来ました」
たづねてもわれこそとはめ道もなく 深き蓬のもとの心を [光源氏]
「みずからでも訪ねていって問おう、深い蓬にうもれていたあなたの深い心を」
契りにしかはらぬ琴の調べにて 絶えぬ心のほどは知りきや [光源氏]
「明石で約束したときの琴の調べのように、今も変わらない私の心を知っていますか」
篝火にたちそふ恋の煙こそ 世には絶えせぬ炎なりけれ [光源氏]
「あの篝火にそって上がっていく煙こそ私の恋の消せぬ炎なんですよ」
心もて草のやどりをいとへども なほ鈴虫の声ぞふりせぬ [光源氏]
「みずから出家したあなたですが、いまだに鈴虫の声のようにお美しい」
光源氏は、現実を離れた甘美な空想などを好む人であり、天才的な恋愛巧者です。
これらの和歌を詠めば、恋愛の極意が強烈な恋への”熱情”にあることが理解いただけけるはずです。
1,000年前から、恋愛の本質は全く変わらないのです。
「世の中に、あなたしかいない」
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