04.脳と嗅覚の密接なかかわり
今回、アロマテラピーを実施した「はっぴーらいふ」の入居者32名のうち、のべ19名(59%)に睡眠時間または睡眠時間の増加がみられました。
なぜ、睡眠時間を計測したのでしょうか。
実は、睡眠は認知症(*1)と密接な関係があるからです。
1.認知症が発症するメカニズム
認知症の原因物質として有力視されているのが、「アミロイドβ」と言われています。
これが蓄積するとタウタンパク質が凝縮して脳神経細胞が破壊され、認知機能の低下を引き起こすと言われています。
このアミロイドβは通常、夜間の睡眠中に血液中に溶け込んで尿として体外に排出されます。したがって良質な睡眠が損なわれれば、アミロイドβが体外に排出されずに脳内に蓄積し、認知症のリスクも高まると言われています。
▼動画がわかりやすいこちらの記事もご覧ください。
「深い眠りによって脳内の老廃物が洗い流されていることがわかった:研究結果」(Newsweek2019.11.15)
上述のアミロイドβの蓄積によって脳神経細胞が破壊され、「認知機能の低下(中核症状)」と「行動・心理症状(周辺症状、BPSD)」の症状が現れるのです。
2.認知症の ” 超 ” 初期症状は「嗅覚障害」から始まっていた
最近の研究では、これらの症状が発症する前に、認知症が始まる10年以上も前から嗅覚が低下することが分かってきました。脳の中で記憶を司る海馬という部位がダメージを受けることで記憶障害が起きる前に嗅神経の細胞がダメージを受けており、ほとんどの患者は検査をするまで自覚がないままに嗅覚障害を発症しているそうです(*3)。
3.アロマセラピーのメカニズム
人間には五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)があり、そのなかでも味覚と嗅覚は刺激を受け入れる受容器があり、受容器からの刺激が神経を電気信号として伝わります。
なかでも嗅覚は「これは食べられるものか否か」など、生死を左右する内容を本能的に判断できる大事な感覚です。そして五感のなかでも唯一、嗅覚は本能や感情、記憶を司さどる大脳辺縁系に到達することができます。
通常、神経細胞は再生が難しいと言われていますが、嗅覚の神経細胞は幹細胞が死んでいない限り、1か月ほどで自然再生します 。
嗅粘膜から、においの成分が嗅毛でとらえられ、嗅細胞で受け取られるとその刺激が電気信号となって嗅神経に伝わり、嗅球、嗅索を経て大脳辺縁系に伝わり、記憶や情動に影響を与えます。また、嗅球、嗅索から視床下部などを経て大脳皮質に達し、香りを認識します。
4.アロマには一日のリズムを整える効果が
生物の身体には体内時計があり、昼夜で身体が活動とリズムを繰り返すことを概日リズム(サーカデイアンリズム)といいます。
人の場合はこれが25時間の周期になっていると言われており、朝日を浴びたり、睡眠をとることでリセットできます。しかし加齢によって睡眠リズムが崩れてしまい、昼夜逆転になることがあります。
そこでアロマを活用することができます。
アロマには神経バランスを整える働きを持つものがあります。
昼用に使用したレモンやローズマリーは、交感神経を優位にして脳を活性化させる働きがあります。
また、夜用に使用したラベンダーやスイートオレンジは副交感神経を優位にし、日中に活性化された脳を鎮めリラックスさせるという働きがあります。
【注釈・参考文献】
(*1)特に言及しない限り、認知症とはアルツハイマー型認知症のことを指します。
(*2)“Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia(中高年の睡眠時間と認知症の発症率との関連)” https://gemmed.ghc-j.com/?p=56713 より引用
(*3)「嗅覚障害と認知症」大本周作 https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/63/4/63_182/_pdf より引用
なかまぁる「睡眠と認知症の関係を専門家が徹底解説」
https://nakamaaru.asahi.com/article/14459970
(監修:鳥取大学発ベンチャー企業 (株)ハイパーブレイン)
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