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オートファジーで手に入れる究極の健康長寿 ⑦ 「スイッチ」抜粋 ジェームズ・W クレメント著

第5章 原始人と文明人
    植物と肉を食べる雑食動物としての初期の人類
    現生人類
「これが唯一のパレオ・ダイエットのやり方」というものが存在しないと知ったら愕くかのしれない。人類が種として成功できたのは、祖先たちがもともと住んでいた土地を離れて移住した時に、どのような環境にも適応する能力があったからだ。

言い換えれば、人類は、環境に合わせて、幅広く何でも食べていた。パレオ・ダイエットの基本は、高品質のタンパク質と脂質が豊富な食べ物(ただし、私たちの祖先がこれらの食材を好きなだけ食べていたという意味ではない)と、旬の野菜、豆類、果物、ナッツ類などだ。

精製・加工された糖質はなく、砂糖はほとんどなく、乳製品は皆無だった。化石の分析から、旧石器時代の祖先は背が高く、健康で、癌や心臓病、関節炎、虫歯などの現代の病気(いわゆる文明病)とは基本的に無縁だったことが分かっている。

 
    狩猟採集民の寿命
旧石器時代の化石はめったに見つからないため、比較する骨のサンプルも限られるために発掘された骨の持ち主の年齢を推測するのはとても難しい。そもそも現代人の骨と古代人の骨を比較するのは、環境や食事の内容が大きく異なるため厳密には不可能だ。そのため旧石器時代人の寿命を調べるためには、現代の狩猟採集民族に目を向けることが鍵になる。
 
研究によると大半の狩猟採集民族は80歳を前に亡くなったが、今日の世界の貧しい国に住む人々の死亡率とそれほど変わらない。この事実は、「人類の祖先は短命」「現代の世界の貧しい国の人々は早死にする」という一般常識に反するものだ。
 
    原始人、狩猟採集民の食事
私たちの祖先は、日々の栄養を得るために、ヘラジカやマストドン、マンモス、ラクダや馬の一種など大型の動物を仕留めることに日々、努力していた。彼らがタンパク質より脂肪を好んだ理由はいくつかある。

まず、1g当たりのカロリーが高い。大型の動物には、骨髄や臓器、脳、筋肉や臓器の周りなどに豊富な脂肪があった。また、火を通していない赤身肉は、噛んで消化することが難しく、脂肪を好んだという理由もある。

人類は約40万年前に、火を使って調理することを学んだが、その後でさえ、人体には一定の時間内に処理出来るタンパク質の量に限界があるという問題に突き当たった。(この事実を覚えていて欲しい。現代人が、タンパク質の摂取量を制限しなければならない重要な理由が、ここにあるからだ)。

 
    タンパク質の源を追う
約10年前、液体クロマトグラフィ同位体比質量分析法(LC-IRMS)という新しい技術が使われ始め人間や動物の骨から採取されたコラーゲン中のタンパク質が、肉食と草食のどちらに由来するか特定できるようになった。

また、摂取したタンパク質が海洋生物由来か陸生生物由来かを判別できる。

ネアンデルタール人は相当な肉食偏重で食事からとるタンパク質の大部分は大型の草食動物の肉から得ていた。海産物を食べていた証拠は見当たらなかった。
 
クロマニョン人など現生人類に近い人類の出現と同時に、食料に占める大型動物の肉の割合が増えた。高度な技術や道具が開発され、獲物の量に比べれば人口は少なく、好きなだけ狩猟が出来たことが影響している。また、次第に植物性の食べ物の量が大幅に増え、肉の消費量が減って来たことも分かっている。
 
農耕は人間の栄養パターンを劇的に変えた。わずか数千年で肉食の割合は大幅に減り、植物性の食べ物が食事の9割を占めるようになった。この変化は人体の構造にも大きな影響を与えた。3万年前に大量の動物性タンパク質を食べていた初期のヨーロッパのホモ・サピエンスの身長は、農耕が盛んになった後の子孫よりも平均して約15センチも高かった。

人類は今や、農耕以前の現生人類と同じ身長になっている。しかし、その食事内容には大きな違いがある。この違いこそが、文明病の引き金となる「豊かな栄養失調」と呼ばれているものの核となっている。

 
  「豊かな栄養失調」と遺伝的ミスマッチ
現代人の食生活は、控えめに言っても、身体が進化の過程で築いてきた遺伝的遺産と全く一致していない。農耕の出現は人々の健康と幸福に悲惨な結果をもたらした。私たちの祖先は、高脂肪の肉や内臓、脳、淡水の魚介類、脂質の多いナッツや種子、ココナッツ、アボカドなどを沢山食べていた。
 
南ヨーロッパの人々の身長は、農耕が始まったことで約15センチ低くなり、平均寿命も10年短くなった。北米の先住民も、小麦とトウモロコシを主食にしていたヨーロッパからの移住者よりも10~20センチ身長が高かった。興味深いことに肉とミルクを主食とする遊牧民である東アフリカのマサイ族も、並外れた身長と身体能力で知られている。
 
農耕革命は1万年以上前に始まったが、精製糖質(砂糖と小麦)を日常的に食べる人は、中世までほとんどいなかった。19世紀、政府の指示で現地に派遣されて先住民の調査をした欧米の医師団は、かっては健康的で痩せていた狩猟採集民族が、小麦や砂糖の摂取量が増えると急激に肥満になり、欧米人と同じ文明病(癌、心臓病、高血圧、2型糖尿病、肥満、虫歯、自己免疫疾患、骨粗しょう症、アルツハイマー病など)を発症するようになったと記録している。

冷凍技術の発達と輸送インフラの整備により、乳製品が日々の食卓に欠かせないものとなった。ライフスタイルの変化により、私たちの身体は血糖値と分岐鎖アミノ酸(BCAA)値が上昇し、その結果、1年中、mTORのスイッチがオンに、オートファジーがオフになりやすくなった。

 
初期の人類の食事に乳製品、穀類、加工糖、植物油、アルコールはなかった。狩猟採集民族による穀物の恒常的、持続的な摂取の証拠が確認されたのは、約1万3000年前、動物の家畜化は1万1000~1万年前、ミルクが日常的な食料にされていたことを示す確かな証拠は6000年前が最古だ。

蜂蜜は狩猟採集民の食生活のごく一部に過ぎない。サトウキビから結晶糖が作られ始めたのは約2500年前のインドである。オリーブオイルは約6000年前に初めて作られた人工油。他の食用油は、19世紀後半の産業革命によって大量生産が可能になるまで、ほとんど知られてなかった。

ワインが初めて醸造されたのは約7500年前、初めて穀物からビールが作られたのが約4000年前と考えられている。蒸留酒は約1200年前までは作られていなかった。

 
現在の米国人が摂取するカロリーの約4分の3を占めるこれらの食品群は、最近、食生活に取り入れられたばかりであり、現代人が遺伝子的にこれらの食品に適応しているとは考えにくい。

北ヨーロッパやイングランド、スコットランドでは約2000年~1500年前まで、農耕は一般的ではなかった。更に現代の欧米人の食事に豊富に含まれている精製糖質や、穀物の飼料で育てられた家畜、フルクトースのような単糖類も、まだ100~150年の歴史しかない。人体がこれらの食品に適応するには短すぎると言える。
 
狩猟採集から穀物を主とする食事に移行したことで、幼児死亡率の増加、低身長化、骨密度の低下、虫歯や貧血の増加、寿命の短縮など、健康にさまざまな悪影響が生じた。
 
 
   低糖質・高繊維だった原始人の食事
人類の祖先であるホモ属が、種子や草、ベリー類、他の低GI・高繊維の野菜、果物、「レジスタント・スターチ」(難消化性デンプン=野生のヤム芋や里芋など)を長い間食べていたという証拠がある。約4万4000年前のネアンデルタール人の歯の化石を分析すると、ナツメヤシや豆類、草の種、など様々な植物を食べており、その中には調理されたものもあった。
 
こうした食べ物だけではカロリーが低くて身体に必要なエネルギーを賄えないので、1年の大半の時期は、摂取カロリーの大半を肉(タンパク質)や脂肪から摂っていたと考えられている。彼らの摂取カロリーは1日当たり、女性は1800キロカロリー、男性は多くても2800キロカロリーと推定される。
 
   現代人の食事がもたらす危機
ジャレッド・ダイヤモンドは、農耕が人間の健康に及ぼす影響について幅広く鋭い考察をしている。農耕の出現で人類の身長と寿命が変化したことにいち早く注目し、それを「人類史上最悪の過ち」と呼んだ。

狩猟採集民の食事が初期の農耕民とは対照的にとても多様だったことに触れ、農耕革命によって物々交換などの取引が発達し、その結果、細菌や感染症が蔓延したかもしれないと指摘した。

そして大胆にも、人類が農耕を取り入れたのは「よりよい生活に踏み出す決定的な一歩と思われているが、実は多くの点で、人類にとって二度と取り返しのつかない大失敗だった」と述べている。

 
ユヴァル・ノア・ハラリも、「農耕革命は確かに人間が自由に扱える食べ物の量を増やしたが、それはより質の高い食事や余暇の拡大には繋がらなかった。農耕革命は人類史上最大の詐欺だった」。
 
狩猟採集から農耕への移行には、メリットもあった。人類が人口を急速に増やし、安定したコミュニティを確立したことに、農耕が大きく貢献したのは間違いない。しかし、食べ物の量は豊かになったが、質は必ずしも健康的にはならず、食べ物が手に入りやすくなったので必要以上のカロリーを摂取してしまうようになった。

また、農耕は食生活の多様性も低下させた。特に、人工的に精製された原料をふんだんに使用した穀物ベースの加工食品が生産されるようになると、その傾向が強まった。農耕ベースの加工食品の消費が増えるに伴い、私たちの身体にどのような影響が生じることで健康が脅かされるのだろうか。

 
   旧石器時代に宇宙時代の遺伝子が生きる
もし今、旧石器時代にワープしたら、そこで太った人に会うのは難しいだろう。倹約遺伝子仮説は、旧石器時代の遺伝子と宇宙時代の環境のミスマッチを表していることを示唆する。食べても太らない人は、現代では幸運な遺伝子の持ち主かも知れないが、旧石器時代では長生きできなかっただろう。
 
一方、何を食べても太りやすく脂肪を蓄積しやすい倹約遺伝子を持つ人は、食べ物の入手が困難な過酷な条件下でも生き延びやすい。余分に摂取したエネルギーを効率的に脂肪に替えられたこそ、人類は進化の過程で生き残ることが出来た。

カロリーが豊富な現代においては、摂取エネルギーを出来る限り節約するように設計された身体は問題になる。少しでも食べ過ぎると、すぐに太り過ぎや肥満症になるからだ。

 
ここで理解しておくべき重要事項は、誰もが同じようにカロリーを消費する訳でも、全てのカロリーが等しく作られている訳ではないことだ。生物学的に言えば、タンパク質と糖質(両方とも1g当たり4キロカロリー)と脂肪は、大きく異なっている。代謝の方法に違いがあるうえ、状況に応じてどれを燃焼させ、どれを貯蔵するかの優先度が変わるからだ。
 
同じ100キロカロリーでも、白砂糖を摂取する場合と、オリーブオイルで摂る場合では、身体の反応や空腹や満腹の感じ方も異なる。脂質の多い食事は腹持ちがいい。つまり、身体は、同じカロリーの食事を同じように代謝しない。空腹の感じ方も違う。この違いはなぜ生じるのか。

そこには様々な要因が関わっている。もし誰もが同じようにカロリーを消費するとしたら、食事と運動の量が同程度なら、体重に個人差は生じないはずだ。だが実際には、代謝は人それぞれ違うので脂肪の付き方は人に寄って千差万別だ。

 
   砂糖の問題
科学ジャーナリストのゲーリ―・トーベスは、砂糖が慢性疾患の主な原因であると批判した。また、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のロバート・ラスティグも、「果糖中毒-19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか」。身体は各種の糖を異なる方法で代謝する、と言う。
 
グルコースは血糖値を上昇させ、全身の細胞によって代謝される。一方、フルクトースは、肝臓で吸収、処理され、インシュリン値にも直ぐには影響しない。また、フルクトースを液体(ジュースやソーダ)として飲むことは、果物や蜂蜜から同量を摂取することと同じではない。

フルクトースは天然の糖類の中で最もGI値が低く、直ぐに血糖値の上昇を引き起こす訳ではないが、過剰に摂取すると、(特に天然でない場合)、長期的に悪影響を及ばす可能性がある。

 
中でも悪名高いのは高フルクトース・コーンシロップ(ブドウ糖果糖液糖)だ。フルクトースの摂取が耐糖能障害やインシュリン抵抗性、高脂質、高血圧と関連することは、研究によって以前から知られている。

フルクトースを過剰摂取しても、代謝と食欲を調節するホルモンであるインシュリンとレプチンの産生が誘発されないため代謝に悪影響が及ぶ。このことは、フルクトースを豊富に含む食事が肥満や代謝疾患につながる仕組みを理解するのに役立つ。

 
旧石器人は果物を食べていたが、決して毎日でも毎月でもない。旬の時に摘んで食べた果物は、普段私たちが食べている栽培されたものほど甘くなかった。現代人の身体は時代に遅れていて、私たちが摂取する大量のフルクトースを処理できるようには進化していない。天然の果物は、大量のフルクトースで甘さを加えた清涼飲料水に比べれば、糖質の量は少ない。
 
リンゴジュースをリンゴを絞ってつくる。その液体を濃縮して350mlにすれば、フルクトースとカロリーの点では清涼飲料水とほぼ同じ飲み物になる。肝臓でフルクトースの大半は脂肪に変わり、脂肪細胞に蓄えられる。何十年前から生化学者はフルクトースを最も太りやすい糖質と考えている。

食事の度にフルクトースを脂肪に変える作業を強いていたら、何が起こるか考えてみて欲しい。また、その内、筋肉組織にもインシュリン抵抗性が生じてしまう。

 
私たちが摂取するフルクトースのの大部分は天然由来のものではない。高フルクトース・コーンシロップは、現代の加工食品で主流になっている液体の砂糖だ。

この液体はジャンクフードや菓子、清涼飲料水に限った話ではない。高フルクトース・コーンシロップは、調味料やサラダ用ドレッシング、エナジーバー、ヨーグルト、パンなど身近でよく食べる食品にも多用されている。

 
高フルクトース・コーンシロップは1987年ごろから飲料や食品に含まれる白砂糖の安価な代替品として登場した。これが肥満の蔓延の犯人という指摘は以前からあり、実際、大量に摂取し続けるとお腹が出たり、糖尿病などの発症リスクが高まったりする。
 
人間の遺伝子は長い年月をかけて進化してきたが、そのほとんどの期間において糖質は、現代とは違って簡単には手に入るものではなかった。また、加工食品に含まれる高フルクトース・コーンシロップには他の人工的な添加物が含まれていることも多く、中には脂肪の蓄積を誘発するものもある。
 
私がここで「砂糖の生物学」について詳しく説明しているのは、現代人の多くが、本来人類が遺伝的にはほとんど発症しないはずの生活習慣病に苦しんでいることを指摘したいからだ。

確かに、遺伝的に糖尿病や心臓病、癌にかかりやすい人はいるが、もし人間本来の代謝と生理学を外れるようなことをすれば、誰でもこれらの病気に罹りやすくなる。また、ある種の病気に罹りやすい遺伝子を受け継いだ人も、ライフスタイル次第で運命は変えられると私は信じている。

精製糖質入りの食品を大量に販売する加工食品産業がなければ、肥満は珍しいかったはずだ。糖尿病、心臓病、認知症、各種の癌などの病気にも同じことが言える。今こそ、祖先をモデルにして、健康的な食生活を始める時だ。ただし、その際には、工夫が必要になる。

 
   人類の祖先のゲノムが求める食生活を送る
進化の歴史を考えると、現代人の食生活がいかに機能不全に陥っているかがよく分かる。現代に生きる私たちがゲノムが求めるような食生活を送り、オートファジーの力を活用したいのなら、糖質(特に精製された小麦粉と砂糖)と動物性タンパク質を毎日大量に食べるべきではない。

私たちの祖先の食事にはタンパク質と脂質が豊富に含まれていたが、現代人のように毎日ふんだんに摂取できていた訳ではなく、限られた量しか手に入らなかった。だから、大量の食事を絶え間なく身体に詰め込むべきではない。

 
確かに、パレオダイエットは身体に悪い大量の精製糖質(特に精製された小麦粉と砂糖)の摂取削減には優れている。ただし、果物や蜂蜜などの糖質の摂取や、動物性タンパク質を大量に摂る事ことが許されている。

パレオダイエットが推奨するタンパク質の摂取量は、mTORをオフ、オートファジーをオンにするために必要な量をはるかに超えている。

糖質とタンパク質の過剰摂取は、「栄養過剰」と呼ばれ、典型的な欧米の食事と同じくらい確実に生活習慣病を引き起こすことが、多くの研究で明らかになっている。

 
第7章では、mTORを抑制しつつパレオダイエットを実践できる食材を紹介する。
 
 

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