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日本製鉄によるUSスチール買収騒ぎ
昨年、日本製鉄が米国のUSスチールを買収する件について、USスチールの労働組合が反対し、トランプも反対、引きずられてバイデンも反対して、最後は安全保障上の問題だとして許可しないとのこと。
日本製鉄は異を唱えて、記者会見で、社長が当時のバイデン大統領をバイデンと呼び捨てにして非難し、法的措置をとると息巻いていましたが、現トランプ大統領も方針を変えるとは思えず、買収は成立しないだろう。私から見れば、望ましい結果だ。
日本の鉄鋼会社はかつて日本の産業をリードしていたが、今は主役を自動車などに譲り、わき役になっている。しかしながら、今でもある程度の利益を出して、それなりに存在感があるのは、一重に技術的優位性を保っているからだ。研究開発などホワイトの技術者ばかリでなく、現場労働者のレベルも高い。技能的に優れているだけではなく、総じて責任感が強い。更に現場を支える地場の関連企業と一体となり、日本人の真面目さ、ひたむきさが大きな力になっている。私が第一線の技術者だった時に、現場に助けられたことは枚挙にいとまがない。
当方は長く大手鉄鋼会社に勤務していたが、30年ほど前に今回とそっくりなことを経験した。ある日突然、当社が米国の鉄鋼N社を買収すると発表し、今回のような政治問題にならず、すんなり買収が成立してしまった。副社長以下ごく一部の独断で進めていたようで、ただただ驚くばかりだった。
買収後は、N社に経営幹部以下、技術陣を派遣したが、経営状況は悪化し、10年程後に破綻してしまった。買収資金と10年に及ぶ人と技術の応援は、全て無に帰してしまった。
今回の日本製鉄のトップも現場を知らないようだ。この数年、日本製鉄の業績は順調、国内で諸々の政策を推進しているぶんにはいいのだが、米国の鉄鋼会社の買収では、本質を見誤っている・・・・と思う。
参考までに、日本製鉄とUSスチールの規模を比較すると、
日本製鉄 USスチール 兆円
売り上げ 8.9 2.7
利益 0.59 0.13
総資産 10.7 3.1
規模感としては、USスチールは日本製鉄の約三分の一、買収金額は2兆円と言われており、買収できないこともない。