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36歳の糸谷哲郎氏がA級に復帰

  将棋の糸谷哲郎氏が将棋界最高峰のA級順位戦(10人)に復帰した。以下、昨年7月の文章と些かダブるが、知らなかったことにしていただきたい。
 
 糸谷哲郎氏は1988年生まれの36歳、早見え早指しで知られ、各棋戦で活躍する一流棋士の一人だ。2006年に四段に昇段してプロ入り、14連勝してその年の連勝賞、新人賞を受賞した。
 
 その糸谷氏がなんと、翌2007年に、名門国立の大阪大学文学部に合格。藤井聡太君が将棋に専念したいと、卒業直前の高校を中退したのとは好対照だ。糸谷氏は大学の哲学・思想文化専修に所属し、卒業後はさらに大学院に進学した。その間も将棋ではタイトル戦に絡む活躍を続け、こともあろうに、大学院在学中に将棋界最高峰のタイトル「竜王」を奪取した。流石に一時休学したが、その後復学して2017年に修士課程を修了、大阪大学修士(文学)の学位を授与される。研究分野はマルティン・ハイデガーの哲学・・・・だそうだ。
 
 彼の父親は東京大学工学部卒、中国電力で原子力系のエンジニアだったそうだし、母方の祖父はマルクス主義経済学の大学教授だったとか。両者を受けついで、ものの考え方、方向性を組み立て、それを精緻に解析して理論付けする、そういった血筋、家庭環境だったのかもしれない。
 
 以下、彼の文藝春秋への投稿文「将棋と哲学」から抜粋する・・・・ 
 この(将棋の)直感を捨てて読み直すと言う行為は、考察する対象への視点を一旦オフにする、もしくは多重の視点から見ることによってよりよく対象を知ろうとする哲学的営みに近いのではないかと思っている。
 将棋に限ったことではないかもしれないが、こうして自分の思考を広げていき、より多くの視点を獲得することにより、対象への「誠実」なアプローチを感じる。
 もっとも、より多くの視点を得たからと言って将棋が面白くなることやより深く読めるようになることはあっても、必ずしも勝てるようになるとはかぎらないのはご愛敬である。それは哲学を考える上で知識の増加が必ずしも良いこととは限らないのと同じかもしれない。・・・・
 
 将棋棋士のピークは30歳前後と言われている。順位戦は、奨励会を抜け出してプロ四段になりC2級からスタートして年度ごとの争いに勝てば、(飛び級はないから)一段階ずつ昇格する。A級になるには最短でも5年を要する。一度でもA級になれば超一流棋士であり、大半の棋士は到達しない。藤井七冠は19歳でA級、20歳で名人、例外中の例外なのだ。
 
 糸谷八段は2017年、29歳でA級に昇給し、5期在籍して現在B1級だが、今年度、最終戦を残して9勝2敗でA級復帰が決まった。36歳でのA級復帰は私が知る限り最高齢だ。A級では、10人が1年間の総当たり戦で名人挑戦を争うのだが、一方、2人がB1級に降級するから、そちらも大変だ。
 
 勿論、来年度の棋界で糸谷旋風が起これば嬉しいが、棋界はそう甘くはないだろう。出来れば、少しでも長くA級に在位して欲しい・・・・ものだ。

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