上場企業4.大株主の影
社長に就任した2008年10月、世間はリーマンショックの真っただ中だった。幸い当社社の事業は水道管なと、ほぼ全てが社会インフラに関するものであり、最終の向け先は全国の自治体だから、リーマンショックとは無縁だった。
会社幹部の1人に常勤顧問がいた。私と同じJ社出身で、私より2年下、鋼管営業のベテランだ。ところが、私が社長就任以降、会社で顔を見たことがない。会社に来ないのだから、タイトルを非常勤顧問に変更させてもらった。それにしても、彼が何故顧問なのか、何故これだけの処遇をするのか、訳が分からない。F常務に訊くと、J社から次の幹部(場合によっては社長)含みで来ているので、無下に出来ないとのことだが、私は何も聞いていない。年が改まって2月のある日に、彼が私の処に(初めて)顔を出して、今年度で会社を辞めるとのこと、いい判断だと返事をすると、変な顔をしていたが、ともかく、一件落着した。
更に、同じくJ社出身で既に当社の取締役を退任している人が、当社と何かの契約をしていて、工場事務所の一部屋を占有しているらしい。その彼がある時、私に会いに本社にやって来た。彼は自分のやっている(らしい)ことの将来性を延々と熱く語ってくれるのだが、専門的すぎて全く理解できず、ただただ我慢して話を聞くだけだった。後日工場の技術者に訊くと、彼のやっていることはわからないと言うので、次回の契約はしなかった。2件とも、お二人自身の問題ではなく、J社に対し、当社が無用に気を使い過ぎているだけのことだ。
本社の人の動きはおおよそ分かったので、埼玉の工場に頻繁に出かけて設備と技術者の把握に努めた。工場のトップはやはりJ社出身の工場長であり、事務所2階の個室に潜んでいる。下に副工場長がいて、その下に総務部長、○○製造部長・・・・と階層が多く、話しが通りにくい。これは何とかせねばと思うが、口で言ってもだめだから、1年後に自分が乗りこんで工場長を兼務してしまおうと、心ひそかに決めた。
会社全体にJ社出身者と出向者が20人ほどいて、本社と工場の要所を占めている。確かに彼等は全員それなりに優秀だが、反面プロパー社員が彼らに気を使って委縮している。代々の社長が使いやすい人を呼び寄せた結果なのだろう。J社は当社株式の30%を持つ大株主だが、親会社ではないのだから、やり過ぎだ。その後、組織簡素化などに伴って、順次、J社出身者には退任してもらい、出向者にはJ社に戻ってもらうなどして、3年後には、J社出身者は私と取締役1人の2人だけになり、出向者はゼロになった。