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「西洋の敗北」

  文藝春秋新年号に、佐藤優氏が書いている「ベストセラーで読む日本の近代史」に、エマニュエル・トッド(大野舞訳)「西洋の敗北」が紹介されている。佐藤氏は元外務省主任分析官で特にロシアとの人脈が深い。今でも人脈を維持、分析して、独特の見解を毎月の文藝春秋に書いている。的確、論理的な分析には感心するが、ロシアよりの結論が多く、私には同意できないことの方が多い。
 
 最初に「西洋の敗北」の紹介部分を転記します・・・・
 フランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏(1951年~)の「西洋の敗北」は2024年1月にフランスで刊行され、既に21か国以上で翻訳が決定している。(興味深いことに英語版は決まっていない)。トッド氏は人類学、地政学に通暁し、近未来予測を専門とするインテリジェンス専門家だ。事態がこのまま進捗すればウクライナの敗北は避けられにと断言する。
 
 以下、佐藤氏が「西洋の敗北」から抜粋している部分を転記します。
 ゼレンスキー政権の崩壊
 ・・・・今日、ウクライナの敗北は明確になり・・・。ロシアと比較した場合のウクライナの規模の小ささとアメリカの軍需産業の脆弱さが、私の予測を容易にした。西洋のメディアが絶えず繰り返すこととは逆に、ロシアの侵攻の緩慢さについても、大規模動員が不可能だったからではなく、人的節約の意図があったことを踏まえれば、直ぐに理解できた。西洋の新聞、テレビは、連日のように、スターリン時代と同じように大量の兵士を大砲の餌食として戦線に送り込むのがロシアの戦略だ、と言い続けた。・・・真実はその逆で・・・ロシア軍は全ての戦線で前進しつつある。直近の目的は、領土の征服ではなく、ウクライナ軍の物質的かつ人的破壊である。ウクライナ軍は、ロシア主導のゲームに引きずり込まれ、防衛努力を続ける中で徴兵されたばかりの訓練不足の兵士たちを犠牲にしている。ロシアの計算によれば、そう遠くないある日、ウクライナ軍はキエフ(キーウ)政権と共に崩壊する。・・・・
 
 昨今のテレビ・SNSでは、ロシアの人的、戦闘車両などの一方的な大損害が、日々ニュースになっているが、一方では全線にわたってロシア軍が少しずつ前進しているらしい。戦争中の日本の大本営発表をおもわないでもない。
 
 更に、ロシア・ウクライナの歴史、民族感情などに言及し、ウクライナにネオナチの要素があるとまで述べている。アメリカとウクライナが敗北した後の国際情勢についてトッド氏は以下のように予測している。・・・・
 ウクライナ・ナショナリズムの一時的な軍事的成功は、地域レベルでの軍事的、経済的、イデオロギー的敗北によってしか抜け出せないような、エスカレートした状況にアメリカを追い込んだ。現在のアメリカにとっての敗北とは、ドイツとロシアの接近、世界の脱ドル化、「集団的内部紙幣印刷(ドル)」で賄われる輸入の終焉、そして大いなる貧困だ。・・・・
 
 そんなに単純にロシアが勝つとは思えないが、だからと言ってウクライナが勝つのも難しそうだ。決着がつくためにはゼレンスキーかプーチンのどちらかの政権崩壊が必要だとすれば、ゼレンスキーの方が危いかもしれない。
 
 更に、気になるのはアメリカのドル垂れ流しだ。世界各国の国際収支を見ると、ドイツ、中国、日本、その他黒字国が多いが、その分をそっくりほぼアメリカが巨額な赤字だ。つまりアメリカは巨額のドルを印刷して物資を輸入し、豊かなふりをしているが、ドルが通用しなくなれば直ぐに破綻する、現在、世界中にドルが溢れつつあり、いつまでも巨額赤字が通用するわけではない。

2023年、各国の国際収支 単位:百万USドル

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