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今日はボウリングの日

登場モノ

重井 玉夫:ボウリングの玉の妖精

テンピン:10番ピンの妖精

ピンピン君:ピンの妖精、ポジションはまだない


重井 玉夫(おもいたまお)は「アッ、レーンがいつもより滑るぞ、オイルが厚めに塗ってある日だな」

とは思ったけれどもう、彼にはなすすべもなくきつくテンピンに当たってしまった。

その威力でテンピンは胴体を薙ぎ払われ首の骨が折れた。

テンピンはその場に倒れ、

「あ~、痛て痛て痛て~」の絶叫が場内にこだました。

そして即座にレーン袖に運ばれた。

玉夫は駆けつけて謝りたかったけれど彼にはすぐに次の仕事が待っていたので

遠くから頭を下げる。するとテンピンは軽く手を挙げ

「大丈夫大丈夫」と、大事に至っていないことをアピールした。

レール袖では今日が仕事始めの新人、ぴんぴん君がこの様子を見て顔面蒼白。

それでもありったけの勇気を振り絞りテンピンに駆けより声をかけた。

「大丈夫ですか?」ピンピン君はもう少し気のきいたセリフはないかな

とは思ったけれど、他に言葉を思いつかなかった。

「あ~あ、君は今日からの、ピンピン君?悪いことしちゃったねぇ、

こんな姿を初日に見せるなんて、怖がらせちゃったねぇ」

とテンピンはピンピン君を逆に慰めた。

どう見ても助からないように見えるのにこの明るさは何だろう?

やっぱ「優しいモノほど短命」ってホントだなと思うと言葉が出なかった。

お調子者のテンピンは若者を元気付けようと折れた首を片手で支えながら話を続けた。

ねぇ、君、驚いて怖がったりしないで下さいよ。

私はね、もう寿命だったんですよ。

ほら、ここんところ、お客さんがいなかったから倒される機会が少なくって

1年も生きちゃいましたけど、私ら生きてせいぜい、半年の命。

だからって、逃げ出しちゃあいけませんよ。

私ら何千年も前からレーンで玉にぶつかって倒れる。

そうすることで悪霊を退散させてきたんですから、

誇りの持てる仕事ですよ。

ピンだけにね、ピンと胸を張って生きるんです。

だけどここだけの話、真ん中のキングピンなら、他のお仲間に囲まれて

あんまり痛い思いしないかもですよ。

だから皆さんと仲良くなって、なるべく真ん中に居るんですよ。

ハッハッ、君、私と同じく、引っ込み思案かな?

だったら私のポジションの10番なんかもおススメ。

ここはねぇ、玉そのものが当たらないって場所ですからのんびりしてられます。

花形とは言え、間違ってもヘッドピンになっちゃあ駄目ですよ。

あそこはもう、タマが当たり放題だから痛い思いをしちゃいます。

まぁ、どっちにしても私ら、儚い泡みたいな存在だから

君が気に入った場所に居るのが一番だね。

そう言ってテンピンは騒々しく、息を引き取った。

※「ボウリングをすること」などを意味する「bowl」という英語は、

ラテン語で「泡」や「瘤」を意味する「bulla」に由来する。←なんで?

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