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『雨の中の慾情』ネタバレ感想~『ロングデイズ・ジャーニー』にも通じる、悲しくロマンティックな物語
※ネタバレに関する注意
本記事には『雨の中の慾情』『ロングデイズ・ジャーニー』『ミッション:8ミニッツ』のネタバレを含みますので、ご注意ください。
【1】『雨の中の慾情』の構成に痺れた
片山慎三監督の『雨の中の慾情』、正直前半はあまりハマらなかったけど、後半に入って物語の構造が見えてくると一気に惹き込まれましたね。
人によって色々解釈あると思いますが、私の解釈はこんな感じでした。
戦争シーンが現実で、その他は義男(成田凌)の夢。
(終盤になると軍服だけど夢のパターンも出てきてカオスになっていく)現実の出来事や物、人物がモチーフとなり、夢の中に類似事象として反映される。
逆に、現実の出来事と紐づかない夢の出来事は、劇中で描かれていないだけで、それに相当する現実の出来事があったように思える。
この3つ目が結構怖くて、特に、夢の中で子供のうなじから液体を取って運ぶシーン。
それに相当する現実のシーンは劇中にはなかったですが、731部隊の実験みたいなのがあったのではないか、子供の人身売買があったのではないか、義男はそれに加担していたのではないか……そんな嫌な想像が脳裏をよぎります。
あの液体の試験官を白人に渡すシーン。試験官が一つ割れていましたが、それに相当する現実では、人身売買で運んでいた子供が輸送中に一人死んだということか?とか思ってしまいます……。
【2】『ロングデイズ・ジャーニー』に通じる、『雨の中の慾情』のロマンティックさ
観ていて後半辺りで、この映画はビー・ガン監督の『ロングデイズ・ジャーニー』に似ている気がしてきました。
『ロングデイズ・ジャーニー』も、観る人によって解釈の分かれる映画なではありますが……。
公開当時、YouTubeに『ロングデイズ・ジャーニー』の考察と作品愛を熱くしみじみと語る動画があって、私はとても感動・共感しました。
(動画はもう削除されてしまったようで、検索しても見つからず、もはや投稿者の名前も憶えていないのですが……)
『ロングデイズ・ジャーニー』は最初に2D版を観て、その方の動画を観て、その後しばらく経ってからリバイバルで3D版を観て、とても心に沁みた記憶があります。
※なので本記事、『ロングデイズ・ジャーニー』については上記の方の受け売りが多いです。
で、『ロングデイズ・ジャーニー』ですが、あちらは前半が現実で、中盤映画館で3Dメガネをかけるシーンから夢の世界に入ります。
現実で主人公はある女性を探していたのですが、全然見つからず……。そして夢の中で、探していた女性のような存在に出会います。
これを上記の動画の方は「現実で会えなくても、夢でなら逢えるさ」と称し、なんてロマンティックなんだ…!と熱くしみじみと語っていました。
この動画にいたく共感して、「現実で会えなくても、夢でなら逢えるさ」を念頭に映画を再見したら、私も「なんてロマンティックなんだ…!」と震えました。派手なことは起こらない。何もかも叶うなんてことあるわけがない、でも、これだけでも、これだけが心にあればいいじゃないか。そんな風に感じて、心に沁みました……。
で、『雨の中の慾情』。『ロングデイズ・ジャーニー』に似ているなと思って「現実で会えなくても、夢でなら逢えるさ」を念頭に置いて観ました。
ロマンティック……!
現実では会えない福子(中村映里子)と、夢の中でいろいろなシチュエーションで出会う義男…。夢なのに素直に結ばれないあたり、奥ゆかしい(?)
一方で『ロングデイズ・ジャーニー』と明確に違うところがあり、それは福子が死んでいるということ。
福子が死んだと伝えられて万年筆を渡されるシーン。あれはおそらく現実なので、実際に死んでいると思っていいでしょう。
(私の解釈ですが……)
そうなると、「現実で会えなくても、夢でなら逢えるさ」が重みを増して、ロマンティックに何とも言えないもの悲しさが重なってきます。
いやもう、余計に心に沁みてきますね…。
【3】永遠を願う『ロングデイズ・ジャーニー』と、夢の終わりが来る『雨の中の慾情』
『ロングデイズ・ジャーニー』のラストでは、主人公と(探していた女性のような存在である)女性がキスをして、その後が長回しで街を抜け、最後に消えない花火が映ります。
この「いつまでも消えない花火」は、そこが夢の中であることを示すアイテムなのですが、それだけではなく、色々な思いを乗せて見ることができます。解釈は見る人次第だと思いますが、例えば「この夢よ永遠に続いてくれ…」とか、あるいは「いつか醒める夢だと分かっているけれど、あと少し、あと少しだけ夢の中にいさせてくれ…。花火よ消えないで…」とか。
初見時は全然分かりませんでしたが、いやあ余韻の残る素敵なラストです。
で、『雨の中の慾情』。こちらは夢の終わりが来ます。
野戦病院で伊守(森田剛)が去っていくとき「夢の中で人が死んだら、そのときが別れだ」みたいなことを言いました。正確なセリフは覚えていませんが……だいたいそんな感じでした。
その後で、福子が車にはねられるシーンがきます。
ここははねられ方が戯画的なので、軍服を着ているけれど夢だと思います。
そして、現実ではかなわなかった、福子の死を看取るということをします。
これは、義男にとっては思いを遂げたシーンだと、私は思いました。
「夢の中で人が死んだら、そのときが別れだ」の通り、この後に夢から醒める時が来ると思います。それは、義男が福子を吹っ切ったということなのか、それとも義男の死が来たのか、いろいろと想像できます。私はどっちもありな気がします。
【4】『雨の中の慾情』のラストについて
義男と別れた後の福子のその後のようなシーンで映画が終わるのですが、福子が夢の存在だとすると、このシーンは何なのか……。
ちょっと考えてみて、私は『ミッション:8ミニッツ』っぽい後味だなと思いました。本体から切り離された後も続いていく、夢/非現実の世界……。
存在しえないものを、ひょっとしたらあるかもしれないと夢想する……それもまたロマンティックだなと思いました。
おわりに
『雨の中の慾情』の感想記事と言いつつ、『雨の中の慾情』と『ロングデイズ・ジャーニー』と『ミッション:8ミニッツ』を6:3:1ぐらいで語った気がします……。
どれも好きな映画です。
そして、もう名前も忘れてしまった、『ロングデイズ・ジャーニー』の動画を作った方……。あの方のおかげで十二分に映画を楽しめた気がします。
感謝を込めて、この記事をあの方に捧げます。
(捧げられても困るか……)