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哭声同様に深読みできる土着信仰ホラー映画『女神の継承』の考察

タイの土着信仰ホラー映画『女神の継承』は、純粋に怖がって面白い、作中に散りばめられた様々な要素を深読みしても面白いと、一粒で二度美味しい映画でした。私は大好きです。
このnoteでは、私はこんな風に深読みして楽しんだよ!ということを、考察としてまとめてみました。

【1】この映画で一番ぞわっとしたシーン

▼私たちが先祖代々信仰していた女神って、もしかして邪悪な存在!?

この映画で一番ぞわっとしたのは、終盤にノイが女神バヤンに憑かれるシーンで、私たちが先祖代々崇めていた女神って、もしかして邪悪な存在!?…っていう絶望でした。

祈祷師の責任者サンティが倒れた後、ノイが儀式を続けようとするのですが、ノイの様子が明らかにおかしい。もしや悪霊の罠か?と見ていると、悪霊の憑依したミンと敵対して「女神バヤンの前にひれ伏すがよい」的なこと(正確な台詞は忘れました…)を言い出します。
なんだ悪霊じゃなかったんだと安心しかけて……でもあれが女神ってそれはそれでヤバイだろ!とぞわっとしました。

祈祷師の一人がダッシュして壁に頭を打ち付けていたのも、悪霊による精神汚染と見せかけて女神バヤンによる精神汚染だと思いました。タイミング的にもそうでしたし、悪霊の精神汚染を食らって獣化したような感じになっている他の祈祷師たちとは違いましたので…。

あんな精神汚染を振りまいているやつ邪神じゃないか?
ポスターなどに「祈りの先に、救いはあるのか。」というコピーがあり、祈りは届くのか、届かないのかという話なのかと思いきや、残念!祈っていた相手は邪神でした!と根本からひっくり返される感じがしました。

※最初の印象はそうだったのですが、女神バヤンも単純に純粋悪というわけでもないような気もしてきました。その辺りを次に整理します。

【2】女神バヤンとは何だったのか?

▼女神バヤンは最初から邪悪な存在だったのか?

監督のインタビューを読むと、登場人物たちがカルマを背負っていることがこの映画の重要な要素であるようでした。
それで考え直してみたのですが、女神バヤンは最初から純粋悪というわけではなく、祟り神のようなもので、災厄をもたらすと同時に、正しく信仰すれば恩恵をもたらすこともある存在ではあったのだろうと思いました。
しかし祈祷師の血筋の人たちがカルマを背負ったことを契機に、邪悪方向に振り切ったのではないかと思いました。

登場人物たちの背負ったカルマは……

  • 長女ノイは文化的に忌避される犬肉の販売やニムへの祈祷師の押し付け

  • 長男マニは異性関係(監督のインタビューによると、マニの行っていた店の女性は未成年という裏設定があるらしいです)

  • ミンとマックは近親○○疑惑

  • ニムは…しいて言うなら、自分に女神バヤンの加護がないと感じつつ心霊治療を行っていたこと

▼ミンに憑依した悪霊も、女神バヤンも、似たような存在ではある?

差異はあれど、憑依、精神汚染というスキルは同じであり、ミンに憑依した悪霊も、女神バヤンも、似たような存在ではあるかもしれません。
カルマに対して因果応報を与えるものという点も同じですね。
(因果に対して応報がでかすぎる気もしますが、それは当人だけでなく先祖代々のカルマが積もりに積もった結果ですかね…)

▼この映画の話は、女神バヤンの祈祷師の血筋と悪霊に恨まれたカルマの血筋…二つが交わった結果勃発した、バヤンと悪霊どちらがこの血筋を支配するかの争いでもある?

この映画の話は、ニムやノイの「女神バヤンの祈祷師の血筋」とノイの夫(ヤサンティア家)の「悪霊に恨まれたカルマの血筋」が交わった結果勃発した、女神と悪霊どっちがこの血筋を(この一族の子孫を)支配するんだという争いの側面もあるように思いました。
(おそらく両立はできないのだと思います。キャラも被っていますし…)

両方の血筋を継いでいるミンを、女神バヤンと悪霊のどちらが支配するのかという争いがあり、そしてそれがエスカレートしていった結果、終盤の展開に…。
終盤は、悪霊に憑依されたミンと女神バヤンに憑依されたノイが代理戦争をやらされている感じにも見えます。

【3】女神バヤン=邪悪な存在という前提で物語を振り返ってみる

女神バヤンは純粋悪ではないとはいえ、映画の段階ではほぼ邪悪なので、女神バヤン=邪悪な存在という前提で物語を振り返ってみます。

▼ミンに最初に憑いていたのはやはり女神バヤンで、素人祈祷のところで悪霊に入れ替わったのではないか

ミンに最初に憑依していたのはやっぱり女神バヤンで、途中で悪霊に入れ替わっているという見方もアリだと思いました。

生理が続く、不特定多数の男性と行為をするなど、憑かれた当初の行動は女性特有のものであり、邪悪な女神に憑かれたとなるとしっくりきます。
ノイも自分たちの時の症状と同じだと言っていました。

一方、後半のミンは獣じみていていて、首を切られた人たちや獣たちの恨みの集合体という説明にも合致し、悪霊に憑かれていたと思ってしっくりきます。

憑依の症状が悪化していったと見せかけて、憑いているものが女神バヤンから悪霊に入れ替わったのだと思いました。

切り替わったタイミングは、ノイが連れて行った素人祈祷のところだと思います。ニムも悪霊が入ってきたらどうする!と丁寧に説明してくれています。

また、女神バヤンが憑依しようとしていたミンが悪霊に掠め取られたことにより、女神バヤンが奮起し悪霊と敵対するという流れにも繋がります。

▼女神バヤンの信仰は、年月とともに本来の意味から変わっていったのではないか

女神バヤン=邪悪な存在と考えると、なんでそんな危険なものを信仰していたのかと疑問が出てきます。ニムは最初の謂れは分からないというようなことを言っていたと思いますが、年月とともに本来の意味から変わっていったのではないかと思いました。

以下のような経緯があったのではと思いました。(妄想です)

  • 祈祷師の血筋は、元々は女神バヤンに憑依されやすい霊媒体質の家系であった。

  • 生理が続く、不特定多数の男性と行為に及ぶなどの現象は女神バヤンに憑依されかかってのものであり、この血筋の人たちは祈祷師になって霊力を得ることと、女神バヤンを手厚く祀り鎮めることでそれを跳ね除けていた。

  • 女神バヤン像の前の儀式は、本来は女神バヤンを鎮めるような儀式であり、像も女神バヤンを鎮めるためのものであった。しかし現代に正しい意味は伝わっておらず、女神バヤンの加護を得るためのもののように扱われていた。

  • 先祖代々そんな感じでやっていたが、「女神バヤンの祈祷師の血筋」がカルマを背負ったことと「悪霊に恨まれたカルマの血筋」と交わることで、潮目が変わった。
    さらに悪霊が好き勝手やり始めたので女神バヤン奮起。邪悪方向に振り切った。像の破壊も女神バヤンが邪悪方向に振り切ったことの象徴。

▼ラストのニムの独白についてー邪悪なバヤンを感じられなくてむしろ良かったのではないか

ラストでニムは、本当は女神バヤンを感じられたことはないと独白します。女神バヤンとは何だったのか?本当にいたのか?と考え込んでしまうような、印象深いシーンです。なにか深淵を覗き込んでしまったような感じもします。

ですが、女神バヤンは邪悪だと考えると、バヤンを感じられない方がむしろ良かった気もします。女神バヤンを感じられる状態というのは終盤のノイのようなヤバイ状態であり、感じられてもいい影響があるとは思えません。
(むしろ、祈祷師として霊力をつけたことで、しばらくの間は女神バヤンの悪影響を防げていたのかもしれません)

また、女神バヤンを感じられなかった原因は、女神バヤンが邪悪に振り切って人間に恩恵を与えなくなったというのが大きいと思います。ニムは自分自身に原因があるのかと思って悩んでいるようでしたが、それで悩む必要などなかったのかもしれません…。

▼ニムを殺したのは悪霊と見せかけて女神バヤンではないか

祈祷師の責任者サンティが、悪霊に殺されたのかとノイに言われて、誰に殺されたかは分からないとぼやかしていたのが意味深です…。(サンティ自身は分かっていないと思いますが、脚本的に意図がありそうです)

ニムは女神バヤンを感じられない状態でいてむしろ問題なくて、それを悩む必要などなかったのに…。むしろその心の隙を突かれて(迷いにより抵抗力が落ちて)女神バヤンに殺されてしまったのかもしれません…。

女神バヤンがニムを殺した理由は、いろいろと妄想できると思います。
例えば、女神バヤンはミンを掠め取っていった悪霊を敵視しているので、自らを鎮める力を持つ祈祷師を殺すことで枷を外し力を増したかった、あるいはノイにしたように憑依しようとして失敗した(よくないものが入り込んできたと思ったニムが抵抗して、結果死んでしまった)などが挙げられると思います。
(理由の決定打となるようなネタは見つけられていません…)

最期だけは女神バヤンを感じられたのかもしれませんね…。

【4】今回の考察のネタ枠

ここからはそれほどマジではない、ネタ枠的な考察です。

▼悪霊が憑依したミンにはワープ能力があった?

中盤辺り、警察がミンを見つけて、車を切り返したらそっちにもいる!というシーンがありました。正直、他のキレキレのホラー演出に比べるとなんだか平凡だなと最初は思いました…。ですが、いろいろと考えてみた結果、ミンをワープさせたい場面があるので、ワープ能力あるよと示唆するシーンを事前にやっておきたかったのかなと思うようになりました。

終盤、ミンが監禁されていた部屋から出た後、すぐ廃墟に来ました。早っ!
犬を茹でたりとかのんびりしていたのも考えると、移動は一瞬でしょう。
あの廃墟、ミンの家のすぐ近所にあったのでしょうか…?
そいうツッコミに切り返すために、悪霊が憑依したミンにはワープ能力があるという裏設定があるのではと思いました。
とはいえ、祈祷師が結界を張っていた廃墟内には直接ワープできなかったので、近場にワープしてそこから徒歩で廃墟に攻め込んでいったでしょう…。

終わりに

この考察が正解かというと、そうとは限らず、『女神の継承』はいろんな解釈・想像ができる映画だと思います。
監督もインタビューで、

ナ・ホンジンとも相談して、説明が必要な部分と、謎のまま残す箇所を線引きしました。意味が分からなくても、異なる文化圏の観客にイメージが伝わる。それが驚きで、興味深い。女神は実在するのか、祈りの先に見えるものは何か。答えは皆さんの想像力と、映画のマジックのなかにあるのだと思います。

https://www.excite.co.jp/news/article/Crankin_111647/

と言っていました。こうやって想像力たくましく観てみるのも一つの楽しみ方かなと思いました。私は楽しみました!
(こうやって4000字の考察を書くぐらい…)

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