コロコロコミックの『ウソツキ!ゴクオーくん』という作品に出会えて本当によかった(総評)
・まえおき
2022年3月15日よりコロコロオンラインにて新設されたwebコミック「週刊コロコロコミック」。その中に連載されているオリジナル作品の『ぷにるはかわいいスライム』の話題もあって周囲に存在が知れ渡り、さらに同時に始まった人気あったレジェンド過去作もリバイバル連載されてる中に『ぷにる』と同じ木曜日に配信される作品……『ウソツキ!ゴクオーくん』があった。
Twitterでのフォロワーさんがハマってたのもあって前から興味はあり、機会があれば見ようかなと思っていたが週刊配信にてその機会が巡ってきたのだ。そして読んでみたら……自身のコロコロコミックの概念を覆すほどに“ヤバい”作品だった。いや週刊配信のリンク先に「もう全国の小学生は気付き始めてます。『このまんが、ヤバい!面白い!』ウソじゃないですよ…!?」とあるけど……ここまでだとは思わなかったよ!!さらに既に完走した方々は「最終回までずっと面白いぞ」と言ってたが……全て見てきた今なら分かる、これもウソじゃなかった。ということで自分は週刊配信を待てずに電子書籍で単行本を買い、そして読む度にあまりのすごさに感動し、その気持ちをなんとしてでも形に残したいと感想記事をnoteに書いたのだ。
ユーリィ編、サタン編、6年生突入(と装ったナナシノ編)、ネクスト編、魔男編&最終章手前、そして最終回と書き綴り、そして今回は今作全般の総評へとなります。まぁ当然というか既に見た人向けな部分が多々あると思いますので……それでは始めていきましょう!
・初志貫徹、10年ずっとブレずに描き続けた多種多様なウソとそれにより構築された生きたキャラクター達〜
まずはやはりこれに尽きる。10年と長期に渡って連載した今作だが徹底して「日常→ウソ発生→暴いて舌を抜く→強制自白での反省からのドラマ」の一話完結な構造を一貫して描き続けていた。そしてその話がどれもこれも面白い。個性豊かな人から発せられる色とりどりのウソ……それをどう攻略するか、そしてトリックを暴いた際に小さく描かれた要因を見返しちゃんと記していたことへ気付くアハ体験じみた楽しみもあった。
長編推理ものとして長き物語を構成するのも大変だが、毎回毎回別の話を思いつかねばならないのもすごく大変である。それを10年ずっと描き続けたのは本当にすごい。そしてそんな推理ものにおいてメインに扱うのは小学生が起こす刑事事件に満たないやらかし……だからこそ普通の人間だろうとついやってしまうような生々しい事件になるのだ。週刊配信で16話の雨地くんの卑屈な逃避や17話のリヨちゃん&みぃちゃんの水面下にて発生する親友マウント、22話の梶野くんの好きこそそうありきで後戻りできなくなった恐怖とか公開された際に多数の共感の声を観測できたように……自分が一番効いたのは82話「お調子者の軽いコトバ」での茶刈くんのやらかしだ。あれはかつての自分がありありと浮かんできて本当に泣きそうになった……
とまあ様々な人間誰もがあるあるなやらかしをするが基本的には小学生がやること、刑事事件じゃないので加害者側も逮捕で退場とならず、そこからも先の話が存在し大抵は被害者側と打ち解け合うものだ。これのおかげで読了後に心が晴れやかになる爽快感も無理なく付与される(だからこそ唯一の例外たる115話が、ね)…そしてその親睦深まった関係は一話だけに留まらず、それ以降も些細な描写でも一貫し続けるのだ。ここの徹底っぷりがマジですごい。定期的に言及してるが今作が掲載されていた月刊コロコロコミックはメイン読者が趣味の移り変わり早い&購入できる号も親に左右されがちで話が歯抜けななりやすい小学生男子を想定している(実際に「サタンが出てくるとこまで読んでた」など検索でヒットしたりした)そんな読者の入れ替わり激しい雑誌にて一話完結の面白さは当然必須として、連綿に紡がれる積み重ねた描写をウリにしてるのは自分の中のコロコロの概念を覆すほどに衝撃的だった……
こういう小さな一コマなレベルでも感じ取れる物語の、キャラクターの繋がり……それを10年ずっと丁寧に描き続け維持してきたからこそメイン以外のサブキャラも強いキャラクター性が生まれ、彼ら含む5年2組や6年2組としての“絆”になり56話や63話に116話そしてウソ&真最終回などの各組の集大成が素晴らしい感動を呼び起こすのだ。作者が完結記念インタビューにて「『こいつ何のためにいるんだろ?』みたいな悲しい気持ちにさせるキャラを作らない」と言及してるのに自分は涙を流したほどだ。これを読んでる方々の中にも(天子ちゃん番崎くんという主要キャラは殿堂入りとして)お気に入りの生徒がいるのではないだろうか……ちなみに俺は三白彩菜。
とまぁこうは言ったが、どうしても5年2組&6年2組内にてメイン回を描かれなかったキャラクターがいたのも事実っちゃあ事実である。贅沢な要望だがその子たちが活躍する話も見たかったなぁ〜とも思ったりしてしまう。例えば5年2組で唯一メイン回がなかった流清美ちゃん(56話の地獄学級会の目撃者だったなと改めて見たら貴重な天ちゃん呼びする子だった)とか……同じくメイン回が無かった6年2組の和花椿(のどやか つばき)ちゃんはエイプリルフール企画の返答にて「実家のパン屋が迷惑系ユーチューバーに襲撃される話とか考えてた」と言及されてたし。
とまあこういう形で毎年エイプリルフールにて読者質問返答&イラストリクエストコーナーをTwitterアカウントで開催しており、本編にて描ききれなかった部分にまさかの補填される場合もあったりする。改めて作者がキャラクターを大切にしてるんだなと再確認する。自分も来年あたりなんらかの質問をしようかなと思ってる次第だ……(追記)流石にカシバトルが週刊に移行して忙しくなったから無かったね……でも見たいものいっぱい見れたし…
・人ならざる存在が人間に出会い、そして変わってゆくドラマの完成度の高さ〜
続いてはこれ。人間同士の諍いがあれば、それを第三者として覗き込むポジション…いわば人外枠が織り成す縦軸の物語も今作の魅力だ。ユーリィにサタンにナナシノにネクスト、その流れをあえてズラした人間の魔男そして最後に待ち受ける元人間の邪仏……各々が現世の人間に抱えるポリシーを持ち、そのことごとくが人間でない立ち位置故に培われた特異的な信条……それらもまた章の終盤にて判明する、彼ら人ならざる者だからこそ経験してしまった悲哀などが含まれていたのだった。
それぞれの名を冠した長編として感想に書いてきたように、彼らが人間に対し抱く気持ちが現世の人間たちに触れ、描かれる人間の可能性と共に抱え込んでいた拗らせが溶けていき辿り着くラストはまさに感動そのものであり………そしてそれらは日常回で善悪共に併せ持つ人間というのを常に描かれたからこその説得力を持つものだった。
そしてそんな人の枠を超えた存在達の中で最も変わったのと言えば我らが主人公ゴクオーくんであろう。全話見た今となってはもはや人類史の分岐点として未来永劫に語り継がれてもおかしくないまでになってしまった“アレ”こと“おもしれーウソ”と出会い、彼もそこから劇的に変わっていった……
作者も物語が進む内に少しずつ彼も変わっていくことを言及していたが、まさしくこのゴクオーくんの変化こそがそれである。そして現世で気付いたことがあるからこそ、かつてサタンやナナシノの気持ちを推し量らずに強いてしまった過ちを謝ることができたのだ……
人ならざるもの同士でも現世に住まう人間のように時に傷つけ合い、そして現世の人間のように和解し“絆”を紡ぎ合えるのだ。しかし最後に唯一それが成されなかった存在もいる……最後の敵として対峙した元人間である人ならざる者と化した存在・邪仏だ。彼は絆が生まれる可能性も含む人々の衝突なき平坦なる平和な世界を欲するために、自分自身にも存在しただろう“絆”をちぎり捨てた……ゴクオーとジュウオウとのもだ。彼はその積み重ねた絆を信用支配の術への下準備のためのウソと言った………しかし自分は考えてしまう、たとえウソから始まった絆でも、共に過ごし築いた楽しき時間は真実なのではないかと。それがウソならば、なぜ同じように彼のことをウソ臭いと心からは信用してなかったゴクオーは裏切られた後に、罪の有無関わらず舌を抜き本音を吐かせるまで疑り深くなってしまったのか?ジュウオウを失ったからだけなのだろうか?100ページに渡って描かれた真最終回においても、サトリ含めた彼らの抱えてた気持ちの深層にまでは追及されなかった……
このように振り返ってみた一話完結メインの人間サイドと長編にて綴られる人外サイドそれぞれの物語、双方共に今作を支える要点であったと再認識する。そしてなにより忘れちゃならたい今作の要、ゴクオーくんと……
・「ゴク天はとんでもないぞ」はとんでもないにも程があった
やっぱりこれだよな?な!閻魔大王の側近だったという逸話もある小野篁から名を捩られた、男子児童がメイン読者である月刊コロコロコミックにおいて主人公の隣に並びメインを張るのはまさかのごく普通の女の子という特異的存在・小野天子!当初はイレギュラー的な部分もありやっぱり不安もあったが「今作は人間ドラマを描こうと決めていたので老若男女は必ず出したい」という意気込みで出されたのだ!実際にクラスの女の子が事件起こすとなると解決側が男子2人コンビ(名前からして5話の高村国助くんも候補だったのかな)だとトゲが立っちゃうかもしれないし英断だったと自分は思う…そんな読者に受け入れられるかどうかも賭けめいた部分もあった彼女だが……人間が心の弱さから事件を起こしてしまう今作おいて普通の女の子ながらも決して逆境に負けない真なる心の強さを持ち合わせてるので読者に尊敬の念を与える、今作を語る上で欠かせない魅力的なキャラクターであった。
見た目はどちらかというと素朴でクラス内でもおとなしい性格の子に分類される(面倒見のいい尾局さんが比較的そばにいがちだったのリアルだった)この小野天子、まさしく読者のほぼ100%が幸せになってほしいと願うレベルだろのいい子だった(普通こういう戦闘面においては無力なヒロインって一部の読者から役立たずうんたらで嫌われる場合もあるけどそういう意見は全く見なかった。まぁ仮にいてもサタ公も同じ気持ちだもんな…で片付くが)こんなん言うとアレやがユリ太郎が天使化という歪んだ形で護ろうとした気持ちも分かるもん。でも天子ちゃんは『人間』だからなの。時に現世に蔓延る悪意に負けそうになるのをウソついてでも耐える強さがあるからいいし、それこそ自分に対して悪意を向けた者だろうと以前に受けた恩を忘れてないと助ける優しさもある、まさしく現世で生きる人間だからこそなんだよ。
こんな『人間』と、なによりその人間がつく“おもしれーウソ”と出会ってしまった初代閻魔大王・地獄王。ウソ大好きでしょっちゅうからかってくる男の子、そしてウソが苦手でからかい甲斐ある女の子……何も起きないはずが普通なら何も起きねーよだってコロコロコミックだし。そういう…こう……恋愛に興味持ったらコロコロ卒業なのは有名な話だし、烈&豪や怪盗ジョーカーみたいな続編として後日談で子孫が出てくるのはあるっちゃあるけどそこにまで至る経緯までは深く描かれないものだし、だからこそ ぷにる がコロコロ初のラブコメと銘打たれるものだ。そう、上で語ったように人ならざる者と人間の関係の、今作が最初から最後まで描き続け積み重ねてきた紡ぎ生まれる“絆”の代表なだけであって………
……ん?いやいやいやこれはそうじゃない、そういうのじゃない。でもさ……全て読んだ上で改めて思うのよ、ゴクオーくん天子ちゃんのこと好きすぎじゃね?と。まぁ好きになるのも分かる。だって何万年以上も生きてる自分の人間に対する価値観を変えてくれた偉大なる存在だもん。いやでも、これは現世の人間への尊敬から生じる愛にさらに「友愛」に分類されるものが追加されてるやつよ。フィリアってヤツ。あくまで最高の友としてであって……
………うすうすは勘付いていた。ゴクオーくん、アンタは小学生の女の子に対して友愛を超える“そういう感情”を抱いてへんか?いやこれは流石に他の読者方々と解釈違いになるかもしれないし……なによりゴクオーくん本人からは決してそういう言葉は口にしない。彼はね、なんだかんだで齢数万年以上生きる人の概念を超えた神じみた存在だし、なにより罪人の魂を裁く閻魔大王としてだったりサタンやナナシノにしでかした過ちを反省してか言葉や行動につく責任の重みについては人一倍強いの。いつもあんなウソばっかついてるけどそーゆー真面目な所は一線引いてるの。天子ちゃんはあくまで人間として生きてほしいので彼女の今後の人生を大いに左右しちゃうような感情は彼女に対しては決して見せないのだ……まぁ我々読者はあの子には見せない部分も覗けちゃうんですがね
この魔男へのやつとか究極の嘘の際の夫婦発言とか最後の最後にやってのけたコロコロでお出しできる限りの接吻も年長者としての矜持というか配慮を感じられる(でも真最終回と入れ代わりで新連載した漫画はコロコロだろうとやりやがった。やればできるんやな…比較対象これでいいのか?)現世に生きる存在の枠から外れた超越者にして観測者、そんなちょっと(どころじゃないが)大人な彼が残した人間の少女への“愛”……
じゃあ一方で天子ちゃんのほうは?自分は正直なところ天子ちゃんはまだそういう感情を抱くというか認識するような所まではなってないんじゃないかな〜とは思うんすよ。もちろん三白さんとか見てるしそういう感情はあるというのは知ってるけど自分では……
は。は。は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?はあ〜〜〜〜?ちょ……ちょちょ待て吉もと先生それマ!?なの?えっじゃあ真最終回の「大好きだよ。」はその色々な感情の延長にあるってコト確定やん!?これ高校生とかになって(あっこの感情って恋だったんだな…)と気付くタイプの感情じゃん!!まぁそもそもがゴクオーくん、コロコロの主人公らしいカッコよさとコロコロの主人公を超えたスパダリっぷりを両立した稀有なキャラクターだもんな。身近にいて大切にされて惚れないワケないわ…
それでも天子ちゃんだってこの話でユーリィに言われたように住む世界が違うのは事実だし、地獄長との面談で王として地獄の民に慕われ愛されてるのも知っている。いつか別れが訪れるのも分かっている。だから記憶が消える最後の最後に本当の気持ちを伝えたのだ。そして石豆くんとナナシノのように、消されようとも心の中に残り続ける時間が………………とか思ってたらあのラストだよ!!中学生いわば思春期突入する時期にこの想いを引き継いでるってさぁ…………それに初代閻魔大王は責任感はめちゃくちゃ強い…………もうこれはさ、これはさ………どうなっちゃうんだろうなぁ〜〜〜〜〜〜いやほんとどうすんねん初代、おい初代!!初代ぃぃぃぃ!!!!
ゴク天。オタク特有のカップリング名称を用いるならばまさしくゴク天と呼ばれるふたり。それは人間と人ならざる者が出会い始まった神話のような物語であり、自分と違う他人が互いに大切に想い合う友達としての物語であり……それでいてコロコロにてさりげなくお出しされた男女としての物語であろう。これコロコロで出したの本当にすげぇな……これもまた1話から10年間ずっと描き続けてきたからこそである。そしてふたりの物語はきっとこれからも…………
・総評の総評〜カシバトルもよろしくね!〜
「この作品に出会えて本当によかった」心からそう思える作品だった。ダークで怖い魅力あるヒーロー、ウソ暴きミステリー、人に真正面から向き合った人間ドラマ、人外と人間が互いに影響し合う縦軸ストーリー、そして隠し味のように添えられたちょっとオトナな要素……自分の持つコロコロコミックの固定観念を打ち砕き、それでいて最初から最後までずっと面白かった奇跡のような漫画だった……間違いなく自分の人生に少なからず影響を与えている気がする。そのくらいすごかったのだ。
そしてこの漫画を読むキッカケを作ってくれた週刊コロコロコミック様や以前から面白いぞと勧めていたフォロワーのV氏、そして何より今作を生み出してくれた吉もと誠先生(そして彼を支えてくれた編集の方々も!)に感謝したい。本当に、本当にありがとうございます………
こんな大作を描き終えた吉もと先生は……決して燃え尽きたりなどしていなかった。依然その炎は熱く輝くように燃え盛る、現在週刊コロコロコミックにて連載中の『カシバトル』として。
それではそろそろ8度に渡って書いた『ウソツキ!ゴクオーくん』の感想記事をこれにて締めさせていただきます。これを機に他のコロコロコミック作品に興味を持ったのでなんか違う作品のプレゼンを書くかもしれない……それでは!