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【読書記録】弟の戦争

おすすめ度 ★★★★☆

中学校のおすすめ読書100選に載ってた本。
毎度、子ども用に借りたのに自分が読んでるシリーズだ。
読み応えがあって、しっかり考えさせられる作品だった。

人の気持ちを読み取りすぎて憑依されたようになってしまう弟が、湾岸戦争が始まった日に「自分はイラク軍の少年兵だ」と言い出す…というミステリーのようなホラーのような社会派のような小説で、物語の勢いが良くて一気に読んだ。

迫力がある文章と戦争のリアルさ

兄「ぼく」の話し言葉で語られていて、独白で始まるドキュメンタリー映画を見ているような感じ。
「今思うと、この日が僕たち家族の過ごした最後の幸せな1日だった。」
「あの事件が起きたのはそんな時だった。」
みたいな、続きが気になる書き方は、古典的だけどまんまと読んじゃうよね。
時々描写が細かすぎて退屈なところはあるけど(特にラグビー。ラグビーがわからないとサッパリ)、文章の迫力と緩急がしっかりしてるのでハラハラざわざわしながら読めると思う。

弟は、どうやら本当にイラク兵の少年に乗っ取られていた(憑依していた?)のだけど、謎ははっきりとは明かされない。
兄がその事件を通して、今までテレビの向こうにしかなかった戦争のリアルな面を知ってしまう。
おそらくそれが筆者が最も伝えたかったところなのだろう。

両親の視点でみちゃう

でも、私はちょっとモヤモヤした。それは、両親が弟に起きたことを知らないままだったから。毎度、子ども向けの本を親の視点で見ちゃうシリーズである。

母親は戦争反対論者で慈善事業も色々やっている。父親は逆に湾岸戦争が始まったことを歓迎している。対照的だ。

「僕らの親の世代が第二次大戦をどんなふうに乗り切ったか、お前だって知ってるだろう。親父が朝鮮半島へ出征した時だって、おふくろは顔色ひとつ変えなかったぞ。泣く時は隠れて泣いたもんだ、隠れて」

「あなたたち男はみんな正気じゃないわ。自分がいかなきゃならないとしたらどうなの。トムだったらどうするのよ」
父さんの顔が石のように強張った。
「喜んで務めを果たすつもりだ」父さんはキッパリと言い切った。
「おれが臆病だとでも言いたいのか」

なんだか、古今東西こういう会話ってあるんだなと思わされる。この父親はラグビー選手で、THE筋肉、体育会系イメージだ。レガシーなアメリカのダディという感じが言動から伝わってくる。偏見です。
母親は、戦争の悲惨さを語り、嘆くけれど、それもどこかファンタジーというか、理想を語りすぎている感がある。私もかぶるところがある。
ある意味、二人とも無邪気で、弟の身に起きていること、イラクで起きていることを知らない。

そして、それぞれに自分の無力さに打ちのめされて落ち込むが、事件の真相を知って反省するような描写はない。
母親に自分を重ねていた私は、「えぇ〜教えてくれないの?教えてくれたら私だって信じたのに〜!」と思ってモヤモヤした。
でも、こうして書いてみるとあえて真相を大人に知らせなかったのだと思う。知らなくても十分二人は打ちのめされていたし、家族のあり方を見つめ直したんだろう。

母さんと父さんは前よりもずっと頻繁に手を握り合うようになった。我が家はぎゅっとまとまって、まるで小さな島みたいだ。みんな一緒で元気なら、それで誰もが幸せなのだ。

主人公の「ぼく」は一人で事実と向き合い、考えて成長していく。そういう物語なんだと思う。

まだ気にかけているのは、ぼく一人なんだろうか。学校でみんなの話を聞いていると、半分はもう湾岸戦争のことなんか忘れてしまっている。残りの半分は、フセインがまた何かバカなことをしでかさないかなぁ、そしたら今度こそこてんぱんに爆撃して息の根を止めてやるのに、なんて言ってる。

今、ウクライナやガザで起きていることを本当に知っているのは、その場にいる人たちでしかない。できることは少ないし、知ったかぶりで論じることもできない。
せめて、気にかけていたい。

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