
【読書記録】やりなおし世界文学
おすすめ度 ★★★★★
noteをプラプラ巡っていて見つけたこちらの記事↓で、面白そうだと思って読んでみた。
図書館で借りたら結構な厚さで、開くと1ページ2段構えになっていて、ボリュームにちょっとのけぞる。ただ短編集で、どれもすごくキレの良い面白さなので、スキマ時間に1編ずつ、おつまみしながら読める。
津村記久子さんの小説には去年出会って衝撃を受けたのだけど、小説じゃなくてもやっぱり魅力的だった。
読んでみたい本に付箋を付けていたら、付箋だらけになってしまった。
なんという津村マジック。
ただ本を紹介するのとはぜんぜん違う。切り口の斬新さ、例え話の突拍子もなさ、息継ぎなしで語っている様子が伝わる疾走感MAXな文章。あー何なのこの人。天才すぎる。好き。
ここからは私の貧相な語彙力では伝えられないので、引用しながら津村さんマジックを伝えたい。
*
うまい・アホ・ていねい、と要素をきっちり揃えてきた、おもしろいお話のお手本のような短編集である。
なにその牛丼屋のような3要素。読んでみたくなる。というか貴方の文章もまさに「うまい・アホ・ていねい」が揃っているんだが。
アーサー・ミラーすごいな天才だなおい、と完全に火事場にパンツ一丁で駆けつけてしまった人がごとく圧倒されながら読んでいたのたけれども
いやわからんわからん。どういう圧倒のされ方。
普段は田舎で静かに暮らしてるんだけれども、その実周囲の人を驚異的な勘と知力で持って観察し、一度話し始めたら止まらず、しかもその内容はそのへんで起こっているようなことにすぎないのに、語り口があまりにおもしろいためいくらでも聞けてしまうような話をする、法事だけで会う親戚の姉ちゃんのような小説である。
息継ぎなし感が伝わるだろうか。全然そんな親戚いないんだけど、なるほどそういう姉ちゃん像が浮かぶ。
*
有名な作品でも、津村さんはやりたい放題だ。
マキャヴェリの「君主論」では、マキャヴェリを「現代ならテレビやなんかの辛辣なコメンテーターとして人気が出てたんじゃないかと思う」と評してみたり、小難しいマキャヴェリの長文を「要は『なめられんな』ということだと思う」と一言でまとめちゃっている。
その一方で、マキャヴェリがなぜこんなことを書いたのか、彼の人生を鑑みて分析していたり、それがまた抜群になるほど感があって、圧倒される。パンツ一丁の気分で圧倒される。
*
92の作品の中で、私が読んだことがあるのは「夜と霧」だけだった。(どんだけ海外文学に疎いのか)
そして実際の作品を読んだときよりも感動してしまった。
まずタイトルが「夜と霧の間で夕焼けは輝く」と超かっこいい。6-7ページ程度の短さなのに、本筋もわかるし、本質も分かる。なんというか、作品の大事なところが、ぎゅぎゅっと超濃厚に凝縮されている感じなのだ。
ちょっと心配していたのが、津村さんの文がとても魅力的なので、実際の作品を見たら「津村さんの書いてることのほうが面白かったな」ということにならんかなというところだったのだけど、どうもそうではなさそう。
やりたい放題書いているだけではなく、余すところなく作品の良さも伝えている、ええもう、どういう天才なの津村記久子さん。好き。(あとで自分の読書感想文を読んだら、違うそうじゃない感がすごくてちょっと落ち込んだ。)
*
挙げていくとキリがないのだけど、ひとまず読みたい作品リストも自分用に残しておく。
「アシェンデン 英国秘密情報部員の手記」サマセット・モーム
登場人物の様相を一瞬で読者に捕まえさせる文章が素晴らしい、らしい。
「スポンサーから一言」フレドリック・ブラウン
うまい・アホ・ていねいの短編集。SFは苦手なんだけど読んでみたい。
「新編 悪魔の辞典」アンブローズ・ビアス
的を射たこというけど愚痴が止まらないおっさんがかいた悪口辞典らしい。なにそれ。
「山月記・李陵 他九篇」中島敦
津村さんが読むたび泣き崩れそうになるほど好きらしい。「狼疾記」は「もはや、いいから、もう良いから敦!落ち着いて敦!」と評されている。気になる。
「ワインズバーグ・オハイオ」シャーウッド・アンダーソン
短編好きなので。「品のよさ」という作品が見たい。
「人間ぎらい」モリエール
人間なんてこんなもんなんだから、別に無理に好きにならなくてもいい、という言葉が気に入った。凡庸さと不誠実さ。
「オー・ヘンリー傑作選」オー・ヘンリー
最小限の登場人物と物語の最大の起伏のバランスがよいらしい。手短に鮮やかに人を描き、活かす技術を津村さんが絶賛していたので、読む。
*
だいたい常に読みたい本が10冊そこらあるのに、こんなに増やしてどうすんねんと言う気がしてきた。
そして津村さんの作品ももっと見たくなった。とても脳みそが足りない。どうすんねん。